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実は彼女がいたそうです

 わたしは頬杖をつき、窓の外を眺めた。

 レーネを家に招いたのは昨日のこと。

 わたしはカミラとレーネと一緒に楽しい時間を過ごしたのだ。


 だが、問題はダミアンとレーネのことだ。

 ダミアンの問題は何も解決していない。

 まずはダミアンにどういう関係なのか聞く必要がある。


 ダミアンは教室の片隅で友人と談笑をしている。ドロテーとドミニク、デニスだ。

 彼は誰とでも分け隔てなく話すため、男女問わずに友人は多い。

 わたしも彼とは話をしたことも少なくない。

 同じクラスなら話しかけやすいものの、内緒話には適していない。

 恋愛の話をするにはかなり難しい。


 ダミアンに話すのを躊躇してしまうのは、ダミアンがクラウディアのせいで一時期学校に来なくなる時期があるというのもある。

 まだそのタイミングではないと思うが、聞き方には注意をしないといけない。

 あくまで噂で、実際のところどうだったのかレーネの立場では知ることはない。

 だだ、決して感情的にならないようにしないといけない。

 何か彼を呼び出すよい口実はないかと頭を悩ませているわたしの体に影がかかる。


 顔をあげるとレーネが立っていたのだ。彼女は肩まである髪を二つに結っている。


「あのね、昨日の宿題をおしえてほしいの。どうしても解けなくて」


 わたしは彼女のノートを受け取る。どうやら彼女が迷っていたのは数学で、わたしはその解き方を教えた。彼女はわたしの前の席に座ると、その解き方を実践していた。


「ありがとう。クラウディアはさすがだね」

「そんなことないよ」


 レーネはテキストを閉じる。彼女の視線がちらりとレーネに移る。


「ドロテーと仲良いよね」


 レーネが悲しそうにダミアンを見つめていた。


「ドロテーは誰とでも仲良いからね」


 ダミアンと話をしているドロテー=バシュは男三人の中に入っても普通に話すくらい、男女問わずに誰とでも話をする。彼女がダミアンと話をするのは決して珍しいことではなかった。亜麻色の髪を短く切りそろえているのに、その大人びた顔立ちのせいか、幼さは決して見えない。


「わたしもあんな風にダミアンと話をしたいな」


 そうレーネは悲しそうに微笑んだのだ。

 いつもなら話せるというが、あの女性とふたりでいるのを見たわたしにははいと言い出せなかった。

 何人かがテキストを手に教室から出て行く。


「そろそろ教室を移動しないとね」


 次は音楽の授業だ。

 わたしたちはテキストとノートを手に、教室を出た。

 だが、音楽室に続く校舎を渡った時、わたしはレーネの手に二冊のテキストが握られているのに気付く。


 わたしは思わず声をあげた。音楽のテキストは一、二の二冊あり、わたしは一の一冊しかもってきてなかったのだ。先生は一が終わるので、二を持ってくるようにこの前の授業で伝えていたのだ。


「わたし、テキストを忘れてきちゃった。先に教室に行っていて」

「わたしも言い忘れていてごめんね。ついていくよ」

「いいよ。すぐに戻ってくるから」


 わたしはそのまま教室へと戻る。

 教室の中にはほかの生徒がいて、わたしは自分のテキストを選ぶと、音楽室に行くことにした。その途中通りかかった理科室から声が聞こえた。わたしは思わず反応して開きっ放しになった扉から中を覗いた。聞こえてきたのはレーネとダミアンの声だったのだ。


 二人は窓辺で何かを語り合っている。

 レーネもダミアンの幸せそうに笑顔を浮かべている。

 ダミアンの手がレーネの髪に触れる。


「今日は結んできたんだね。可愛いよ」

「ありがとう」


 レーネは頬を赤らめている。

 ダミアンの手がレーネの頬を優しくなでる。

 レーネは頬を赤らめ、ダミアンを見つめていた。

 本当に学校でよくやるなとか、恋人でない相手からそんなことをされると問題になりそうだという突っ込みはおいておいて、二人は本当によい雰囲気だ。

 そんなダミアンがまさかあの女の子と付き合っているなんてことはないだろう。


 ダミアンは前のほうの席に行くと、筆箱を取りだした。今日の昼休み前の授業は理科室の授業だった。彼は筆箱を忘れ、レーネがついてきたんだろう。


「音楽室に行こうか」

「わたし、クラウディアを待っているの」

「そうか。二人は本当に仲がいいね」


 ダミアンは満面の笑みを浮かべると、レーネのもとを離れた。

 わたしは近くの曲がり角に隠れ、ダミアンが出て行くのを待った。

 一緒に音楽室にいってもよかったのに。

 わたしはレーネの性格をほほえましく思いながらも、理科室に行くとちょうどでてきたばかりのレーネに声をかけることにした。


 ダミアンはいったい何なんだろう。

 レーネを本当に好きなんだろか。

 好きでない子にあんなことしないとは思う。


 放課後、わたしは昇降口の外に出ると、短くため息をついた。

 よくわからなくなるだけだ。

 ただ、あの少女とダミアンがただ仲が良く、あの子が一方的にダミアンに惚れているという可能性もあるのだろうか。


 そのとき、わたしの目の前に一人の少女が立ちはだかる。

 ドロテーだ。


「今、帰り?」


 わたしは頷いた。


「レーネは?」

「今日は図書委員の仕事があるらしくて、先に帰ることになったの」

「そっか。一緒に帰らない?」

「いいよ。どうかしたの?」

「もう少し学校を離れてから」


 彼女はためらいがちに頷いた。

 わたしは彼女に世間話をすることもできずに、黙々と歩き続ける。

 彼女の足が止まったのは、五分ほど歩き、人気のない細い道に入ったときだった。


「今日、ずっとダミアンのことを見ていたよね。彼に気があるの?」

「そんなことはないよ」


 わたしが気になるのは、ダミアンが誰を好きなのかということだけだ。

 まだ彼とあの女の子の関係を判明していない。そのうえ、レーネにもああいう態度を取っている。


「本当に?」

「本当だよ」

「よかった。クラウディアが相手なら敵わないと思っていたんだ」


 ドロテーは目を細めた。

 彼女の言葉が気にかかりながら、わたしはふっと我に返る。

 彼女なら、あの少女のことを知っているかもしれないと考えたのだ。

 黙り込んだドロテーをみて、今度はわたしが問いかけることにした。


「ダミアンって彼女いるの?」


 彼女の茶色の瞳に驚きの色が映る。


「知っているの?」


 その言葉にドキッとする。

 それはいるという肯定の言葉だ。


「まだはっきりとは。ただ、見てしまったの。この前」

「そう。わたし、ダミアンと少し前から付き合っているの。でも、誰にもいわないで。ダミアンからも内緒にしてほしいと言われているの」


 はい……?


 わたしはその場で固まっていた。恐らく顔もものすごく引きつっていただろう。

 だってわたしがみたのは、見知らぬ女の子とダミアンが仲良くしている姿で、ドロテーとじゃない。

 わたしの中で嫌な考えが蘇る。

 要はあの見知らぬ女の子と付き合っているとしたら二股。それも最低の数。


「いつから付き合い始めたの?」


 わたしは動揺する心を極力出さないようにして問いかけた。


「一か月前。告白したら、いいって言ってくれて。夢みたいだよね。まさかダミアンがわたしを好きでいてくれたなんて。あ、ごめん。のろけたかったわけじゃなくて」

「いいの。そうなんだ」


 わたしは驚くくらいの棒読みでそう返事をしていた。

 だが、自分の世界に入っているドロテーはわたしの動揺に全く気付いた様子はなかった。



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