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六条冬馬という男

「いい加減にしろッッまともな職にも就かないで、ギャンブルで借金するとはどうゆう事だッッお前の面倒なんざ見切れない!このままじゃお前のせいで一家が潰れちまうッッ!とっとと出て行けッッこのバカ野郎ッッッ」

「言われなくてもこんな家出て行くぜ糞親父ッッ精々俺より長生きしろよなぁ」

「冬馬ッッアンタ出て行くって何処に行くのよ!?」

「うるせーなお袋には関係ねぇだろ!」



六条冬馬25歳。只今無職で学歴は高校中退。バイトは長くて3カ月持てばいい方。資格なんざ免許すらない。ギャンブルで金をつぎ込み、足りなくなれば家の財布から拝借する。友達は金を返さない冬馬に愛想を尽かした。金が無ければ誰でも借りれる便利な世の中、冬馬は消費者金融をハシゴ借りしてせっせと借金をこしらえた。雪だるま方式で膨れたその額300万。ここで懲りてせっせと働ければいいのだが、冬馬は違う。頭に浮かぶのは言い訳ばかり。「なんで勝てねーんだ…よしあと2万あれば取り返せる」「まだ分からねー!最後の大逆転があるかもしれない!」「糞ッッなんで俺ばっかり負けんだよ!確率は平等な筈だッッ」



残念ながらギャンブルはドラマのように都合良くはいかない。汗水垂らして死にもの狂いで稼いだ10万も、お金持ちがチップのように出す10万も同じ価値なのだ。同じ価値でギャンブルするのだから、そこに賭ける金に違いは無いのだ。汗水垂らして稼いだ10万の方がギャンブルに勝ち、めでたく借金がチャラに!なんて展開ばっかりだったら、冬馬の様な人間はいない。そもそもギャンブルはほどほどに遊ぶべきなのだ。生活に必要な金まで賭けてしまう冬馬の様な人間は、残念ながらギャンブルで勝ち続けるのは不可能だろう。闇雲に金をかけて勝ち続けてる人も中にはいるだろうが、真似なんて出来ないのだから意味は無いのだ。



冬馬はそんなこんなで多額の借金が両親にバレてしまい、烈火の如く怒りだした父親に実家を追い出された。普通は反省して健全に真面目にやり直そうと考え直すキッカケなのだろうが、冬馬は自分が悪いとはこれっぽっちも思っていない。ギャンブルで勝ったら綺麗なお姉さまと遊べるお店にいったり、また派手に外食しては酒を浴びるように呑んだ。湯水の如く金を使い、また借金。そんな計画も何にもない欲望の塊のような男が、家を追い出されたくらいで一体それがどうゆう事なのか深く考えるワケない。実家の近くの公園のベンチで、冬馬は手持ちの荷物を確認していた。


「あ~うざってぇなぁ…煙草が2箱に携帯だろ?あと財布の中には2000円…風俗の名刺にパチンコ屋のメダル…おっ!ハンバーガーのクーポン!は期限切れかよ畜生ッッッッ」


冬馬は頭をかきむしりながら煙草に火をつけた。煙が空へとふわふわ昇る。行くあてなどあるわけない。頼れる友達もいない。


「パンパカパーン!住所不定無職25歳に進化した!」


自分で言ってて寒い。お茶の間のニュースに放送されそうだ。髭は清潔感皆無に伸びていて着ている服は上下ジャージ、ボサボサの髪の毛に虚ろな目つき。身長は無駄にデカい180cm体重は70キロ。おかげさまで高校時代は木偶の坊と罵られ、何をしたワケでも無いのにいじめられた。いじめられた理由は単純だ。デカくて目立ったからである。最初はからかいから始まり、何も言い返さない冬馬にクラスメイトの男子は調子にのった。自分よりデカい相手を言いたい放題罵倒でき、本人は何も言い返さない。罵詈雑言のサンドバッグの様であった。しかし、どんなに罵倒されても冬馬は言い返さないのである。それがまた面白くない連中からのいじめに拍車をかけた。冬馬が言い返さない理由は冬馬がクラスメイトを見下していたからだ。「こんな幼稚なヤツらに関わるのが学校のルールなら、家にいた方がマシだな。」そうして冬馬は高校を中退した。高校を中退してからはバイトやら日雇いやらで生活費や遊ぶ金を稼いでいた。しかしある時、バイト先の先輩にギャンブルを教わってしまい、冬馬の人生は狂ってしまったのだ。


「宝くじあたんねーかな…10枚だけ買ってみっか!」


この期に及んで、ギャンブルである。いっそ、その生き様には清々しい物がある。もちろん10枚買ったら所持金は0円だ。一枚200円の宝くじ、最高当選額は2億円だ。冬馬のギャンブルに対する行動力は素晴らしく、思い立ったら即行動だ。ベンチから立ち上がり近くの商店街に向かう。ちなみに冬馬の生涯最高当選額は1000円だ。その数十倍は既につぎ込んでいる事から、宝くじもギャンブルである事が伺える。歩く事5分お目当ての宝くじ売り場が見えてきた。


「ラッキークジ10枚ください。」

「はい。2000円ちょうどになります。」

「はい。」

「ありがとうございました」


これで住所不定無職無一文である。当の本人はまったく危機感なぞない。むしろ、何かドラマチックな一発逆転を夢みているのだから質が悪い


「ふふん…これは神が与えし俺の人生の分岐点だな。追い詰められた人間は凄まじいミラクルを起こせるハズッッッッこの為に今まで堕落した人生を耐え忍び、まさにこの時のターニングポイントに!人生の運を貯めに貯めといたのさッッッッ今の俺なら2億円を引けるッッッッ間違いない!!」


どの口がとはもはや言うまい。この男は反省もしなけりゃ後悔もしない。こんな性格故に、ダメ人間になってしまったのだ。神様も失笑レベルな手遅れ男。目の前に財布が落ちていたとするなら、迷わず中身を懐に入れるこの男にどの神様が微笑むというのか。


「よしッッとりあえず明日の当選発表までは公園で野宿だな。一日くらい平気だろ。」


こうして冬馬はゴミ箱から漁って調達した新聞紙に包まれ、公園の遊具の中で一夜を明かした。夕飯は商店街のパン屋からパンの耳を土下座して入手した。冬馬曰く、プライドは前世に置いてきたそうだ。


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