1/29
プロローグ
どうして、こうなったのだろう?
失っていた記憶を取り戻して、お祖母ちゃんの秘密を知って、産んだ記憶のない息子の背に乗って、奴に会いに行く。
ここ数時間の出来事がフラッシュバックする。
あぁ、腹が立つ。
全ては奴のせいだ。
奴が全て悪い。
あの嫌みなくらい小綺麗な顔に一発入れてやる。
彼女は気づいていない。
両手を握り締めて(あれ、一発じゃなくね?)邪悪な笑みを浮かべていることに。
「母様・・・」
「お静かに、ロキ様。
声をたててはなりません。」
彼女の息子より、やや後ろにて飛走していた龍が囁いた。
「今、話し掛けますと大変、危険です。」
言い切る龍の瞳は真剣であり、色を変える事のない硬い鱗で覆われた皮膚は、青ざめているような。
そして、その龍の背に乗っている男もまた、これでもかと言うくらい顔を上下させて同意を示す。
その男の目が言っている。
「頼むから、お嬢を刺激しないでくれ。
俺は、まだ死にたくない。」
男の強烈な声ならぬ叫びに皆が同意を示し、それ以降、耐え難い程の重圧とともに沈黙が続いた。