テストの日になりました
わたしは朝食のパンケーキを口に含むと、隣で食事をとっているフランツを横目で見た。昨日わたしはフランツに勉強を教えてもらったわけで、彼の教え方はとても上手だったが、わたしには一つの疑念が浮かび上がった。
わたしは食べていたパンケーキを飲み込んだ。そして、紅茶を手に取る。
「クラウディア様、お代わりをお持ちしましょうか」
先ほどまで食事をとっていたと思しき彼は、わたしが食べ終わったのに気付いたのだろう。本当に彼はよく気が付く。勉強もできるし、彼が回復魔法は使えないものの、かなりの魔法の使い手だとも昨日知った。薄々感じていたので、改めて実感したというのが正しいだろうか。それにその見た目に背も高く、非の打ち所がない。まるで完璧を絵に描いたような人間だ。
「あなたの弱点って何なの?」
「クラウディア様です」
わたしは飲んでいた紅茶が喉に引っ掛かり、思わずむせてしまった。
「朝から何を言い出すのよ」
「正直な気持ちを伝えただけですが」
「朝からそういうことを言うのは禁止します」
わたしは口についた紅茶をナフキンで拭うと、そう言い放った。
「朝というのは十二時までということでしょうか。いや、十一時五十九分ですね」
「フランツ、あなたはそういう問題じゃ」
ないといおうとしたわたしの言葉はお父様の笑い声によってかき消された。
わたしはお父様がいたのを忘れていて、焦りを露わにしてお父様を見るが、彼はすこぶるご機嫌だ。
「朝から仲がいいね」
お父様はにこにこ顔でわたしとフランツのやり取りを聞いていたようだ。
レーネの幼馴染との噂の話をしただけで、顔を引きつらせていたのに、フランツとのこのやり取りが笑顔というのは、それだけ彼に対する信頼が厚いのだろうか。フランツはお父様のお気に入りなのだから。
「昨日はクラウディアの部屋に二人でいたみたいだね」
「ええ、クラウディア様と勉強をしていました」
「そうか。君が珍しいね。学校に行きたければ、いつでも手筈は整える。いつでも言ってくれ」
お父様の言葉にフランツは頷いた。
お父様はフランツが学校に行かない理由を知っているのだろうか。
わたしの学校に忘れ物を届けに来るくらいだ。人目を忍んでというわけではない。あのフランツが来た時に一緒にいた男の人たちも関係しているのだろうか。
あの人たちは何者だったんだろう……。
「クラウディア様、そろそろ準備をされませんと」
カミラの言葉に我返り、わたしは慌てて立ち上がった。
教室に入ると、レーネがわたしのところにやってきた。
彼女はテキストを広げ、わたしに見せたのだ。
「ここなんだけど、おしえてもらっていいかな」
「そこはね」
わたしは内心驚きながらも、それを顔に出さないようにして勤め、彼女の差し出した科学の問題を説明した。レーネは頷きながら、首を縦に振る。
彼女の中で区切りがついたのか、勉強を教えてもらうのには一番だと思ったのかは定かではない。ただ、わたしにも理由を説明できない状況に対する罪悪感があったのか、不思議と嫌な気はしなかった。
テストの二日間は、順調に終わりをつげた。フランツが教えてくれたこともあり、いつも通りぼぼ満点で終われそうだ。だが、自分のテストに余裕が出てきたからか、本来の問題について考える猶予が出てきたのだ。問題のダミアンがレーネにプレゼントを渡す日が明日に迫っていたのだ。




