色褪せた時代。変わらない想い。
あの日から、どれぐらい月日が過ぎたのでしょうか。
貴方とお見合いで出会って、最初はそうでも無かったのに次第に貴方の人柄に惹かれて。貴方の横でなら、一生、添い遂げてもいいと思った。
なのに。時代の流れは、私と貴方を引き裂いた。
二人でいられる最後の日。最後でも、何も変わらなかった。
只、いつものように横に居るだけで良かった。貴方がそれで満足だったのかしら?
手を何も言わずに握ってくれて。
その手のあたたかさが染みて、私は子供みたいに涙をぼろぼろと零した。それでも、貴方は何も言わないで。
涙で滲む視界の中でも分かった。貴方の肩が小さく震えているのを。
貴方も、離れる事が寂しいのだと。
私は貴方と同じ気持ちでいてくれていた事が嬉しかった。
涙は相変わらず止まらなかったけれど、微笑むことが出来た。
互いに握られた手が、離れたくないと願うように、力が篭る。
貴方のやけに大きくて筋肉質な手。それとは反対に小さな背。
守りたいと、傍で支えてあげたいと。
離れてしまう最後の日。
やっぱり、貴方は変わらない。
いつものように、最低限の言葉だけ。感情の読み取りにくい仏頂面。
それなのに、列車が出発する間際。
とても小さな、でも綺麗な石のはめられたロケット。
それを私に押し付けるように渡して。
色んな人の声が混ざり合うホームの中で全ての音が消えた。そして。
「帰ったら、結婚しよう。ずっと、一緒にいるから。」
その言葉だけが鮮明に聞こえた。
あれから、いくつもの歳月が過ぎて。
それでも、私は貴方がくれたあのロケットを今も持っています。
ロケットの中に入っていた、何度も折り畳められた一枚の紙。
私はそれを何度も見て、あの頃に思いを反芻させるのです。
可笑しいでしょうか?昔の頃を引きずるなんて。
可笑しくても、私にとって…私の人生の中で一番色鮮やかだった頃。
窓際の椅子に座り、日の光を感じる。
そして、ぼろぼろのベレー帽を撫でた。
あの時の約束は叶わなくなってしまったけれど。それで、いいの。
だって、貴方にその事を叱りにいくっていう理由が出来たから。
あの頃は一度も言ってくれなかった、でも、文字で伝えてくれた言葉。
『愛している。』
「私も、愛しています」
貴方は、私の光でした。
あの頃も、そして、今も。
貴方ともう一度会ったら、私を叱ってください。
こんな所まで来るなんて。……と
こんな話もいいなとおもったこの頃。