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プレゼントは何がいいか相談されました

「相談したいことがあるの。男の人って、誕生日にどんなものがほしいのかな」


 わたしはその言葉に血の気が引く。

 彼女がプレゼントを贈りたいのは、おそらくダミアンだ。ひと月先に彼の誕生日がある。

 好きな相手の誕生日なので万全の準備を図りたいと言いたいからこそ、こんなはやくに相談してきたのだろう。


「それってダミアンのだよね」


 念のため確認すると、レーネは頬を赤く染めて微笑んだ。


 ちなみにレーネの誕生日は2週間後で、その誕生日にダミアンは贈り物をする。

 そのプレゼントはレーネにとって予期せぬことで、レーネは心から喜ぶわけだが、今の状況を考えると複雑なイベントだ。


 そして、今の状況でレーネの背中を押せるわけもない。


「どうかな。わたし、よくわからなくて」

「そうだよね。わたし、クラウディアしか相談できる人いなくて」


 レーネは目を伏せ、悲しそうに微笑んだ。

 そんな顔をされると弱い。

 わたしの心が火あぶりをされたように痛んだ。

 レーネがわたしのプレイした主人公だからこそ自分を重ねているのか、友人の悲しい顔を見たくないだけなのか明確な理由は分からない。

 わたしが何を贈ればダミアンが喜ぶか知っているからこその罪悪感なのだろうか。


「ごめんね」


 レーネはそういうと、自分の席に戻っていこうとする。

 ダミアンからの贈り物をよろこんだレーネはクラウディアの助言を受けて、彼に贈り物をする。

 彼が喜ぶのは時計だ。ダミアンの誕生日の数日前に時計が壊れて、レーネがそれを贈ることになる。


 ダミアンにはほかに彼女がいる疑惑があるのに、レーネの悲しそうな後姿を見ていると、口からあふれる言葉をとめることができなかった。


「分かった。聞いておくよ。本人に」

「いいよ。悪い」

「それくらいなら気にしないで」


 わたしは何を言っているんだろう。自分で自分の首を絞めてしまうなんて。

 いや、考え方によってはわたしが助言をするまでダミアンのプレゼントを買わないでるのだから、彼女の傷を最小限に抑えられるかもしれない。

 わたしはそう自分に言い聞かせた。


「ありがとう。クラウディアは本当に優しいね」


 そう口にした彼女が何かを気付いたかのように目を見張った。


「クルトももうすぐ誕生日なんだよね」


 レーネはぽつりと言葉を漏らした。

 クルト=アイブリンガー。レーネの幼馴染だ。明るくて運動ができるが、勉強は苦手で、甘恋で攻略対象のうちの一人だ。入学当初はその姿を見かけたが、もう彼の姿を見聞きすることはほとんどなかった。ダミアンとレーネが親しくなるにつれ、徐々に距離を取り、フェードアウトしていったのだ。


 彼はレーネの気持ちに気付き、自分から距離を置いたのだと思う。

 彼がレーネに好意を持っているように見えた。

 ただ、近所に住んでいるらしく、学校内ではたまたま関わっていないだけかもしれない。


「最近、クルトとは会っている?」

「会ってない」


 一時期、ダミアンとクルトで迷っているきらいはあった。彼女は結局ダミアンを選んだが、今となってみれば後の祭りだがクルトを押したほうがよかったのかもしれない。それでレーネの心が動かされるかは分からないが。


「最近、あまり話をしてくれなくなっちゃって。男女の幼馴染って難しいよね」


 幼馴染か。わたしの幼馴染はフランツだろう。難しさは感じるが、彼とわたしの間に恋愛感情はなく、レーネたちのように複雑にはなっていない。レーネがダミアンと付き合えば、クルトはどうするのだろう。


「クラウディアにすごくかっこいい幼馴染がいるよね。フランツさんだっけ?」


 わたしはフランツのことを考えていたこともあり、どきりとしながら首を縦に振った。


「好きになったりしないの?」

「それはないよ。たまに相談には乗ってくれるけどね」

「そういう関係っていいね」


 レーネはクルトにダミアンとの関係を相談したいと思っているのだろうか。

 男だから男の好みがわかるかもしれないという理由で。

 さすがにそれはやめておいたほうが良い気がする。


 男と女の幼馴染というのが一般的にどうなのか分からないが、友人のまま上手に関係を築けることも少なからずある。それはわたしのお父様とこの国の多くの人が知る女性のことだ。名前をエーリカ=アイヒベルガーという。わたしがこのゲームをしていたときもちらりと名前だけは出てきたのだ。


 彼女はこの国の元王妃だ。氷の王妃、悲劇の王妃、怠慢な王妃。多くの呼び名があるが、わたしの彼女の印象は綺麗で心優しい人だった。彼女を語るとすべてが過去形になってしまうのは、彼女がこの世にいない人だからだろう。彼女の名前も婚姻前のものを自然と使ってしまう。


 彼女は今から十年ほど前に事故死したのだ。他殺だとか、自殺だとか様々なことが憶測としてささやかれているが、その真偽を誰も確かめようとしなかった。彼女と婚姻をして、クラウスという名前の王子を儲けた王でさえも。


 王妃は愛されていなかったのだ。王妃も王を愛していなかった。

 王妃にも王にも好きな人がいたが、結ばれることはなかったそうだ。

 なぜ彼女が王妃に選ばれたのか。それは誰もが認める美貌を持ち、そこそこの家柄に生まれたためだろう。


 その話を証明するかのように、王は王妃の死後、一年もたたないうちに、別の女性と結婚した。彼女は王の幼いころからの幼馴染で、王の思い人でもあった。二人の間には子が三人も生まれ、彼女の忘れ形見である王子は、人里離れた場所で静かに暮らしていると聞いたことがある。二番目の子供である王女はこの学校の中等学校に通っているという話をおばさんから聞いたことがある。


 わたしもその王子には一度も会ったことがない。

 本来なら王妃と一緒に王子とあっていてもおかしくはないが、彼女は生まれてすぐに王子と引き離されたそうだ。きっと表に出ないだけで嫌がらせも多数あったのだろう。そうしたことが重なり、自殺か他殺かは分からないが死という結果を招いた気がする。


 お父様はわたしがエーリカさんのようになることを恐れているのだと思う。わたしの家の資産を目当てに婚姻を望む相手はごまんといるはずなのだから。


「クルトと話をしたいなら、取り持つよ」

「いいよ。それは。向こうはわたしと距離を取りたかったんだろうし」


 レーネは寂しそうに笑っていた。

 少しはクルトに未練があるのだろうか。

 正直、そうだったらいいなとは思っていた。

 傷ついたレーネの心を支えてくれる存在になってくれる可能性もあるのだ、と。


 レーネと別れ、家への帰路を歩みかけたとき、背後から声をかけられた。

 聞き覚えのある声に振り返ると、白いワンピースを着たカミラが立っていたのだ。


「お帰りなさい。クラウディア様」


 カミラは優しく微笑んだ。


「お帰りなさいって、ここで待っていたの?」


 カミラは首を縦に振る。


「クラウディア様はずっとあの男のことで気に病んでいたみたいなので、心配していたんです。わたしもフランツもね。なので、わたしが代表して、あのお店の中で待つことにしました」


 彼女が指さしたのはちょうど曲がり角にある喫茶店だ。

 今、そこから出てきたのだろう。


「フランツも?」


 カミラは分かる。ことあるごとにわたしを過剰に心配する。だが、わたしはフランツの名前が出てきたことに単純に驚いていた。昨日の話も彼にとっては面倒ごとでしかない、と。


「彼は不器用だからなかなかうまくは言えないのでしょうけど、クラウディア様のことを一番に考えていますよ」


 幼馴染だからなのだろうか。

 わたしは昨日のフランツの言葉を思い出していた。

 あれだけ仲のよかったレーネとクルトが疎遠になったのを聞いてしまったからか、その言葉がやけに暖かく感じられたのだ。

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