表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/57

カミラとフランツの関係を知りました

 わたしはフランツの部屋をノックした。

 クラウディアとダミアンの噂を流されて三週ほどが経過した。

 直接は何も言われないため、今のところ噂がどうなっているのかは分からない。だが、時折、その片鱗が見え隠れしていた。

 ダミアンも聞かされていないのか、素知らぬ顔で過ごしていた。


 誰が何の目的でということは気になるが、わたしはもう何も気にしないことにした。


 フランツが顔を覗かせた。彼はわたしと目が合うと、笑みを浮かべた。


「中に入っていい?」


 わたしの問いかけをフランツは笑顔で受け入れた。

 フランツの部屋に入ると、無数の本がわたしを出迎えた。

 わたしは深呼吸をするとフランツを見据えた。


「わたしもフランツと一緒にルトに行きます。フランツはいつくらいに行く予定なの?」


 フランツは驚いたようにわたしを見た。


「僕は今年度、クラウディア様の学園祭が終わった後から行こうと思っています。クラウディア様は学校を卒業されてから来られるとよいと思います」


 わたしは首を横に振った。


「いえ、わたしも一緒に行くわ。わたしがそうしたいと思うのだから。それに学校は向こうにもあるし、休学してもいいわ」

「しかし、イルマ様がどうおっしゃられるか」

「大丈夫。わたしからお父様に頼んでみるわ。だめだったらそのときよ。だったらよいでしょう?」


 フランツは困ったような笑みを浮かべた。


「分かりました。ただ、カミラには前もって話をしておいたほうがよかったかもしれませんね」

「なぜ?」


 親しい友人だからというのはいささか無理がありすぎる。それにカミラはわたしの意見を常に受け入れてくれた。彼女が反対するとも思えなかった。


「以前幸せになってほしい人が二人いるとお話ししましたよね。クラウディア様以外のもう一人がカミラなんです。ルトではああ言いましたが、彼女が嫌だといえば、クラウディア様を連れて行けません」

「なぜそこまでカミラを気にするの?」


 二人は同じ時期にわたしの家に来た。当然二人は仲がいいが、そこまでカミラの意向を優先すべきものなのだろうか。親戚で頭が上がらないという線も考えられるが、なにかしっくりこない。


 フランツは困ったように微笑んだ。


「カミラの両親にかかわることなので、僕が話をしていいのかわかりませんが、僕の母親の思い人がカミラの叔父さんだったんです。そして、母が亡くなる直前、カミラの両親と母の思い人は事故でなくなりました」

「そのタイミングで?」


 フランツは寂しそうに微笑んだ。まるで、作為的な死だ。偶然かもしれないけれど。それに人をそうやすやすと殺せるわけでもない。

 だが、彼はそれを自分の罪として受け止めているのだろう。

 そんな彼の気持ちを跳ね除けることはできなかった。フランツが納得したうえで、行ったほうがいいに決まっていた。


「分かったわ。わたしからカミラに聞いてみる」

「ありがとうございます。きっとカミラもそのほうが喜ぶと思います」


 フランツはほっとしたように笑みを浮かべた。


 わたしはフランツの部屋を出ると、カミラの部屋をノックした。わたしが話があるというと、すぐに部屋に入れてくれた。わたしは部屋に入ると、単刀直入に話題を切り出した。


「お父様がルトに学校を作ろうとしているのは知っている?」

「存じております」

「わたしは学園祭が終わったら、フランツとルトに行こうと思っているの。お父様の許可が得られたらという前提付きだけれど」


 カミラはわたしの話を聞き、目を細めた。


「クラウディア様がそう望むなら、わたしは止めません。あと少しですね。その話は他の方にはされましたか?」


 わたしは首を横に振った。

 カミラは微笑んだ。


「フランツがわたしの許可が得られないと言ったのでしょうね。もうあのことは気にしなくていいと言っているのに。クラウディア様は何か聞きましたか?」

「フランツのお母さんの思い人があなたの叔父さんだった、と。お母さんが亡くなる少し前にあなたの両親とその人が亡くなったことも」


 カミラは首を縦に振った。


「わたしの両親や叔父の死にフランツのお母さんが関わっているかは正直わかりません。どちらにせよ、わたしはフランツを恨んではいません。クラウディア様には劣りますが、わたし以上の痛みを知る彼にも幸せになってほしいと思っています」


 カミラは澄んだ瞳でわたしを見据える。彼女の目が煌めていたのは、その痛みを思い出したからなのだろうか。

 わたしはフランツとカミラが同じことを言っていたのを聞き、ほっと胸をなでおろした。

 お互いの幸せを望み、この家でともに暮らしてきたのだろう、と。

 だが、それは二人だけではない。わたしも同じだ。フランツにもカミラにも二人にこうした事情があってもなくても、わたしは幸せになってほしいと考えていた。


 カミラがいなければ、今のクラウディアは存在していなかった。甘恋は別の物語を紡いでいた可能性だってあった。


「これからはカミラの幸せも探してください。あなたがいたから、わたしはここまで頑張ってこれたの。だから、あなたにも幸せになってほしい。あなたがわたしの幸せを望んでくれているのと同じようにね。それがわたしの幸せでもあるのだから」


 カミラの目により多くの涙が浮かぶ。彼女は唇を噛むと、小さな声で「わかりました」とつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ