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世界の守り人?それより俺の嫁可愛いですよ。

作者: 飯栗

俺の妻はとても美しい。

いや、美しいというよりは可愛らしいか?

まあ、とりあえず俺に見合うような女性ではない。


つるりとした色白の肌。

大きな黒い瞳はいつも楽しげに輝き、笑っているわけではない時でも明るい印象が与えられる。

いつも後ろの高いところで束ねている黒髪は太陽の光を浴びて、艶やかに光る。

その黒髪が揺れるたびに露わになるのは白いうなじ。


目が奪われる?

それは仕方ない。


が、許さん。


第一に彼女がうなじをちゃんと見せてくれると思うか?

あれは視線を感じたらすぐに振り向く。

そしてにっこり笑う。


たとえそれがキモデブ豚男であっても。

たとえそれが全身黒づくめローブのしゃくれ男であっても。


どうだ?

いい女だろ?


ただ警戒心が足りないんだよ、まあいいけど。



あいつの魅力はそれだけではない。

身体も素晴らしいのだ。


いや、夜の意味じゃなくて、均整が取れているみたいな、そんな意味で。


見てみろあのくびれを。


あれな、服脱いだらシックスパックあるんだぞ?


見てみろあの細いようで健康的な脚を。


あそこには恐るべき脚力が込められている。

前外壁を助走なしで飛び越えていた。




ああ、何故あいつは俺を選んだんだろう。

俺よりももっと良い相手がいただろうに……


いや、他に男つくったりしたらそいつごと殺しにいくけどさ。


あ、今くしゃみした。


おいくしゃみした後の手を服で拭くな汚いだろ。

てへぺろとか言って舌出しても汚いもんは汚いからな。

こらすり寄ってくるな幸せだから別に良いけど。


「あ、ちょっと出掛けてくる」


彼女が急にぴーんと背筋を伸ばして言った。

唇が楽しげに弧を描く。

興奮しているのか、頰が少し赤みを帯びた。


「なんか西の大陸にドラゴン出て対応できないんだって」


へー、ドラゴン出たんだ。

気をつけてね。

西の大陸って馬車と船の乗り換えいっぱいして2〜3ヶ月掛けて行くところだっけ?


「夕飯までには帰るから待っててね」


彼女は白い歯を見せてにっと笑うと、どこからともなく現れた真っ黒なユニコーンに乗った。


あれ、ユニコーンって聖獣だよな?

黒い個体もいたんだな。


それにしても、流石俺の嫁だ。

聖獣まで虜にするなんて。


「あ、大好きだよダーリン」


ダーリンというのは、彼女がよく使う単語だ。

彼女の自国語で彼氏って意味らしい。


んー、この世界は神が創った世界だから全て同じ言語なんだけどな。

彼女は謎だらけだ。


おっと、子供が泣き出した。

ママがいなくなって寂しいのかなー?


あっぷっぷー。


まて、そんなに激しく泣かないでくれ。

ごめんママのほうが好きだよな、パパじゃ嫌だよな、今パパの胸を見たら蜂さんが喜んで巣を作りだしそうだ。


「あ、そうだ。洗濯物やっといてくれない?くそ、こんな時に洗濯機さえあれば…!」


いや、お前まだいたのか。

ユニコーンに乗って消えたんじゃなかったのかよ。

ドラゴン暴れてるんだろ?

子供は俺が見といてやるから。


「洗濯物は?」


あ、洗濯物も。


彼女はとうとう行ってしまった。

黒いユニコーンを残して、自力で空を駆けていった。


あれ、ユニコーン呆然としてるけどこれ良いのか?


………うむ。


あ、ごめんママまた行ったわ。

パパと…あ、ユニコーンの方がいいんだな?

おいそこのユニコーン、うちの子泣かせたら殺すぞ。

呆然としてる暇あったらうちの子と遊べ。


念じたらユニコーンはゆっくりと我が子に近寄って行った。

我が子は、ユニコーンに両手を伸ばす。

ユニコーンは鼻の先をくすぐるように我が子に押し付けた。


ああ、なんて俺の妻は完璧なんだ。

こんなユニコーンを育て上げるなんて。


育てたかどうかは知らないけど。


たまに変な単語を言いはするけど、可愛いし、優しいし、もう、おれは、もう……!


あ、そう言えばあいつが前探していたなんか変な記号が書かれている本、見つかったの言い忘れてた。

『コクゴノキョウカショ』だっけ?


「あーうーあー」


おっと子供が俺を呼んでいる。

ん?

俺を呼んでいるのか?

我が子よ、俺を呼んでいるのか?

生まれて初めてじゃないか?


「マアー?」


おっと、舌足らずな声でママを呼んでいるんだな。

俺はママじゃないぞ、可愛い子。


そうだ、洗濯物を取り込まないと。

あ、妖精たちが頑張って入れてくれている。


クッソ可愛いなあ。


お、たたんでくれるのか?

器用だな、可愛いな、こいつたちは俺に懐いてくれている……。


いや、子供はもちろん可愛いし特別だぞ?


そこらへんは揺るがないから安心してくれ。


そうこうしているうちにもう日が沈み始めている。

もうそろそろ帰ってくるかな。

あいつが作っていたサラダを少し手伝っておこうか。


あれ、これは紫?青?

………、まあ、食べれないことはないだろうから大丈夫だろう。

俺は激マズ料理よりも悲しい顔をした妻の方が怖い。


そう思いながらサラダに『自家製ドレッシング』をかけると、ふいに横から手が伸びてきた。


いつの間に帰ってきたんだ、声くらいかけろよ。

そんな可愛い顔して謝っても無駄だぞ。

許すけど。


あと、なんでそんなに血まみれなの。

水魔法で綺麗にしてくるくらいできただろ……。


彼女はさっきまでの興奮が残っているようで、いつもは黒い瞳が青みがかって見えた。


彼女は感情が高ぶると瞳の色が変わる。


あー、怖い怖い。


早く落ち着いてくれ、俺が危険だこれは。


いや、悪口なんか言ってないって。

ほんとだからな?


そういえば、なんでこいつはこんなに凄いやつなのに誰も訪ねてこないんだろう?


いや、友達はたまに来るけど。

なんていうか、お偉いさんみたいな?


前聞いてみたら、はぐらかされたからもう聞かないけど。


いや、何もないよ。

これもう食べていいのか?


ああ、分かった。

離乳食か。

もうそんな時期なんだな。


成長が感じられるぜ。


おお、もういいんだな。


せーの。


「いただきます」


あー、さほど美味しいわけではない夜ご飯。

サラダはいたって普通の味だった。

なのにこんなに暖かいのは何でだろう。


え?作りたてだからって?

お前ドラゴン討伐しに行ってただろ。


あ、そうだ。

明日は依頼入ってるから。

うん、家いない。


彼女は大きな目を細めて笑った。


「明日って結婚記念日だよね?」


おっと、それはそれは……。

いや、忘れてた訳じゃないんだ。

違約金くらい払って来るさ。

だからそんなに怒るなって可愛い顔が台無しだぞ。

いや、その顔も可愛いけど。


……もう寝るのか?

いや、別に。


おやすみ我が子。

おやすみ我が妻。


俺も一緒に寝ようかな。

いや、押しつぶさねーよ。


ああ、おやすみ。

また明日。


ーーー数分前ーーー


「あんな巨大なドラゴンを簡単に討伐出来るのはこの方くらいだ………」

「しかし、死ぬまでに世界の守り人と呼ばれる方にお会いできるとは」

「なんと凛々しい、なんと美しい、まさに神に選ばれた英雄……」


西の大陸の人々は突然に現れた“世界の守り人”と呼ばれる黒髪蒼眼の女性を畏怖の念を込めて遠巻きに眺めていた。


「英雄様、どうか貴方様に御礼をする機会をわたくしめに下さいませんか?」


黒髪蒼眼の英雄は無謀にもすり寄ってきた商人風の男に、にっこりと笑いかけた。


「そんな大したことはしておりません。貴方に日々の小さな幸せがあらんことを」


“世界の守り人”と呼ばれる謎だらけの女性は、今日も大好きな旦那の元へ、大好きな子供の元へ、黄昏時を駆けていく。


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