時計の修理が終わりました
翌朝、家を出るとため息を吐いた。
もう彼女たちにかかわる気はないが、それでもレーネがプレゼントを贈るシーンを目撃してしまえば複雑な気持ちはある。ダミアンはレーネとドロテーの二人と付き合う気なのだろうか。それともレーネが告白をするときには、ドロテーと付き合っていないのだろうか。
それもときの流れに身をゆだねるしかないのだけれど、釈然としなかった。
「クラウディア様」
澄んだ声が耳に届き、顔をあげるとヘレナ王女が立っていたのだ。
「クラスディア様をお見かけして。よければ一緒に行きませんか?」
彼女は車を指さした。運転席には男性の姿が、後部座席にはパウラさんの姿がある。
わたしは彼女の誘いに乗り、一緒に学校に行くことになった。
後部座席にパウラさん、ヘレナ様、わたしの順で座る。ドアが閉まり、すぐに車が走り出した。
「時計の修理が終わったそうです。時間がかかってもうしわけない、と」
「わざわざありがとうございます」
「受け取りはどうされますか? わたしが一度受け取っても構いません」
「少し考えていいでしょうか?」
「はい。もちろんです」
ヘレナ王女はそうにっこりとほほ笑んだ。
時計、か。
もうダミアンにとってはどうでもいい代物かもしれない。
また、彼と接触する機会を持たないといけないのが心苦しいけれど。
わたしたちは学校の前でおろしてもらい、学校に到着する。
辺りの視線が集中するのを実感しながらも、王女様と別れ、そのまま教室に向かうことにした。
教室の扉を開けようと手を伸ばしたとき、急に扉が開く。
目の前にはダミアンが立っていたのだ。
わたしは時計のことを言いそうになり、思わず口を開いた。
だが、慌てて自らの口を閉じた。
彼はそんなわたしに目もくれず教室の外に出て行った。だが、わたしの視線はおのずと彼の左腕に向けられていた。
そこにはレーネのあげたであろう時計がはめられていたのだ。
もともとダミアンがしていた時計を送ればドロテーも不思議には思わないだろう。
彼はクラウディアとの約束を守るために時計が壊れたことを周囲に漏らしていないのだから。
とりあえず完全に関係を絶つためにもダミアンに早めに時計の修理が終わったことを伝えようと改めて決意した。
それから幾度となくダミアンに時計のことを伝えるチャンスを伺うが、なかなかチャンスは訪れず昼休みになった。そして、ダミアンの姿がないのに気付いた。
わたしは足早に教室を出て、以前時計の修理を伝えた場所まで行くことにした。
そこには窓辺にもたれかかるダミアンの姿があったのだ。
「待っていたの?」
「朝、何か言いかけたようだったから。で、何?」
「時計の修理が終わったらしいの。どうしたらいい? 修理の確認をしたければ一緒に行く必要があると思うけれど」
「王女様の紹介だから、その辺りは大丈夫だろう。お前が受け取って返してくれればそれでいいよ」
ダミアンは興味がなさそうにそう呟いた。
もうレーネからもらった時計があるから大丈夫ということなのだろうか。
わたしは彼の提案を受け入れることにした。
その足でヘレナ様の教室まで行き、わたしだけが時計を受け取りに行くと彼女に伝えた。
ヘレナ様はわたしと一緒に時計屋に行きたがったが、どうやら今日の予定が立て込んでいるらしく、ロミーさんに注意されていた。
そのため、わたしは一人で帰りがけにお店に立ち寄ることにした。
お店側にはヘレナ様が連絡をしておいてくれたこともあり、すぐに時計を持ってきてくれた。
翌日人気のないタイミングを見計らいダミアンに渡した。
彼はそれをさほど興味のなさそうな顔をして受け取っていた。




