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3-5

 

 五月も中旬のとある昼休み。中等部4年D組では、もう何度目かになる極秘会議(ミーティング)か行われていた。呪文の書かれた紙が教室のあちこちに張り巡らされているのも、数珠のようなものを持った溝端が呪文をつらつらと並べ立てて唱えているのも、最早愛嬌である。


 本日の参加者は、泰太、進藤、レイナ、花山の4人だった。広園は、集団戦闘試合のトーナメント発表を見に行っているため、この場にはいない。


「——集団戦闘試合の基本隊形なんだけど、広園とも話し合って“少人数制”にしようかな、って思ってるんだ」


 そのため、今日の極秘会議(ミーティング)での進行役は、泰太に一任されていた。


「基本に忠実、ということか」

「ああ。あんまりごちゃごちゃにしても、あとあとめんどくさくなるだけだからな」


 進藤の問いに泰太はそう答え、続けた。


「こっちのホームに守護魔法をかけるのが溝端。ホームからは後方支援で、遠距離攻撃で相手側のホームの守護魔法を壊してほしい。これは進藤がリーダーで皆んなを引っ張ってくれ。頼むわ」


 進藤は了解、と言って頷いた。


「他は上手く戦闘バランスを取りながら、男女関係なく、6〜7人体制の小チームを作る。そして前線で相手と戦う。基本的に作戦はそれぞれのチームの中で決めて貰うようにしようと思ってるけど……大まかはこんな感じか。なんか意見とか質問なりあったらよろしく」


 泰太は3人を見回し、意見を求めた。3人はしばらく泰太の話を頭の中で反芻している様子であった。


「……戦闘バランス……ね……」


 花山が眉を寄せてそう呟く。


「ん? 」

「……でも、ある意味“火力”になってくれるチームは必要じゃない? 戦況が動かないから」

「つまり、どこか強いチームを作るってことか? 」

「そんな感じ」


 泰太は成る程、と頷いた。そこへ進藤が挙手して割り込む。


「それをやってしまうと、必然的にどこか“力不足”のチームが出来てしまわないか? 」

「そんな事言ったら、チームメイト同士の相性でもチーム力は左右されるわよ。それに、突破口を開けるチームがいなきゃ、進展がないまま終わっちゃうと思うけど」

「だが、力不足のチームは穴になりやすい。狙われるとあとあと厄介にもなる」


 花山と進藤の意見は平行線で進んだ。泰太は口を挟まずにそれらを全て聞いている。


「あのー、瑠璃ちゃん? 思ったんだけど、“火力”の事は考えなくても良いんじゃないのかなぁ? 」


 進藤と花山の議論が煮詰まってきた所に、おずおずと入ってきたのはレイナだった。花山の「……何で」という強い口調に一瞬怯むも、レイナは首をすくめて恐る恐る言った。


「……だって、泰太君、いるもん」


 その言葉に1番驚いたのは、恐らく当本人の泰太だっただろう。


「いや、レイナ、広園も言ってたろ? 極力オレは使わないって」

「でも最初から最後まで前線に出ないわけじゃないんでしょ? 泰太君、接近戦専門だし」

「いやまあ……そうだけど……」

「泰太君が出たら、ふつーに戦っても火力になると思うけどな。レイナは」

「ええっと……」


 小首を傾げて話すレイナに、困った顔を向ける泰太。頬をぽりぽりとかきながら、泰太は何かを思案しているようだった。


「——僕はヴィンセントさんの考え、とっても良いと思うよ? 」


 そこへ入ってきた誰かの声。泰太の思考は停止させられた。4人が顔を上げると、広園がニッコリとレイナに笑いかけながら、泰太の後ろに立っている。予期せぬ声に振り向いて広園を見上げた泰太は、彼を見た途端に盛大にため息をついた。


「お前、言ってること矛盾しすぎ」

「そうかな。——皆んな、聞いてくれ! 」


 広園はおどけたようにそう言って返すと、途端に表情を引き締め、教室にいるクラスメート達に声をかけた。広園の一声で教室内には緊張が走る。


「先ほど、クラス対抗集団戦闘試合のトーナメント表が発表された」


 広園の言葉に、クラス中がわっとざわめいた。


「何処だ⁉︎ 」

「何組? 」


 クラスメート達の急かす声。広園はゆっくりと口を開く。


「僕らの第一回戦の相手は——」


 ごくりと唾を飲み込む者。真剣な表情で広園の言葉を待つ者。頬杖をつく者。様々だが、その場にいた全員が広園の次の言葉に注目していた。


「4年B組だ」


 ふっとクラスに張り詰めていた緊張が途切れる。と同時に、落胆の声がクラスのあちらこちらで上がった。


「うわぁ……マジかぁ……」

「去年の学年2位のクラスかよ……」

「やっぱり、下位クラスは強い所とあたるんだねー」

「厳しいなぁ……」


 クラスメート達の反応を、教室をゆっくりと見回しながら聞いていた広園が、小さく頷く。


「皆んなが思っている通り、初戦から結構キツイ試合になると思う。でも僕は、そんな簡単にD組が負けるとは思えない」


 広園は一息つく。


「最後の最後まで、出来ることをやっていこう。僕ら作戦(オペレート)チームも、最高の作戦を考えていきたいと思う」


 誰かがヒューと口笛を吹いた。続いて起こる拍手。「いいぞー、リーダー! 」という声に広園は笑って対応していた。


「お前、ほんっとリーダーの才能あるよ」

「でしょ。でもこのクラスの皆んなが、人が良いのもあると思うよ」


 再度呆れた表情を広園に向けた泰太に、苦笑を返して席につく広園。


「——それで、泰太が火力って話ね? あのさ、泰太。君、初戦のど初っ発、広範囲攻撃を使ってくれないかな? 」

「……話が唐突過ぎるんだけど。……何で? 」


 額に皺を浮かべ、訝しげな表情で広園に問う泰太。広園は得意の腹黒い笑みを浮かべて言った。


「理由は、泰太を相手にマークさせるため、かな」

「囮かよ」

「うん。まあね。そんなところ」


 一瞬の躊躇いもなく断言した広園を、泰太は切なげな表情で見ていた。「いっそ清々しいわ……」と天井を仰ぐ泰太に、進藤、レイナ、花山は苦笑する。


「あと、泰太の完全復活は未だに信じてない人が多いみたいなんだ。だからそれを示すためっていうのもある」


 広園の言葉に、腕を組んでいた進藤が「意見あり」と手を上げた。


「それだったら、尚更隠し玉としても良いんじゃないか? 」

「それでも良いんだけど、最初に泰太の力をドカンと見せる事で、後々牽制になるかな、とも思ったんだ」


 広園は笑う。


「強力な広範囲魔法は、誰もが使えるモノじゃないし、いきなりそんなのがきたら、また来るんじゃないかと相手をビビらせる事が出来る。1戦目でも十分牽制出来るし、2戦目以降も牽制出来る」


 そして、と広園はニヤリと不敵に笑った。


「相手は広範囲魔法の防御もしながら戦わなきゃならないから、疲労も早くなるし、精神的にもくるでしょ? そこを僕らは泰太を使わずに一気に攻めていく。全般的に、そういう戦いをしていきたいな、と思ってるんだ。どうかな? 」


 広園の作戦に、レイナと花山が「ほお……」と感嘆の声を上げた。対象的に、泰太は心底呆れたような表情で広園に文句をつけた。


「お前さぁ、前、オレが魔法学の宿題で兵法の問題解いた時に、“兵法なんてロクでもない”とか言ってたけど、今のお前の作戦も、相当ロクでもねえんだけど? 」

「そうかな? ——敵をどうやって葬るか。考えていてワクワクしたよ」


 人を食ったような笑みを口元に浮かべながら、低い笑い声を上げる広園を、額に冷や汗を浮かべて口元を引きつらせる他の4人。泰太は「……完全無欠の加虐愛(サディズム)人間」と漏らしている。


「泰太? 何か言ったかい? 」

「滅相もない。大将(クラスリーダー)様に意見申し上げようなんて、これっぽっちも思っておりません」


 悪魔の笑い顏のまま、眼鏡越しに泰太を睨む広園。一方、泰太は冷や汗をダラダラと垂らしていた。


「……えーと話を戻して。取り敢えず今の作戦、軍師(オペレートリーダー)の君から見て、良いのかい? 悪いのかい? 」


 表情を元に戻した広園の言葉に、泰太は顎に手を添えて「そうだなぁ……」と唸った。


「相手を牽制する、ていう意味では広園の作戦、物凄く良いと思う。怖いのは、それによって相手がより慎重になっちまうことかな。広範囲攻撃魔法の対策として、広範囲守護魔法をかけられちまうと、確かに疲労も早いしポイントは削られるけど、その分こっちも攻めづらくなる。ただ——」


 泰太は言った。


「——相手がオレをマークしてくれる事は、良いことかもしんねえな。初戦は不意打ちになるし、2戦目以降は、オレを使ってくる、ってどのクラスも思うだろ? でも、うちのリーダー曰く、オレを極力使わないで勝ちに行くらしいから、他のクラスの予測は大きくハズれる事になる。そうすれば、相手を混乱させることも出来ると思う」


 泰太はそう言うと、一つ頷いた。


「良いんじゃね? それでいってみるか」

「意見あり」


 挙手したのは花山だ。花山は固い声で、「私の意見の根本的な解決がなされていない」と言った。


「シャクシャイン君がどう動くのかはわかった。それで、戦況を大きく進める駒となるチームをどうするのか。私はそれを聞いたんだけど」

「——ごめん。僕、話に割り込んだ上にきちんと会議の方向を理解してなかったね」


 花山の指摘に、即座に謝る広園。それから広園は花山に向き直り言った。


「今の花山さんの意見なんだけど、それについては心配してない。多分、君が引っ張るチームは強くなるはずだから」


 広園の言葉に、花山は「え? 」と驚いて目を丸くした。


「どういう事? 」

「花山さん、君は文句無しの実力者。多分、花山さんのチームは、君が先頭に立って相手のホームに至る道を作り、チームメイトと共に大きく打撃を与えながら進軍する。それで、花山さんのチームには、別任務があるヴィンセントさんが途中まで同行するので、君のチームには上位実力者が2人いることになるんだ。……十分すぎる火力にならないかな? 」


 広園からの予想外の解答に、花山は驚いたまま静止。しばらく経ってようやく口を開いたが、「……私が相手のホームまで道を作るの? 」と口をパクパクさせている。


「そういえば琉璃ちゃんはクラスで3番目の実力者だもんね。それなら安心だ! 」

「……私もレイナの護衛があれば安心かな」

「任せて! 琉璃ちゃんには指一本触れさせないから! 」


 胸を張るレイナを見て、口元を引きつらせながら笑う花山。俯いた花山の口からは「……責任重大責任重大責任重大……」という言葉が繰り返し呟かれていた。


「まあ、花山さん? あんまり気負いすぎないで。いつも通りで頼むよ? 」


 苦笑した広園はそう言うと、顔を上げて壁にかけられている時計を見上げた。


「……よーし、いい時間かな。今日はお開きにしよう。ヴィンセントさんと泰太だけちょっと残って。進藤と花山さんは机を元に戻しておいてくれるかな? 」


 手早く指示を出す広園。立ち上がった4人はそれぞれに言い渡された指示に従う。花山と進藤が、会議のためにくっつけた机を元に戻している横で、広園はレイナにある話を切り出した。


「さっきちらっと言ったんだけど、ヴィンセントさんには花山さんのチームで戦うだけじゃなくて、一つ“別任務”を頼みたいんだ」


 レイナは小首を傾げて頷く。広園は泰太に確認するように目で合図をした。泰太の頷きを受け取り、広園は再度レイナに向き直る。


「泰太と話し合って決めたんだけど……」


 広園は言った。


「君に、泰太の護衛を頼みたいと思ってる」



読んで下さり、ありがとうございます。

お久しぶりです(^^)

相変わらずの遅筆で、申し訳ありません。


体育祭当日のエピソードまであと2話となりました。自分でも楽しみになってきています^^


次の話も、少し時間が空いてしまうかと思いますが、どうかお付き合い下さいm(_ _)m

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