ダミアンの誕生日になりました
わたしはミシンをとめると手にしていた洋服を畳み、机の上に置く。
今日の作業はこれで終わりだ。
ダミアンはペトラと別れて少しばかり時間が経過した。だからといってわたしの日常は変わらない。もっともダミアンはわたしと顔を合わせなくはなったが、それはそれで別にどうでもいい。ダミアンは結局ドロテー一人と付き合っているわけで、現状だけを考えると問題はないのだろう。その経緯はともかく。
ペトラがどうしているのかは分からない。フランツは優しいけれど、その分はっきりとしていた。
「どう?」
「今日の分はこれで終わり」
「さすがクラウディアは早いね」
「よかったらほかのも手伝うよ」
「いいよ。もともとクラウディアにはかなりの数をこなしてもらっているんだもの。わたしたちも頑張らないとね」
ペトラに告白された日には聞けずに、日を置いてフランツに確認した。
少し迷った末、「行きます」と言ってはくれた。
そのことはもちろん周りには伝えてある。ヘレナ様にもだ。
彼女はフランツがクルト聞けばよりはりきり、完璧な姿を見せようと今まで以上に練習に真剣な態度で取り組んでいる。もっとも彼女の演奏はもう非の打ち所のないレベルだとも耳にしていた。
そんな感じで放課後になっても学校中が活気づいていた。ただ、レーネは用事があるといい、事前準備にはほとんど参加していない。わたしが常に手を貸している状態なので、彼女もわたしと顔を合わせるのは嫌なのだろう。
「明日からは準備があまり手伝えなくなると思うけど」
「分かっている。本当にありがとう。もう八割方、準備も終わったから大丈夫よ」
クラスメイトはそんなに気にしていないようだが、さすがに何もしていないとレーネのクラスメイトに対する印象が悪くなるだろう。だから、わたしは準備の大半が終わりそうな段階で、手伝えなくなると伝えていたのだ。そうしたらレーネも出やすくなるだろうと思ったから。ダミアンを信じ続けている彼女に対して理解できる気持ちとできない気持ちが共存している。どちらにせよ、彼女が孤立してしまうのだけは避けたかった。
わたしはクラスメイトに別れを告げると、身支度を整え学校を後にした。
そういえばドロテーも今日は見かけなかったっけ。彼女もそんなに出席率は高くないけれど。
そう思ったとき、通りかかったカフェに見覚えのある姿を見かけた。ドロテーはわたしに気付いたのか、手を振ると店を出てきたのだ。もう彼女は家に帰ったのか、薄いピンクのワンピースに着替えていた。
「今からお出かけ?」
ドロテーは幸せそうに微笑むと、手にした白い紙袋をわたしに見せた。
「今日、ダミアンと約束しているの。今日、彼の誕生日でしょう。ここのクッキーが好きだと言っていたから、買って時間を潰していたの」
わたしはその言葉に一瞬顔を引きつらせた。
すっかり忘れていた。レーネと仲たがいをし、ダミアンのことも極力視界に入れなくなっていたから。そして、レーネも彼を待っていたのだろう。
「じゃあね。そろそろ待ち合わせ場所に行かないと」
ドロテーはそう笑顔を浮かべると、小脇に入っていく。
レーネはダミアンに時計をプレゼントしたんだろうか。
学校が終わって時間がある程度経過している。もう私終わっていたとしても不思議ではない。
そう思ったとき、わたしは遠くの物陰に見覚えのある姿を見つけたのだ。
レーネとダミアンだ。
わたしは二人のほうに歩いていく。
レーネは頬を赤らめダミアンを見つめ、紙袋を手渡した。
「ありがとう。嬉しいよ」
ダミアンはレーネのプレゼントを笑顔で受け取っていた。




