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「シド、今すぐ私を連れてって。」
「かしこまりました。
参りました時以上の速さで、ご案内させていただきます。」
「おい、ダメだって言ってるだろっ。」
「良いじゃない。
行ってはいけないってキマリがあるわけじゃないし、実際はねぇ。」
「がぁぁ、それ以上言うなよ。
頼むから、そう言うことを軽々しく言わんでくれ。」
「あら、ごめんなさい。
でも連れて行ってくれるんだし、何より子供がいる以上、2人はしっかり話し合っておくべきだと思うわ。」
「水流さん、こういう時にだけ正論を言うんじゃねぇ。
それに、今夜なんだろ。
最後の別れができなくてもいいのかよっ。」
「そうねぇ。
だから、早く行って、早く帰って来てね。」
「こっちとそっちの時間の流れって違うの?」
「変わらないと思います。
あくまで体感でございますが。」
「なら、早く行こう。
勿論、夜までには送ってくれるよね。」
「ひっ、熱いです。
身体の内がジクジクします。」
「内蔵に少しずつ熱を加えてみた・・・加熱?」
「送ります。
何が起ころうと、必ずお送りします。
誓います。
だから、やめて、やめてくださいっっっ。」
「悪夢だ。」
「じゃじゃ、行きましょうっ。
母様は僕の背中に乗ってくださいね。」
「背中・・・は、無理かな。」
ロキの小さな背中を向けられても、どうしようもない。
そこにおぶされと?
いやいや、そんな期待に満ちた目で見ないで。
どうするべきかと悩んでいると、突然、ロキのお腹が膨れだした。
服が破れ、身体全体がどんどん大きくなっていく。
肌もあんなに真っ白かったのに、今や緑・・・苔色みたいだし、鱗も見えだした。
なんかゴツゴツしてそう。
顔は・・・げほん、げほん。
最後とばかりに、ちょっとお尻を突き出して出てきたのは、まぁ、立派なしっぽ。
うん、はい、これはどう見ても・・・
「龍・・・かな。」
「はい、我々、地界魔は皆、龍という、もう1つの形態になれるのでございます。」
シドを見ると、なるほど立派な龍だ。
ロキより、ふたまわりほど大きい。
お店の天井が、かなり高くて助かった。
横は・・・かなりギリギリだけど。
ってか私、龍を産んだのか。
いや、産んだ覚えは無いけど、無くて良かったのかも。
「余談ではございますが、産まれる時は大抵、人型で産まれ、成長過程で2つ目の形態をとれるようになります。」
「大抵・・・じゃあ、龍で産まれる子も・・・。」
「少ないですが、おります。」
本当か、どっちだ?
どっちで産んだんだ、私っっっ。
「まぁ、龍の赤ちゃんも見てみたかったわぁ。」
セーフ、セーフ。
どうやら、その一線は、越えなかったらしい。
「とにかくっっっ、行くよ。」
ロキの肌に触ると、見た目通り、硬かったが、スベスベしてるし、ひんやりしてて気持ちがいい。
なんとか首と肩の間らしき窪みに座ると、後ろで盛大にしっぽを動かす音がする。
嬉しいのかな?
でも、シドに当たってるけど。
あっ、一発、城崎に当たった。
「って、城崎も行くの?」
「仕方ねぇじゃねぇか。
お嬢が行くなら、俺はお守り役だ。
行ったきり、帰ってこないじゃ、シャレになんねぇからな。」
シドによじ登った城崎の顔には“面倒”の2文字がありありと浮かんでいる。
「では、参ります。」
シドが何か気を発した先の景色が歪む。
来たときと同じ、円形の入り口が現れた。
その先は、暗い。
光を通さない闇が広がっている。
「神流様、城崎さん、我等から、絶対に離れないでください。
この常の闇では、離れると別々の場所に出てしまうこともございますので。」
「お嬢ぉぉぉぉ、やっぱり、やめようぜぇぇぇぇぇ。」
「おばあちゃん、ちゃんと帰ってくるから、待ってて。」
「気をつけて行ってらっしゃい。
ちゃんと自分の気持ちをぶつけてくるのよ。」
「俺は、無視かよぉぉぉぉぉぉぉ。」
奴に会いに行く。
聞きたいことも言いたいこともある。
でも、まずは・・・。