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死神との時間。  作者: 狩魔
1/1

楽しい時間。

どうして…どうしてこんな目に…。

私が少しでも気をつけていたら…!!

すると後ろに気配を感じた。

振り返ると一匹の黒猫がいた。赤い首輪をした、

昔から不吉と呼ばれる黒猫が。

「お望みならば叶えてあげましょうか」

そう言う黒猫に私は溢れる涙を拭い、

「お願い…しま、す」

と言った。しばらくして黒猫は静かに微笑み

「ケイヤクセイリツ」

という言葉を言って消えた。

すると、私の目の前が急に明るくなった。


ピリリリリリッ

目が覚めるとそこは変わらない私の部屋の天井。

目覚ましを止めて、カーテンを開けると太陽の日差しが充分と言っていいほど差し込む。

「夏稀ーご飯よー」

1階から母の声が聞こえてくる。

はぁい。と返事をしてからとりあえず私は顔を洗い歯を磨いてから、ご飯を食べて寝癖を直して制服に着替えて行く準備をした。

私、倉谷夏稀〈くらたになつき〉は今日から高校一年生となる。何とか幼馴染みと同じ高校に行こうと思って頑張って勉強した結果ギリギリだけど、合格できたのだ。そして今日はいよいよ高校の入学式!

私は自分の制服のリボンをきゅっと結び、おろしたてのローファーを履いた。

「お母さん、先行くね!」

そう言って家を飛び出した。

すると、もう私の家の前には涼川貴啓〈すずかわたかひろ〉がいた。

幼稚園からの幼馴染みで、仲の良さは相変わらずってとこの関係だった。

「はよ。今日はいつもより早いな」

「…別に?そんな気分だったからね」

「いつもこのくらいだと助かるんだけどな」

はぁぁ。と溜め息をつく貴啓に私は睨んだ。

「何?何か文句でもあるの?」

貴啓はいつもの事だから気にせず

「何もねーよ、早く行くぞ」

と答えた。

ぼーっと突っ立っている私に貴啓は首をかしげた。

「何してんだよ。行くぞ、今日入学式なんだから」

うん、と軽く返事をして私は貴啓のところまで少しだけ走った。


「くーらーたーにーなーつーきー!!!!!!」

と叫びながら私に物凄い早さで抱きつく人がいた。

彼女は、笹原愛華〈ささはらあいか〉。

中学から同じでしょっちゅう私と絡んでいる。

いつも抱きつく愛華に私は少し呆れていた。

「いい加減飛びつくのやめたらどーなの、愛華」

愛華は私の肩にくっつきながらも首を横に激しく振る。それと同時に愛華のふわふわとした髪の毛が私にムチのように当たった。

はぁぁ。と溜め息をつくと、それを見た貴啓が

「少しは俺の気持ちが分かったろ?」

と得意気に言う。

私は何か言い返そうと思ったが、本来の目的を忘れてしまう気がしたから、貴啓をチラッと見てから愛華に抱きつかれたまま歩き出す。

「いや、何だよ…おい!」

貴啓の鈍感さにはつくづく勝てないなと思った。


高校の入学式。

私と愛華と貴啓は三人で並んで入学式と大きく書かれた立派な看板の前に立ち、記念写真を撮った。

愛華はずっと私の肩にべったりとくっついたまま写真を撮った。夏稀は何だか背後霊にでも取り憑かれたような気分だったが気にせず笑顔でピースしていた。貴啓はそんな二人を見て横でずっと笑っていたが、写真の時だけは普通にしていた。

そういえば貴啓はいつでもそうだったな…とふと思った。私が卒園やら卒業式やらで泣きじゃくる時とか楽しくてしょうがない遠足や修学旅行でも普通だった。私はよっぽど変な顔で撮られた事があったのかと思っていたが、それは違うようで貴啓は決まって普通の顔をしていた。

その事だけまだ謎ではあった。

三人仲良く記念写真を撮り終えて、式も終わるとクラスの発表だった。

私と貴啓と愛華は変わらず三人同じクラスで、貴啓だけがまたかぁ…と呆れていたが私は構わず愛華と喋っていた。

そして、HRが終わるとすぐに解散した。


帰り道、愛華は親の迎えがあり先に帰って私と貴啓は家が隣なのもあって一緒に帰ることにした。

「夏稀はさ。友達できそーか?」

「へ?うん。まぁできなくても愛華も貴啓もいるなら何とかやっていけんでしょーよ」

と返す私に貴啓は微笑んだ。

「さてと、帰ったら課題やんねーとな!」

「あ、私終わったから」

と言う私に貴啓はきょとんとした顔になる。

「え、嘘だろ」

「や、本当だよ」

貴啓はあり得ないと言った顔で落ち込んでいた。

「俺…まだ終わってねーよ…」

そんな貴啓を笑いながら私は貴啓を見た。

「しょうがないなぁ、一緒にやってあげる」

貴啓の顔が段々明るくなるその姿に笑いそうだったけど、頑張って堪えて貴啓を見ていた。

「まじか!さんきゅーな、夏稀!!」

「そのかわり、何か今度奢ってよね~」

「あぁ、分かってるよ」

夏稀と貴啓は笑いながら帰り道を歩いていた。


そう、いつもと変わらない時間。

これが、私にとって日々で一番楽しい時間。


それなのに、

私の楽しい時間は一瞬で変貌を遂げ、

最悪な事態へと向かうことになった。

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