レーネとドロテーが同じ班になりました
「で、何?」
「ここではちょっと。人気のない場所で話を聞きたいの」
「俺はここでいいよ。移動しろというなら、俺は教室に戻る」
彼の要望なら、わたしはここで話をしてもいいのだが、本当にそれでいいのだろうか。
彼は常にこんな感じで、わたしに対しておこっているわけではない。
ま、面倒だとは思ってそうだけれど。
だが、彼は優しいところもあるし、なんといっても運動ができる。同性の友人も多い。女の子には誤解を招き、怖いと言われていることもあったりするが、顔は整っているためひそかに人気はある。それは甘恋でも今でもそうだ。
ひそかにというのは、本人に好意を伝えると冷たくあしらわれそうだから。
その言葉の通り、彼はレーネに一筋な人間だと思う。他の女の子に好意を示されようが、全く心を動かされない。彼に告白して振られた子も何人かなら知っていた。
ダミアンに反発を覚えているわたしは、一途な男性というのは好きだったりする。わたしはこの乱暴な口調がどうも苦手で彼のシナリオを二度クリアしただけだった。
それなりに楽しめたが、当時はダミアンのルートには敵わないと、今から考えればとてつもなく忌まわしいことを考えていた。ダミアンのルートを何回クリアしたかなんてもう思い出したくもない。
「本当にここで聞いていいの?」
「しつこいな。いいって言ってんだろ」
彼はそう怒鳴ってきた。
彼が怒鳴ろうとわたしは怯んだりもしない。
わたしは覚悟を決めると問いかけた。
個人的なことだが、クルトの希望だ。仕方ない。
「クルトはレーネのこと、好きなの?」
「はあ? お前、何言ってんだよ」
「どうしても知りたいの。答えて」
クルトは頬を膨らませ、顔を背けた。
「クラウディア様には関係ないだろう」
「大事なことなの。答えて。関係なくない」
「なんで? レーネの親友だから?」
「そうよ」
「だったら親友の好きなようにさせたら? あいつ同じクラスのあの軽い男が好きなんだろう。だから、俺はあいつのことなんて好きじゃねえよ」
わたしは思わずクルトの腕を掴んだ。
今の言い方はまるでダミアンのあれを知っているみたいだ。
「知っているの? ダミアンのこと?」
「名前くらいは知っているよ。なんか、気に入らないそれだけだよ」
彼はそういうと、わたしの腕を振り払い、踵を返し去っていった。自分と違うタイプのダミアンが気に入らないだけなのか、実は彼女がいたと知っているのかは分からない。
時間を確認すると、次の授業開始まで五分もない。
わたしも自分の教室に戻ることにした。
結局、わたしは昼休みに何も進展を得られなかった。
いや、昼休みという大きな区切りであれば一つあったのか。レーネにはダミアンに対する伝え方を考えなければならない、と改めて気づかされたのだ。
あと、ドロテーたちに言うべきか否かも大きな問題だ。
余計なお節介だとは分かっているのだけれど。
教室に戻ると、レーネがわたしの机のところに立っていたのだ。
「クラウディア、遅かったね。次の授業は家庭科だよ。そろそろ移動しなきゃ」
「忘れていた」
わたしは慌ててテキストを取り、レーネと一緒に教室を後にした。
家庭科の授業は男女別に行われる。といっても基本的に学ぶ内容は同じだ。そのため、男子のほうが先に授業が進んでいるところもあったり、その逆もある。
家庭科室に着くとすでに先生がいて、生徒も大部分が席についている。わたしたちは先生にせかされ、席に着いた。
すぐに授業の開始のチャイムが鳴り、先生はテキストを開くように生徒たちに指示を出した。
「まずは来週の説明からするわ。来週は調理実習でお菓子作りをしてもらうわ。材料はここに記されたのをもってくること」
わたしはテキストに視線を落とす。来週はパウンドケーキを作るようだ。
多めに作ったらフランツとカミラにでも持って帰ろう。
「それで班だけど、一班四人で組んでもらうわ」
「わたし、クラウディアと一緒がいい」
クラスメイトがそう提案する。
「ずるい。わたしだって」
「じゃあ、わたしはレーネと組みたいな」
好き勝手に要望を口にする生徒たちを手を鳴らして黙らせた。
「班は先生が決めているから、それに従うこと」
「クラウディアやレーネと出席番号が近い人がずるいです」
「そういう反論が出ると思ったから、くじで決めたわ。文句はないでしょう」
生徒はブーイングするが、先生は聞く耳を持たずに、もう一度手を鳴らした。
先生は名前を読み上げていく。わたしは言われた班に移動をした。わたしの班は三班で、レーネと同じ班でなかったのは残念だけれど、普通に会話ができるメンバーだらけだった。
「クラウディアと同じ班なのはラッキー。よろしくね」
わたしはクラスメイトの言葉に目を細めた。
「四班はレーネ=アハッツ、ドロテー=バシュ」
だが、聞こえてきた四班のメンバーを聞き、顔を引きつらせた。
レーネとドロテーが一緒の班だなんて、なんという運命のいらずらだろう。
順番に呼ばれた二人は隣に座り、笑顔で話をしている。
クラスメイトというのはいわばこういうことだ。
何かあればこうやって強制的にかかわりを持たされる。
ダミアンでこじれたら、クラスメイトとしての関係も同時に壊れてしまう。
ドロテーやレーネがお互いの好きな人をぽつりと漏らさなければいいけれど。
わたしは短くため息を吐いた。




