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わたしはこれからどうすべきか悩みました

 わたしは自分の部屋のドアをそっと開ける。

 まだソファから金色の髪が覗いていた。


 あれからフランツは目を覚まさず、さすがに幼馴染とはいえども同じ部屋で眠るのは気が引け、わたしはカミラの部屋に泊めてもらったのだ。


 そして、学校の制服を取りに来たのが今のこと。

 ソファを覗きこむと、まだフランツは眠っていたようだ。

 彼はよほど疲れていたのだろうか。


 わたしは足音を殺してクローゼットまで行くと、学校の制服を取りだした。

 クローゼットを閉め立ち去ろうとしたわたしの視界に、フランツが体を動かすのが目にはいる。


「おはようございます」

「クラウディア……、様」


 フランツは体を起こすと、目を見張る。

 彼は金の髪をかきあげると、辺りを見渡した。


「ぐっすり眠っていたのね」

「申し訳ございません。まさかあのまま寝てしまうとは」


 フランツは頬を赤らめ、口に手を当てる。

 いつもすました彼はそういう顔をするのは新鮮で、可愛いと思ってしまっていた。

 そんなことは口には出せないけれども。


「わたしこそ、ごめんなさい。ありがとう」

「もう平気ですか?」

「平気。落ち込んでばかりはいられないもの」


 ダミアンに彼女がいたということが証明され、ショックだったが、このままではいけない。

 レーネにダミアンを忘れさせなければならない。

 わたしなりにいくつか方法を考えてみた。


 まずレーネにはっきりと言う。ダミアンには彼女がいる、と。

 この場合、ドロテーのことを伏せておいたほうが良いのだろうか。極力そうなんだろう。

 ただ、問題として、レーネはダミアンに惚れている。クラウディアの言葉を信じる可能性がどれくらいあるのかだ。


 甘恋ではレーネはクラウディアにダミアンを諦めるように言われても、クラウディアに反発心を抱くだけで親友の言葉に聴く耳を持たなかった。それどころかクラウディアがダミアンを好きだという勘違いをしていたのだ。わたしも自分がクラウディアになるまではそう思っていた。


 レーネは一途な少女だ。だが、その一途さがトラブルを招くきらいがある。

 結局、甘恋ではクラウディアはレーネに諦めさせるように手を尽くしていたと考えると納得できる。

 なぜレーネにはっきりと言わなかったのか。それは悲しいことだがクラウディア自身、レーネに言っても信じてくれないと考えていたのだろう。


 今のわたしにはどうなのだろう。

 信じてくれるとは思う。だが、信じてくれない可能性も十分にわかっている。

 わたしは現に甘恋をプレイしているとき、クラウディアの言葉を信じなかったのだから。


 ただ、気になることもある。レーネの幼馴染のクルトだ。レーネがまだ彼にわずかでも恋心が残っているなら、このままダミアンからクルトに彼女の意識を向けられるかもしれないと。


 どちらがいいかは分からない。後者はクルトとレーネの気持ちが分からないため、成功確率は低い。

 当面の目標はレーネの誕生日。その日までにどうにかしないといけない。


 クラウディアはレーネの誕生日に、どうしていたんだろう。

 レーネの誕生日にクラウディアの存在自体が出てこなかったのだ。

 まあ、レーネにダミアンを忘れさせてしまえば心配無用なのだけれど。


 そのとき、くすりと笑い声が届く。

 フランツがわたしを見て微笑んでいたのだ。


「どうかしたの?」

「そういう顔をしているとクラウディア様らしいなと思いまして」

「そう? どういう顔?」

「何か策略を練っている顔です」


 わたしは頬を膨らませ、フランツを睨む。


「それって嫌味に聞こえるわ」

「そんなことありませんよ。そういうクラウディア様が好きです」

「だから、あなたは好きを気軽に連呼しないの」


 わたしは頬を膨らませ、フランツを睨んだ。

 フランツは悪びた様子もなく、「すみません」というと笑っていた。


 フランツのやり取りはダミアンとは直接関係ない。だが、なぜか心が軽くなる。


 何かを延々と考えていてふっと心が軽くなると突拍子もないことを考えてしまう。きっと今がそうした状況だったのだろう。

 今ならレーネにすべてをはなしたら分かってもらえるかもしれない。

 わたしはそんな思い込みが胸に湧き上がり、家を出て学校に向かう。


 学校まであと少しとなった時、背後から名前を呼ばれた。

 振り返ると、レーネが立っていたのだ。

 彼女はわたしのところまで小走りで駆け寄ってきた。


「今日ご機嫌だね。何かいいことでもあった?」

「そうでもないんだけどね。レーネ、今日の放課後大事な話があるの。いい?」


 わたしは気分に任せて言葉を綴る。

 レーネは不思議そうに首を傾げた。


「今、じゃないの?」

「できれば放課後のほうがいいと思ったんだ」

「分かった。楽しみにしているね」


 レーネはそういうと、笑顔を浮かべた。

 楽しみにされるようなことではない。変な期待をさせないために今言うべきだろうか。

 だが、今からレーネはダミアンに会うと考えると放課後のほうが良いだろうし、やっぱり放課後にしよう。

 問題はどう伝えるかだが、放課後まで考えればいい案が思いつくはず。


「昨日、ダミアンの誕生日プレゼントを探していたんだ」


 わたしの思考がレーネの言葉により、唐突に遮られた。


「昨日って」

「恥ずかしいながら一日中。帽子はどうかな。いろいろ見回って、よさそうなものを見つけたの。一度午前中で切り上げて家に買ったんだけど、喜んでほしいと思ったら、昼からも出かけちゃった」


 確かに甘恋でそんなイベントがあったような気がする。といっても数分で片づけられるほどの。

 ダミアンが何が喜ぶか分からず、いろいろな場所を巡っていたのだ。

 まさか夕刻までめぐっているとは思わなかった。


 大事な日曜日をダミアンのために潰した挙句、彼はほかの女とデートをしていたなんて言っていいんだろうか……。それもその翌日に。


 決意があっという間に崩れ落ちそうになる。


 今日でなくて明日ならどうだろう。明日以降にチャンスが訪れるだろうか。ただ、後回しにするとどんどんドツボにはまりそうな予感はする。


「どういう帽子?」

「黒のね」


 レーネは自分が見つけた帽子を饒舌に語りだした。

 細かい形状まで。もうそれを買おうと目星をつけているのだろう。

 どうしよう。彼女が今日、明日買うのはどうしても妨げないと。


 必死に考えたわたしが導き出した理由はぴんと来ないものだった。


「ダミアン、黒の帽子を持っていたみたいだよ。この前、たまたま見かけたときしていたんだ」

「そうなの。色がかぶったらどうしようもないね。今回は見送るかな」

「ごめんね。教えておけばよかったね」

「いいの。クラウディアに相談して良かった。また相談に乗ってね」


 レーネは笑顔を浮かべていた。

 本当になぜダミアンはほかに女を作ったんだろう。

 わたしは頭が痛くなってきた。

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