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3-3

 

「うわあ、お前気の毒。あの、泰太・シャクシャインと同じクラスなんてよ」


 中等部3年初登校日。玄関に貼り出されたクラス分け表を見に行った時、俺は2年まで同じクラスだった奴にそう言われた。


 元々、同級生の情報になど興味はない俺だったが、泰太・シャクシャインの事だけは知っていた。


 入学当初から天武の才を発揮し、洋介、春斗に継ぐ学年3位の実力。風間学長の娘、風間 豊音に師事し、1位2位の洋介と春斗とは共に幼馴染。持って生まれた才能。そして風間 豊音という有名な魔法使いに師事出来るという運。とことん幸運の女神に愛されたような奴だった。


 ただ、羨望の目に止まらず、そいつはやっかみ、妬みの目も集めやすい奴らしかった。


 曰く、人を見下すような態度を取り、

 曰く、相手を挑発するような言動を多々して、

 曰く、自信過剰のナルシストである、


 とにかく問題のありすぎる奴だと言われていた。誰もが嫌うような存在。泰太・シャクシャインとはそんな奴だと。




 ★★




「じゃあ次、シャクシャイン」


 クラス発表があったその日。教室で自己紹介が行われた。


 担任の声で立ち上がる奴。俺は顔を上げてそいつを見た。学年で最大の問題児と呼ばれる奴がどんな自己紹介をするのか興味があった。


「……2年A組だった泰太・シャクシャインです。部活は入ってません。2年間よろしくお願いします」


 覇気のない声音。拍子抜けするほど短く、平凡な自己紹介。俺は、やっぱり噂にはおひれはひれつくものなのか、と思った。


 周りも俺と同じことを思ったやつがいたようで、シャクシャインが座ってから、暫くざわざわと教室はざわめいていた。


「……じゃあ噂は本当なんだ? 」


 俺の近くの席の女子生徒達が、こそこそと内緒話を始める。自然と俺は耳をすました。


「11月にあった上級連合生行方不明事件。いなくなったのって、洋介君と春斗君なんだって」

「シャクシャイン君も巻き込まれたんだってね。3人でいた所を、襲われたらしい」

「朗報! ナルシスト君ね、その時のショックで魔法使えなくなってるんだって〜。しかも、上級連合降格させられたらしいよ」

「ええっ⁉︎ なに、天罰? 」

「しぃー。そんな事言わなーい」

「いやそうでしょ」


 俺は耳をすますのをやめる。

 青白い顔。目の近くにある生々しい刀傷。どこか影のある表情。俺はシャクシャインを見て小さくため息をついた。




 ★★




 俺があいつと接点を持ったのは、それから一ヶ月後の五月の最初だったと思う。それまでに俺は、自己紹介の時の女子の噂が本当であることを確信していた。


 シャクシャインは魔法が使えなかった。


 魔法実技の授業で、何度かシャクシャインが杖を振る姿を見たことはあったが、シャクシャインが魔法をまともに使えたことはなかった。かろうじて法力を杖に流すことが出来るだけで、法力を操り魔法を使えることは出来ない。


 それは、国中の優秀な魔法使いが集まるこの学院の最低レベルにさえも、到達出来てない事を意味している。クラス内でも、いつ、シャクシャインが自主退学するかというような話がちょこちょこされていた。


 そんな時だった。あいつが俺に話しかけてきたのは。


「えっと……進藤 進だよな? 」


 放課後、練習場に向かおうとしていた俺に、あいつがいきなり話かけてきた。


「噂で聞いたんだけど、進藤ってその……シューティング凄いって。それで、……折り入って頼みがあるんだけど」


 顔色の悪いそいつ。ただ、目だけは真剣そのものでそいつは俺に言ってきた。


「オレにシューティング、教えてくれませんか? 」




 ★★




「進ちゃーん、練習してるとこ悪いんだけどさ」


 間の抜けた零の声。進藤は我に返って身体を起こした。


「ん? 」

「シャクシャインの奴が試合形式でやってみたいって。俺もやりたいから、俺と、進ちゃんと、あとレイちゃん巻き込んでフライシューティングやんない? 」


 進藤は顔をしかめた。


「なんでレイナを巻き込むんだ」

「だってぇ、レイちゃん強いし可愛いじゃん? 」


 グフフ、と笑っている零にため息をつく進藤。


「却下。動機が不純すぎる。お前は何を想像してる」

「りーむーりーむー。無ー理ー。レイちゃん呼んでみたら間髪入れずにオッケー貰えたんだぜ。はっはっは、これはもしや俺に気があるのかも! 」

「あいつはお前じゃなくて……はぁ、いいや。勝手に妄想してろバカ零」


 進藤は再度ため息をついて立ち上がる。零はしばらくグフフフフ、と不気味な笑いを発していたが、急に真面目な顔つきになり、笑うのをやめた。さりげなくメガネに手を添え、口元に笑みを浮かべ、零は「それから……」と勿体ぶって言う。


「手、抜くなよ。—— 1時間しかやってないのにさ、シャクシャインちょいヤバイわ」


 進藤は怪訝そうな表情で零を見た。


「本気でやんないと、マジ負けるぜ。俺はプライドが許さないんで、——死ぬ気で勝ちに行くわ」


 零はそう言うと、また元のチャラチャラした笑顔に戻って進藤に背を向けた。ひらひら〜と手を振り、「ではお先に〜」と言いながら練習ボックスを出て行く。


 進藤は、狙撃銃を軽く撫でると、練習ボックスを出た。歩きながら軽く整備点検をし、ロッカーにしまう。そして、ロッカーから、銃身の短い拳銃タイプの魔法小銃を2つ取り出すと、それらもその場で整備点検をした。


 念入りに銃を診ていく進藤。暫く銃を弄り回し、そして満足そうな表情になると、進藤はロッカーに鍵をかけてその場を立ち去った。


 進藤の腰の革ベルトには2つの小銃が収まっていた。




 ★★




「は? 」


 自分でも驚くくらい、間の抜けた声が出た。俺は耳を疑う。今、奴はなんて言った?


「いやその、……迷惑じゃなかったら、だけど……いや、迷惑だよな、ごめん。……もし、時間があればでいいんだけど……」


 俺の反応を見て、慌ててそう付け加えてくるシャクシャイン。しどろもどろになりながら、語尾がだんだんと小さくなっていく。そしてそのままシャクシャインは俯いてしまった。


 まるで俺の返答に恐れているように、目をつぶってしまうシャクシャイン。俺は絶句していた。


 こいつは本当に人を見下すような奴なのか? 元々多彩な才能を持ち合わせているこいつが、自分のプライドをが殴り捨てて今、俺なんかに教えを乞うてる。俺は別に特段凄いスナイパーでもないし、上級連合にも入ったことがない。そんな俺に頭を下げているこいつは何なんだ?


 普通の奴でも同級生の奴に頭を下げて教えを乞うなんて、出来ないだろう。それに、本当のナルシストならば、どんな事があっても自分の陳腐なプライドを必死で守ろうとしないだろうか?


 俺は思わず笑みを浮かべてしまった。


「……シューティング教えてほしいって、具体的には何がしたいんだ? 」


 シャクシャインは弾かれたように顔を上げた。目を見開き俺を見る。


「え。……あ、えっと、体育祭でフライシューティングに出ようと思ってるんだけど、フライシューティング、やったことなくて。……あと」


 シャクシャインは困ったように笑って続けた。


「進藤もよく知ってると思うけど、オレ、全然魔法使えなくてさ。打開策を探してる所なんだ。それで、もし出来ればなんだけど、シューティングやりながら、オレの魔法がどうなってんのか、見て欲しいと思ってて……」


 そこまで言うと、シャクシャインはまた慌てて「あ、でもとりあえずフライシューティングだけで良いんだ! その後のやつは別にやってもらわなくてもいいから、迷惑だろうし」と付け加えた。


 俺は「いや、迷惑でないけど……」と返してから、少し考え、シャクシャインに一番の疑問を投げかけてみた。


「それさ……俺でいいのか? 」


 俺的には、そんなこと、果たして俺なんかがやって良いのか不安だった。シャクシャインは元々、風間 豊音という、誰しもが名前を知っているような有名な魔法使いに魔法を習っていたし、いくら魔法が使えないといっても、俺なんかが教える事なんてないと思ったからだ。


「……いや、その前に、肯定的な意見もらえたの、進藤が初めてなんだ。それに進藤の魔法、授業で見てたんだけど、すっげえ綺麗だし、今のオレに足りない所、進藤だったらわかるかな、て思ったんだ」


 再度、困ったように笑いながら、シャクシャインは言う。


 俺は何だかくつくつと笑いが込み上げてきて、ついに声をあげて笑ってしまった。シャクシャインがきょとんとした顔で俺を見てくる。


「……ごめん。なんかさ、シャクシャインのイメージ、全然違うの想像してたから、可笑しくなった。気、悪くしたらごめんな」

「いやいやいや! 別に気なんか悪くしてねえよ! ……ま、そうだよな。オレのイメージなんて最悪だろうし……」


 また困ったように笑うシャクシャイン。俺は、もう一つ気になっていた事を聞いてみた。


「なあ、お前ってさ、本当に噂通りの問題児なのか? そうは見えないけどな」


 シャクシャインは一度視線を宙に向けてから、再度俺に向き直る。そして、またしても困ったような表情で俺に告げてきた。


「噂はほとんど本当の事だと思う。……オレ、結構浮かれてたんだ。取り返しのつかねえこと、いろんな奴に言っちまってたと思うし、やってたと思う」


 自嘲気味に笑ったシャクシャインを見て、俺は驚いて、目を見開いてしまった。


 そして確信した。


「……引き受ける。お前にシューティング教えるの」


 シャクシャインは噂通りの悪人じゃない。


「本当か⁉︎ ……ああ、助かる。本当にありがとう! 」


 それに、俺が好きなタイプの人間だ。


 ぱあっと顔を輝かせるシャクシャイン。俺は、シャクシャインの表情を見て、つられるように笑ってしまう。


「ただ、期待はするなよ。俺は特段魔法が出来るわけでもないし、あんまりちゃんとした事も言えないと思う」

「いや、いいんだ。相談できるだけでも全然違うからさ! 」


 そしてシャクシャインはもう一度俺に頭を下げてきた。


「めっちゃ厳しいことでも大丈夫だから、何でも言って下さい。お願いします。どうしても、魔法が使えるようになりたいんだ」

「了解。思った事はなんでも言うようにする。早く元の状態に戻るといいな」


 俺の言葉に、シャクシャインは心底嬉しそうな表情をしていた。



 ——それから、俺とシャクシャインの奇妙な関係はしばらく続いたのだった。


進藤目線を入れてみました。一人称初めてなので、上手く書けたか不安です((((;゜Д゜)))))))

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