オープニング
***①***
カァカァ
俺の名前はルーズベルト。
人間じゃない。
カラスだ。
だからこんな声しか出ない。
でも自分の声は案外嫌いじゃないぜ。よく聞いてみると、な、結構渋いだろ。
仲間にはどういうわけかこの言葉だけで言いたいことが伝わる。
人間にはカァカァとしか聞こえないが、俺たちカラス同士には言いたいことがちゃんと聞こえる。
ちなみに人間の言葉も理解できる。
じゃあ他の動物には伝わるのかって?
さぁな。
伝わることもあるし、伝わらないこともあるだろう。
だいたい、動物なんてみんな自分たち以外のことなんて興味ないのさ。
意外と人間も動物の声に耳を澄ましてみたら言いたいことが伝わるかもしれないぜ。
カァカァ
俺たちが何か伝えようとしても、スズメは逃げるし、犬は吠えるし、人間は知らん顔だ。
結局そんなことの繰り返しが伝え合う力を退化させてるのかもしれないな。
ところで俺の趣味は、こうして電柱に止まって目下に行き交う人間たちを観察することだ。
時々犬と、猫と、美味しそうな生き物を見かける。
お気に入りの電柱は何ヶ所かある。
一日中電柱に止まってても、意外と飽きないんだぜ。
何しろ人間は考える生き物だからな。そのくせ感情的でもある。
一日一ヶ所だけにいても、そこで何度も面白い出来事が起きる。
そんなことだから、この世界にはどれだけの面白い出来事があるか知れたもんじゃないな。
ってのも、俺の一番好きなこの電柱に止まって考えてる。
「ようルーズベルト」
「おう、オーヴィス」
オーヴァスが俺の後ろから飛んできて、隣に止まった。
こいつは俺の一番の友達だ。
友達の概念が人間と一致しているかはわからない。
話をしてても興味を失ったらすぐ飛び去るし、空中ですれ違ってもその場で飛びながら話をすることもない。疲れるしな。
まあとにかく互いが互いを許し合える仲であることは間違いない。と、俺は思っている。この種の誤解はどの生物にも共通しているからたいして問題じゃないけど。自分の問題だ。
ちなみに、全てのカラスに名前があるわけじゃない。人間のように本名とかあだ名はない。
親から授けられるものでもないけど、お互いを呼ぶときに不便だからお気に入りの名前を勝手に名乗っているだけだ。
名前が無くてもやっていけるし、初対面だからと言っていちいち自己紹介をするやつもいない。
こんな調子だから名前かどうかわからないような名前を名乗っている奴もいるし、名前がコロコロ変わる奴もいる。名前がかぶることもままある。
ちなみにルーズベルトてのは、どうやらアメリカですごいことをやってのけた人の名前らしいな。人間が話しているのを聞いた。響きが良かったからこの名前を拝借した。
「ルーズベルト、またここで人間の奴らを見てるのか。よく飽きないな」
「案外見てると面白いもんだぜ。だいたい他にすることもないしな」
「確かにそれもそうだ。ま、また面白いことがあったら教えてくれよ。じゃ」
そういってオーヴィスは飛び去った。
太陽はちょうどてっぺんに差し掛かろうとしている。