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ダミアンに対して苛立ちを覚えました

 昇降口の中に入ると、見覚えのある生徒が立っていた。

 ドロテーはわたしに気付いたのか、目を細めた。


「おはよう」


 わたしは昨日のことに触れていいのか分からず、挨拶だけをした。


「ありがとう。昨日、一日泣いてすっきりした」

「大丈夫?」

「大丈夫。これくらいで落ち込んではいられないよね。もう同じ失敗をしないように気を付けるよ」


 ドロテーは微笑んだ。

 ああいうことをいう男と別れようとは思わないんだろうか。

 それが好きということなのかもしれないが釈然としなかった。


 ドロテーのことは一息ついた。昨夜、フランツとカミラのケーキを持って帰らなかったことを謝ると、二人は気にしなくていいと言ってくれた。だが、問題はレーネのことだ。

 あんなことをしたクラウディアに対していい気持ちは持っていないだろう。

 そもそもダミアンにあげるはずだったものを、あんな直前に奪ってしまったのだ。


 わたしがプレーヤーだったときは、クラウディアに対して疑念を抱くシーンがあった。ダミアンと待ち合わせをしたのにも関わらず、お菓子をあげられなかった。その場はなんとかごまかすが、家に帰って不満が噴き出す。

 なぜ、あんなことをしたのか、と。


 教室に入ると、レーネと目が合う。彼女は顔を引きつらせた。

 やっぱりそう来るよな。その反応は当たり前だ。彼女にとってわたしのしたことは妨害行為そのものなのだから。


 わたしが席に行こうとすると、レーネは席を立ち、ドロテーのところに直行した。

 レーネが何か話しかけると、ドロテーの顔が暗くなる。彼女はすぐに目を細めると、何かを語っていた。明るい表情を浮かべていたレーネの顔が暗くなった。ドロテーから渡せなかったと聞いたのだろうか。


 落ち込むレーネにドロテーは明るく言い放つ。彼女なりにレーネを気遣わせないようにしているのだろう。


 席に戻ってきたレーネと目が合うと、彼女は顔を引きつらせながら微笑んだ。

 わたしは彼女のケーキについては触れないほうがいいと判断した。


 その日は昼までレーネと全く話をしなかった。昼食もレーネと食べるが、彼女はそそくさと自分の弁当を食べると、用事があると言い残し教室を後にした。


 わたしはほっと一息つく。

 甘恋と同じであれば、おこっているというより、クラウディアはダミアンが好きでないかと疑っている状態なのだろう。

 だが、ここでダミアンには興味ないと言い放つのもどうかと思った。逆に興味があると勘ぐらせてしまう気がしたためだ。


 レーネの気持ちの整理がつくのは来週に入ったころ。そのあと、一緒にダミアンとのプレゼントを買いに行くのだが、その前にダミアンがレーネにプレゼントを贈るはずだ。ダミアンがレーネに贈るのは割と高価なアクセサリだ。付き合ってもない相手に送る品ではないが、好きな相手からもらうと嬉しいものだ。もっともこの世界のダミアンがレーネに贈るとは限らないわけだが。


 わたしは短く息を吐き、お弁当の続きを食べることにした。

 ふと、誰かの影がわたしのお弁当に重なり合い、顔を上げると、ダミアンが立っていたのだ。

 わたしは心の中で嫌がりながらも、笑顔で応対した。


「クラウディアのお弁当っていつもおいしそうだよね」

「友人が作ってくれているの」

「カミラさんだっけ?」


 彼は誰かから名前を聞いたのかそう問いかけてきた。

 わたしは首を縦に振った。


「その人って中等部までここにいたんだよね。なんで高等部にこなかったの?」

「さあ。分からない」


 理由がわかるなら、わたしが知りたいくらいだ。

 わたしは最後の一切れを口に入れるとお弁当を閉じた。


「料理もプロ級で、成績もクラウディアと一、二を争っていたとか」

「プロ級かは分からないけど、カミラの作る料理はすごくおいしいわ。それに頭もいいもの」

「どんな人なんだろう」


 ダミアンは高等部からの入学なので、直接カミラとの面識はない。

 わたしはそのまどろっこしい言い方にイラッとして、思わず問いかけた。


「カミラに会いたいの?」

「そういうわけじゃないけど、噂で聞く人がどんな人か興味があったんだよ」


 他の人であればただカミラの話を聞き、興味を持っただけだと思っただろう。だが、あれこれ女の子にちょっかいを出しているダミアンのことだ。カミラを狙おうとしているんだろうか。カミラがかなりの美人ということも聞いているだろうから。そんな余計な詮索をしてしまっていたのだ。そもそもカミラはダミアンに全く興味もないし、複数の彼女がいることも知っていた。そんな彼にカミラが振り向くとは到底思えないのだけれど。


 わたしはカミラの個人情報を当たり前に知られていること以外は一切出さなかった。ダミアンにカミラのことを知られるなんて嫌だったのだ。


「中等部までは通っていたから、知っている人は多いと思うわ」


 わたしはそう彼に伝えた。

 ドロテーもどこかにいったのか、教室にはいない。

 わたしは昨日のドロテーとダミアンの会話を思い出し、聞いてみることにした。


「ダミアンは嫌いな食べ物はないの?」

「ないよ。何でも食べる」


 ダミアンはそういうと微笑んだ。

 きっとドロテーとの間でも過去にこうした会話が交わされ、彼女はそれを覚えていたのだろう。

 自分をよく見せたかったのかもしれないが、自分が隠していただけなのに、ドロテーにあんな言い方はないんじゃないだろうか。

 わたしはダミアンに対して反発心を抱きながらも、その言葉をぐっと飲み込んだ。



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