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わたしたちの予想は当たっていました

 おばさんに連れられ、あの病院まで行く。中に入ると、すぐにあの病院の人がやってきて、わたしたちを病室に案内してくれた。あの処置室からは移動し、病室を割り当てられたようだ。名前はペトラ=リンケーと書いてある。


 わたしはノックして、ドアを開ける。するとそこにはあの少女の姿があった。

 起き上がろうとする彼女を制し、彼女の傍まで行く。

 彼女はわたしと目が合うと、軽く会釈をした。


「ありがとうござます。お礼を言いたくて、無理を言って連絡を取ってもらいました。本来ならわたしが出向くことろですが、わざわざお呼びだてしてしまって」

「気になさらないでください。大丈夫?」

「大丈夫です。本当にありがとうございます」


 彼女の目にうっすらと涙が浮かぶ。

 ダミアンの彼女らしき女性ということであまりいい印象は持っていなかった。

 だが、想像したよりも柔らかく、可愛らしい感じの人だ。


「あのお礼ですが」

「わたしはそういうのはもらわないようにしているの。だから、気にしないで。ただ、一つ言っておかないといけないことがあるの。今後連絡を取られても、あなたに治癒魔法を施すことはないわ。あくまでわたしの魔法は緊急措置を施すためだから」


 厳密にはそういう決まりはない。身内なら治すこともある。

 だが、そういうことにしておかないと、わたしの身が持たないのだ。


「それは先ほどこちらの病院の方から聞きました。なので、金銭ではなく、何かあればいつでも言ってください。できるクラウディア様の限り力になります」

「そんなの気にしなくていいんですよ。あなたが元気になってくださればそれで嬉しいもの」

「それではわたしの気がすみません。何でもいいので言ってください」


 わたしが彼女に聞きたいのは一つだけ。

 先ほどまで重体で命の危機に瀕していた彼女に聞くべきことだろうか。

 だが、きっと今聞かないと、ダミアンの彼女らしき女性の認識のまま彼女を見てしまう。

 彼女とは今後会うこともないだろうから。


「おばさま、少し席を外してください」

「分かったわ。外で待っているわね」


 個人的なことなのでおばさんに聞かれるのは避けたかったのだ。

 おばさんが出て行くのを待ち、彼女に問いかけた。

 

「ペトラさん、恋人がいるの?」


 彼女の顔が真っ赤に染まる。


「恋人ですか?」


 彼女はたどたどしい手つきで口元に手を当てた。


「あなたがわたしのクラスメイトと一緒にいるのを見て、付き合っているのかなという軽い好奇心がわいたの。迷惑ななら答えなくてもかまいません。わたしが個人的なことを聞いただけなのですから」

「それってダミアン、ダミアン=ヘットナーのことですか?」


 わたしはどきりとしながら首を縦に振る。

 彼女からノーという返事が聞こえることを期待しながら。ノーであればダミアンはドロテーと付き合っただけで、少なくとも彼を軽蔑しなくてはすむ。


「はい。幼馴染で、告白して付き合うようになりました」


 その言葉にわたしの心臓の鼓動が早くなる。

 想定の範囲内ではあったが、決してそうあってはほしくなかったもの。

 とりあえず二股は確定したわけだ。

 そう思いつつ念のために聞いてみる。


「いつから付き合っているの?」

「二週間ほど前からです」


 ドロテーより後に付き合うようになったわけか。だが、昨日のドロテーとダミアンを見る限り、ドロテーに対して別れを切り出そうとしているようには見えない。当たり前のように二股をしているように感じられた。


 本当になんて救いようがない男なんだろう。


「クラウディア様のこともダミアンに聞いていて知っていたんです。今度ダミアンに会ったときに言わなきゃ。噂通りの素敵な方だった、と」

「ありがとう。でも、そのことだけど、わたしがあなたとダミアンが付き合っているか聞いたのは伏せておいてほしいの」

「なぜですか?」


 少女は不思議そうに首を傾げた。

 レーネより正式な彼女であるドロテーのことが一番の理由だが、正直に言うわけにはいかない。


「人の恋愛をかぎまわってたなんて悪いうわさが流れると恥ずかしいし、罰が悪いかなと思ったの」

「そういうものなんですか? それくらい当たり前だと思いますが」


 大げさだが人の恋愛を嗅ぎまわっていたというのはいい話ではない。

 実際、嗅ぎまわっているし、品のない行動だとは重々承知している。


 分かりました、と言いかけた彼女が突然口を噤み、わたしを見た。


「まさかクラウディア様はダミアンのことが好きなのですか?」

「それは絶対ないから」


 わたしは正真正銘のペトラの勘違いを全力で否定した。



 病室を出て、叔母様と合流すると病院を後にすることにした。

 叔母様の車に乗り込んだ時、わたしは思わず身を低くする。


「どうかしたの?」

「なんでもないわ。少し待って」


 叔母様は不思議そうにわたしを見たが、バッグから本を取り出し視線を落とした。

 わたしはその間、ずっとある一人の男性を目で追っていた。

 ダミアンだ。誰かから彼女の怪我を聞き、見舞いに来たのだろう。

 彼の姿は病院内に消えていく。


 わたしは叔母様に声をかけ、家まで送ってもらうことになったのだ。


 わたしは部屋に入るとため息をつき、ソファに腰を下ろした。


 本当にダミアンという男は何なのだろう。


 ドロテー一人と付き合っているというなら、甘恋的にはあまりよくないが、人間的には問題なかった。

 だが、ペトラとも付き合っているとなれば、絶対にレーネと彼が結ばれるのは受け入れられない。

 だから、わたしはダミアンとレーネを絶対に付き合わせさせないと心に誓ったのだ。ああいう男は何度でも同じことを繰り返すものだ。


 ただ、これはわたしの意見にすぎず、レーネが複数の異性と同時に付き合う相手を好むなら、きっとわたしがかかわるべきことではないだろう。


 もう一つ疑問はある。今のこの世界は甘恋の世界で、大まかにはわたしの知っている通りに物語が進んでいく。その通りにダミアンがレーネに告白して、レーネとダミアンが付き合い始めたと仮定しよう。


 そのころには、ドロテーとペトラはどうなっているんだろう。ダミアンと別れたのだろうか。それともその二人と付き合っているのを隠したうえで、レーネとも付き合おうとしているのだろうか。そもそもレーネと付き合おうとはしないのだろうか。


 物語の終焉は今から約三か月後。

 そのときにどうなるのだろうか。

 レーネとダミアンを近づけさせないために、そうした展開にならないならそれはそれで満足いく結果だったのだ。


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