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英者は次男坊!  作者: ゼット
◆シーズン2
32/33

第12章 ミュウの大冒険

 ――その頃、エクスディア城では、ファルナたちの激闘など想像もつかないほどの、安穏としたときが流れていた。

 

「アリーザたんも出かけちゃったし、ひまだニャア。ふみゅ、ジェードたんとファルナたんは旅に行ったきりだし。あれ? ラック君はどこに行った?」三男の侍女を勤めるミュウがキョロキョロして言う。

 

 口には棒状の氷菓子をくわえたままだ。こんな子供ぶりで、侍女がつとまるのかというツッコミは城内で多々あるが、そこはそれ。彼女には優れた魔法の才能があった。

 

 三男のラック少年も、(次男のジェードと違い)多大な才能があったが、それすら凌ぐ才能だ。天賦の才だけでいえば、かのアリーザ、ファルナですら舌を巻くほどだ。

 ただし、彼女はファルナたち先輩侍女と違って頑張ることが大嫌いだった。毎日を、もちゃもちゃと怠惰に過ごすことが大のお気に入りなのだ。

 

 しかし、そんなミュウであっても、御主人であるラックが見当たらないのは大事件だ。ミュウは、午後のお昼寝でもしようと思っていたが、その重い腰を上げた。

 

 そして、ジェードよりも速度の出る「テンペ=スピードス」をとなえた。

 

「ラックくーん! どこですかー?」ミュウの呼び方は、完全に友達感覚だ。

 

 しかし、第二王子であるラックの返事はない。城内を全力疾走で駆け抜け、くまなく探す――だが、いない。

 

 ミュウは小首をかしげた。まさか……

 

「ああ、お外でひなたぼっこしてるんだ! もう、ミュウをほったらかして、プンプン」

 ほおを膨らませて怒る。完全に、侍女としての役目を忘れているようだ。

 

 長い廊下をせわしなく行き交うメイドさんたちに軽く手を振りながら、正門へと急ぐ。こう見えても王子付きの侍女は、一般メイドと比べて地位が高く、みんながかしこまって挨拶をしてくるのだ。

 

 サラマンダーの彫刻でアーチが造られた、正門が見えてきた。よしっ! ミュウは御機嫌になって更に加速する。

 

 ゴツンッ!

 

「あいたたたっ……」ミュウは、まだまだ低い鼻を押さえながら言った。

 

 不意に現れた人影に、思い切りぶつかってしまったのだ。

 

「何じゃ、騒々しい。エクスディア城では、わらわのことをぶつかって出迎えるのか、全く」

 

 声の主もミュウと同様に、(成長過程の)まだ低い鼻をしていた。それを割り引いても、透き通るような白い肌と、眉でそろえた黒髪のコントラストが目を引く。

 細く長く伸びた眉とまつげも、美少女の条件を満たしている。

 

 クラウス国王女――ラーゼ・クラウスは、短めのコルセットドレスをぽんぽんと払いながら言った。彼女も小柄な方だが、ミュウは更に一回り小さいため、衝突のダメージはさほどなかった。

 

「ご、ごめんなさい……クラウス王女ですよね。ちょっと、急いでて……ふみぃ」

 

「まあ、よい。お前もケガはなさそうだな。ときに、確かミュウといったな、そなた。その……あやつは、たまに帰ってきたりはせんか? うん? それか……どこにいるのか、そういった情報は入ってこぬか?」

 

 ミュウは、それが誰のことを指すのかさっぱり分からなかった。

 

「えっと、ラック君のことですか? 今、探してる所なんです……」

 

「なぬ? い、いや……その。そやつではなく、それの兄貴のことなんだがの……そのぅ、あのぅ」

 

「ああっ! ジェードたんですか!」

 

「そそ、そう、それじゃ。確か、そんな名前だったな。うん、そなたの国の王子じゃろうて。わらわが会いにきても、別におかしくはじゃろう。肩書きは、これでも王女だからな」

 

 ラーゼは目をそらしがちで、しどろもどろな口調だ。ミュウはその理由に気づくほどの、人生経験をまだ積んでいなかった。

 

「えっとね、最近は……どこにいるって言ってたかなぁ? ブロックにゃんとかって聞きましたけど……」

 

「ほう、ブロックにゃんとかか……っ!? ま、まさかとは思うが、ブラックスラムの聞き間違いではなかろうな。いや、まさかな……」

 

「それっ、それでした! ブラックスラムで間違いないです! ミッミッ!」

 

 ミュウはうれしそうに飛び跳ねる。そのたびにツインテールが跳ね上がり、ちょうど顔の位置にくるラーゼは、その髪を迷惑そうに払いのけた。

 

「よもやブラックスラムとはな……。あの侍女は何をしておるのだ。何を好んであのような区域に行っている。社会勉強を通り越して、まるで武者修行ではないか、全く」

 

 ラーゼの言葉に、ミュウはきょとんとした表情を浮かべた。やがて……

 

「あっ! ラックたんを探すのを忘れてました! それじゃ王女様、御機嫌ようですー」

 ドタバタと、ミュウのツインテールが小さくなっていく。

 

「やれやれ、本当にエクスディアの連中は騒々しいのう。おっ、そうじゃ。話の分かる、落ち着いたアリーザがいたではないか」

 

 ラーゼはポンと左手に右手で判を押すと、そうつぶやいた。いつものようにお忍びで遊びに来ているので、執事や侍女の類はお供していない。ひとり身の身軽さを利用して、長い廊下を歩き始める。

 

 ラーゼの魔法の腕も相当なものなので、周囲はともかく本人は余り襲撃などの心配をしていない。王立図書館の膨大な知識を有していることが、その自信の源だ。

 

「ふむ……しかしジェードは、ブラックスラムなどで何をしておるのだ?」

 

 その問いに答えられそうな者は、今日のエクスディア城内にはいなかった。

 


 ミュウは正門から広大な庭園に出ると、少し丁寧にラックの姿を確認し始めた。

 数名の庭師が花や草木をせん定しているので、大きな声で話しかける。

 

「すいませーん! ラック王子を見ませんでしたかー」

 

 おチビちゃんの侍女に、みんなにこやかに手を振る。そして、その質問に対して何名かが顔を見交わしたが、共に小さく首を振った。

 

「今日は、ここら辺では見かけてませんよー。いつもだったら、この木にハンモックをかけてお昼寝してるんですけどねー」

 

 庭師見習いの若い男が、額の汗を拭きながら大きな声を返す。彼が言うとおり、ラックはハンモックに揺られながら読書をするのが大好きだ。ミュウはそれを見守りつつ、横で昼寝をするのが日課になっていた。

 

「今日は朝から、見てないんですぅ……。いつもだったら、誘ってくれるんですけどぅ」

 ミュウは初めて不安げな声を出した。まだ昼前でそれほど時間はたっていないが、どうも嫌な胸騒ぎがする。その嫌な考えを押さえつけるような、すばらしいひらめきが浮かんだ。

 

「あっ! もしかして、あそこにいるのかも! 庭師さん、お騒がせしました」

 

 小さな風を巻き起こしながら、ミュウは姿を消した。

 

 ――そこは、城内の敷地ぎりぎりの場所。

 

「ラックたーん。いるのー? 一人で来ちゃ駄目だよー。ミュウのことも誘ってよー」

 

 ミュウは、芝生が敷き詰められた地面に向かって言う。城の境界線近くの場所であり、周りに使用人やメイドさんたちの姿はない。ちょっとした、外れの場所だ。

 

 ラックからの返事がないことを確認すると、芝生に向かって手を突っ込み始めた。モソモソと小さな手を動かし、やがて二つの取っ手がついた引き戸を見つけ出す。その古びた木製の扉をずらすと、そこにぽっかりと地下への入り口が出現する。

 

「もう、誘ってくれないなんて……ひどいな、プンプン。えっと、フレア=リロージョン!」

 

 カビとコケの匂いが入り交じる地下道は、真っ暗だった。フレア=リロージョンによるあかりがミュウの足下を照らす。

 

 地下道へ通じるハシゴは、途方もなく長く伸びている。しかし風魔法を習得しているミュウにとっては、特に問題はなかった。あかりをつけながら宙に浮くという離れ業も、天才侍女のミュウにとっては造作もなかった。

 

 

 ――ラックとミュウがその地下道を見つけたのは、ほんの数週間前のことだ。

 

 読書好きのラックが、エクスディア城の歴史書『はるかなるエクスディア――その秘密に迫る』を読みふけっていた。すると、四五六ページ目に、気になる記載があるではないか。

 それによると、何でも城のどこかに敵国の襲撃に備えた、外部に通じる抜け道があるらしい。今は使われていないが、その抜け道は他の大陸につながるほどの規模で、エクスディア城の栄華を誇示するものだった。

 

 一日三千人の魔法使いを投入し、当時最高の魔法技術の粋が結集されている――その記述に、少年の心は躍った。

 

「何としても、その地下道を見つけてやろう!」

 

 ラックの探索は、思いがけないかたちで実を結ぶことになる。

 

 その日は朝から昼寝用のハンモックの設置場所を、トテトテと探していた。丈夫な木でなくては、水魔法の「ウォル=タックモック」をかけることができない。

 

 ちょうどいい樹木を探している間に、随分と遠出をしてしまった――ラックとミュウは、そう思った。追いかけっこのようなスピードス、思いがけずに、敷地の端まで来てしまっていたのだ。すると何もない芝生の地面に、ラックの小柄な体が勢いよく転がった。

 

「あいたたた……」

 

「どうしたの? ラックたん。何かにつまずいた?」

 

 二人の少年少女が地面を注意深く探すと、けつまずいた場所から、古びた取っ手がのぞいていた。

 

 

 ――その地下道を、今ミュウは一人で歩いている。水が滴り落ちる音が、奥深い坑道内に反響する。

 

「この前は、ここら辺で一旦引き返したにゃ。でも……やっぱりラックたんが、ここに一人で来てるのは考えられないかも。うん」

 

 ミュウは冷たい風が吹き抜ける坑道で、冷静さを取り戻した。ラックの方は、長いハシゴを下りるための肝腎の風魔法を習得していないのだ。ラックもミュウと同様に優秀だが、彼は幾つかの水魔法しか習得できていない。

 

 最初の探検ではミュウがラックをつかんで浮遊し、地下道を降りたことを思い出した。となると、ここにラックがいると考えるのは不自然だ。

 

 ミュウは自分の頭をコツンとやった。曲がりくねった坑道を、かなり長く歩いてきたが、ここは多分、お城の真下に位置するだろう。やっぱり城の中に一度戻って、見落としがないか考えてみよう。

 

 その思いを惑わすかのように、何かの音が聞こえた――まぎれもない人の声だ!

 

 思わず「ラックたん!」と叫びたくなったが、ミュウは自分の口を両手で押さえた。どう聞いても、その声はラックのものではない。明らかに、大人の声だ。それも、男性二人の話し声だ。

 

 ミュウはリロージョンを素早く消して、地下道の壁にぴったりと身を寄せた。その小さい体は、歴史ある感じさせるれんが造りの壁に同化して見えなくなった。

 

〈はーあ、地下は涼しいのが、せめてもの救いだよな……。上のヤツらなんて地獄だぜ。夏の暑さに重労働じゃ、すっかりやられちまう〉

 

〈全くだ。うちの司教はタチが悪いぜ。こうやって、隠れて休憩でしなきゃ、やってらんないよな〉

 

 そのとき、三人目の声が坑内に響いた。

 

「そこのお前! そこで何をやっている!」

 

 ミュウは、風魔法なしでも地上に出られそうな勢いで、驚いた。しかし、その呼びかけはミュウに対してではなかった。

 

「へえ、すいません。ちょっと作業場所をこいつが間違えたもんですから」

 

「すぐに持ち場に戻りますから、何とぞ御容赦を」

 

 二人の男がそう言うと、三人目の男がゲキを飛ばした。

 

「お前たちは、重要な任務に就いているのだぞ! さっさと戻れ、作業場は向こうだ!」

 ミュウには、男たちの話の内容はさっぱり分からなかった。また、その男たちがエクスディアの人間とは思えなかった。男たちはそれぞれの手にランタンを持っていたが、そのあかりで浮かび上がった三人は、ミュウが見たこともないローブ姿をしていた。

 

 

 どうしよう……。ミュウの頭はフル回転した。ここにラックがいないことは、およそ確認できた。どう考えても、こんな場所に一人で来ているとは考えにくい。冒険をするのであれば、自分のこともちゃんと誘うはずだ、と。

 

 しかし地下とはいえ、エクスディアの敷地に侵入している者たちがいることは見過ごせない。一旦、城に戻ろうか……。そう考えたとき、あるひらめきがミュウを貫いた。

 

 そうだ! ここであの人たちが何をしているのかだけは、見ておこう!

 

 ミュウには、とっておきの秘策があった。彼女のエージャーは、正にそうしたことを得意としている、中年衛兵風のエージャーだった。

 

「エージャー! キット、ミット、アラワレルットゥ!」

 

 ミュウのメダルは、白銀の珍しいものだった。暗闇で小さくエアリリースを決めると、雇い兵のような男が、姿を現した。

 

「どうした、ミュウ。苦戦してるのか?」瞬時に状況を察知し、声を潜める。

 

 エージャーのボッシュは人型で、地味な深緑の服を着ている。潔いまでの短髪で、顔にはうっすらと服と同じ深緑の模様が描かれている。どこから見ても、特殊任務を遂行する感じの中年衛兵だ。目元と口元には、人生の悲哀を刻んだしわが何本か見える。

 

 落ち着いた調子の低音で、話を続ける。

 

「対象は、この先にあるのか? 了解した。この身を賭して潜入してこよう。幸運を祈っててくれ」

 

 ミュウが暗闇でうなずくだけで、事情を察してくれる。というより、いつもこうした潜入調査のときに呼び出すものだから、彼の方で話を先回りできるだけなのだが。

 

「ボッシュさん、無理はしないでね」

 

 ミュウが言うと、エージャーのボッシュは、中年男の姿で言う。

 

「嬢ちゃん、了解した。子供の悲しむ顔は見たくないからな」

 

 そしてミュウのツインテールを、その大きな手でクシャとやる。端から見ると、ボッシュはエージャーには見えない。ただの気のいい戦闘兵だ。

 

 ボッシュは、即座に任務を開始した。ミュウがフレア=リロージョンを消している上、先ほどのランタンを手にした男たちも姿が見えなくなっていた。すなわち、静寂の闇が辺りを包んでいる。

 

 ボッシュはその長身を地面になげうち、音を立てずに潜入していく。

 

「テンペ=ショーダス!(小人の噴風)」

 

 微量の風魔法を噴出し、腹ばいの体勢のまま地面を滑る。まるで、ベビーリザードがスルスルと地面を駆け抜けるようだ。

 

 幾つかの通路を抜け、坑道の核心へと迫っていく。やがて、通路が交差する広い場所に出た。そこには……

 

「な、何だこいつは……」

 

 数々の潜入捜査(とはいえ、ほとんどがミュウの依頼だが)をこなしてきた彼であったが、その物体は予想していなかった。

 

 そこには山吹色に塗装された、巨大な魔鏡列車が置かれていた。その周囲には、ローブを着た何人かの作業者が見える。

 

「――これは、地下用の魔鏡列車か! 初めて見るぜ、こんなのは」

 

 エクスディア大陸にしろ、ファンブレア大陸にせよ、地下を通る車両などは存在していない。ボッシュは自らの知識を照合した。だとすれば、この列車が世界初の車両となる。その所有者についても、ボッシュには知識を持ち合わせていた。

 

 車両先端の丸い部分には、紋章が描かれている――二匹のヘルモグラだった。

 

 ボッシュは、ポケットがたくさんついた戦闘服から小型のテレプスを取り出した。

 

「こちら、ボュシュ。ミュウ、応答願う。どうぞ?」

 

「こちら、ミュウ。戦況をお知らせください、どうぞ?」

 

「敵国さんの魔鏡列車が、見つかったぜ、嬢ちゃん。どうする? いっちょ爆発させちまうか?」

 

「だ、駄目ですぅ。……って、列車があったんですか! どうしよう、ミュウじゃ分かんないですぅ。とりあえず、戻ってきてください!」

 

「了解した。直ちに撤収する」

 

 ボッシュは、ここぞというときに何かと問題を起こす。能力が欠けているとかではない、特殊な星の下に生まれたようで、知らず知らずに不運を引き寄せてしまうらしい。

 

 ボッシュがテレプスを切り、来た方向へと体を向ける。すると体を回した拍子に、把握しきれていないポケットから、ポロリと玉型の武器が転げ落ちた。

 

 それは、威嚇するための音響弾だった。せん光とさく裂音はすごいのだが、特に攻撃力は持っていない。飽くまでも、敵をひるませるための武器だ。

 

 投げて使う武器であるため、敵の近くまで転がるようにと完全な球体をしている。

 それはまるで、意志を持った道具のようにコロコロと転がり、魔鏡列車の真下に到着した。

 

 ローブを着た作業者が、勢いよく踏んだとき、爆弾のようなさく裂音が坑道に響き渡った。

 

 ――ちょうどその頃のラック。

 

「どこいっちゃった? 変だなぁ。ミュウたんはどこにいったんだ?」

 

 心の内を口にしながらも、さほど動じてない様子でゆっくりと長い廊下を歩く。

 エクスディア城名物の、長距離回廊だ。

 

「あっ、ラック王子。先ほどミュウちゃんが探してましたわよ。何でも、すごい血相で走り回ってらして……」

 

「そうなんですか、ありがとうございます! 実は、僕も探してる所なんです!」

 

 ラックはそんなのん気な返事を返すと、スタスタと長い廊下を歩き始めた。こういうときは、下手にこちらから探そうとすると、すれ違ってしまう。まずは、お城の中で待っててみよう――そう考えた。

 

 そしておもむろに、いろいろと飾り付けられた扉の前に立った。念のために、優しくノックを二回。

 

「ミュウたーん。いないよねー。入るよー」

 

 部屋の中は、ふかふかした物体で飾り付けられていた。窓や天井から、いろいろなおもちゃがぶら下げられ、ここは年中、何かのお祝いの日のようだ。

 

 ラックは、自分の部屋より落ち着くので、よくミュウの部屋でおしゃべりをする。手には、分厚い小説を持っている。

 

 よいしょっと――。ベッドの近くに腰を下ろす。ここもベッドの上の囲いが、レースなどで飾り付けられている。どこかの王女の部屋といっても通じそうな感じだ。

 

 大好きな冒険小説を、読みふける。ラックには、将来作家になるという夢があった。そのときには、王子とばれないペンネームを使おう、などとすっかりその気だった。

 

 ラックは夢中で、小説の世界に浸りきっていた。少年の剣が舞い、少女の魔法がさえ渡るシーンだ。そんな彼の頭の中の冒険を、とてつもない音が邪魔をする。

 

 ドー――ーンッ!

 

 その音は、床の下から突き上げるように聞こえてきた。何かの爆発音? ラックはそう判断し、直ちに身構えた。しかし、数十分たっても特にそれ以上の変化はなかった。

 

 お城の衛兵も、ミュウの部屋に飛び込んではこなかった。それじゃあ、緊急事態ではないのだろう。ただ、大きな音がしただけだ――ラックは自分にそう言い聞かせると、また本の冒険の世界へと戻っていった。

 

 うーん、何て平和な日だ。ラックは、顔をほころばせた。

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