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第四話 チートとは、時間と努力と運の結晶だ。




「翔、今日あんたも部活休みよね。一緒に帰るわよ」


放課後、友人たちと教室に残って談笑していると夢子からお声が掛かった。

既に決定事項として告げられたそれに抵抗せずに黙って頷き、教室を出ていく夢子の後を追う。


「……畜生、俺にも幼馴染がいれば……ッ」


「ショー、また明日なー。まぁ涙拭けよ転勤族」


「大体幼馴染に優遇されるのはあいつみたいなイケメンだけじゃね? じゃーなー、翔」


泣き崩れる友人Aやら手を振ってくるその他の友人に手を振り返しつつ、教室を出て夢子と一緒に下校する。

俺と夢子の部活が休みの日は、帰ったら必ず例のゲームをすることになって久しい。

俺としては、早く帰れたのだからネットサーフィンや録り溜めたアニメを見たいのだが、そんなのを夢子が許してくれるはずもない。

小さく溜息を吐き、一応問いかける。


「で、今日も例の新感覚体感RPGやるの?」


「新、じゃないけどね。このタイプのゲームが世に出て五年もしてるし、正確に言うならVirtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。あんたに分かるように言うと、仮想的空間で多人数で同時に遊んでアバターと自分の感覚がある程度共有されるゲームね。前にも説明したじゃない、ちゃんと覚えておきなさいよ」


「難しい話は嫌いなんだよ。つまり異世界トリップに限りなく近いわけですね、わかります」


「今の説明のどこに難しいと言える要素があるのよ……。で、質問の答えだけど、やるに決まってるじゃない」


そうだそうだ、思い出した。ばーちゃるりありてぃー・まっしぶりー・まるちぷれいやー・おんらいんろーるぷれいんぐげーむだ。長くて覚えられないんだよな。

小学生の頃にやったゲームキューブでやる某大乱闘ゲーム以来ゲームに触れていなかった俺からしてみれば、びっくりするくらい新感覚なんだが、ゲーマーにとってはもはやそうではないらしい。

それまでゲームはソロプレイでしていた夢子に誘われて始めたら、自分の体を動かすのとほぼ同じ感覚で動かせと言われるんだもんな、あれは物凄く焦った。

ちなみに共有される感覚は視覚、触覚、聴覚、味覚。嗅覚もあったのだが、モンスター、特にアンデッド系の臭いについてクレームが入ったため、無くなった。

そして、かなり微々たるものだが痛覚もある。クリティカルヒットの攻撃を受けても、引っかかれた程度の痛みしか覚えない。ショック死の危険性から低く設定されたらしい。



「ただいまー」


さっと周りに人が居ないことを確認してから家の扉を開けて、素早く中に入る。

俺も夢子も、周りに同居していることを言っていない。ただでさえ注目されやすい容姿なのに、同居していると知られたらどんな噂をたてられるか、想像しただけで恐ろしい。


手洗いうがいをし、母親が作っておいてくれたゼリーを食べながら今日やることを打ち合わせる。

今日は、今日完成される予定の第五試練の塔に行く。このゲームの長所の一つは、行ける場所やイベントなどが無くなる事が無いということだ。

試練の塔もその最たる例で、第一から今日建設された第五の塔まで、かなりレベルが高く時間のかかる高難度のクエストと言われている。


このゲームのプレイヤー達は、攻略対象の場所に向かう際は必ず最初にギルドに寄らなければならない。そこでその場所に行けという依頼を受け取ってからでないと、辿り着けないのだ。

面倒な手順だが、こうでもしないとレベルの足らないプレイヤーが押しかけていってただ死んでいくという更に面倒くさい事になるため、GMストップがかかったのだ。


ちなみに、第三と第四の塔は俺たち二人が最初にクリアした。俺と夢子のパーティは【高貴なる漆黒】という名だ。

中二病臭いがどのパーティも似たような雰囲気の名前だし、ハイとダークを和訳してくっつけただけのシンプルな名前だけど結構格好いいので気に入っている。

パーティは二人から組めるが、高難度のクエストに挑戦する際は少なくとも四人以上で向かうのが定石なため、俺たち二人は割とゲーム内で注目されている。

俺達二人をまとめて観察するスレ、夢子のストーキングスレ、俺の監視スレと、専用ネット掲示板で三種類の俺達についてのスレがあるくらいだ。

まぁ、常に二人のパーティというわけではなく、他のパーティやフリーのプレイヤーとも組んだりもするのだが。


「今回の塔は全部シークレットだし、ふざけた装備は無しでいくわよ。あ、まだ時間あるだろうしなんなら弓の練習とかしてもいいわよ。必要な物はもう揃えたしね」


そう言って夢子が締めくくり、俺達はゼリーのカップやら飲んでたコップやらを片付けてから二階にある俺の部屋に向かった。


俺の部屋は割とシンプルだ。目につく置いてある物は、二つの本棚、パソコンの置いてある勉強机、テレビ、ベッド、箪笥、――そしてVRMMORPG用の機器だ。

最後のがやたらと場所をとるため、夢子に押し付けられて俺の部屋には二人用の機器が揃っている。

機器、というかヘルメットと椅子、と言った方がわかりやすいかもしれない。色んなコードの刺さったヘルメットと、それと繋がっている大きな椅子だ。

椅子には背もたれも両手用の肘掛けもあり、右手用の肘掛けにゲームソフトを挿入してヘルメットを被れば準備完了である。


「いーい? 三冠を目指してるから、死んだりしてあたしの足を引っ張ったら許さないんだからね」


これはツンデレですか?

そう口にするにはまだ命が惜しくて、俺は黙ってゲームを起動させた。



前振りは全て飛ばし、前回落ちたところへ到着する。

宿屋の一室だ。お金は有り余っているが、別にわざわざいい部屋に泊まる気もないので二番目に安い部屋だ。


部屋に出て隣をノックすると、夢子、もとい【ユメ】がそこにいた。

普段の夢子とは対照的なまっすぐストレートな銀色の髪に、そこからちらりと見える縦に伸びた耳。

全体的に冷ややかな印象を覚える綺麗すぎる顔は、ハイエルフの特徴でもある。胸はいやらしさを覚えない程度に大きく、身長は夢子本人と変わらない165cmで設定されている。

高貴な雰囲気を漂わす白色のドレスのような鎧で身を固めており、模様として薔薇などが紫色で散りばめられている。

これは第三試練の塔をクリアした時に手に入れたアイテムの一つで、名を【気高い薔薇】という鎧だ。効果としては、防御+18、魔防+20、素早さ+12がある。

夢子は既に防御と魔攻は補助なしでカンストしており、魔防も素早さも安価な補助装備でカンストしていたが見た目が気に入ったらしく、手に入れてからはずっとこれを装備している。

うーん、目が眩しい! しかしこれを言うと「目が、目がぁ~!」となるので絶対に口には出しませんぜ。



俺は、と自分の体を見下ろすと、真っ黒な鎧が目に入った。過度な装飾はなく、胸当ての中心に白で三日月が刺繍されているだけだ。

第四試練の塔のクリアアイテムの一つで、名を【月の夜】という。うん、中二病だね。分かってるから黙りなさい。効果は防御+16、魔防+22、素早さ+14だ。

俺の場合は、攻撃と素早さは既にカンストしており、この装備のおかげで俺は新たに防御と魔防がカンストになった。残りのステータスも後少し、といったところだが。

背中の真ん中くらいまである黒髪は、前髪とサイドの髪を残して緑色の紐で一つにまとめてある。ハイエルフとは違い、耳は横に伸びている。

顔は人間と比べれば随分と整いすぎているけれど、ハイエルフに比べればまだ温かみのある顔だ。ダークエルフは名こそ悪そうだが、ハイエルフより友好的な見た目と性格の者が多い。

優男、という表現が近いかもしれない。目つきの悪い俺からしてみれば、正に理想の顔面と言える。


「じゃ、第五の塔発動まで後三時間あるし、訓練所に行くわよ」


「あいよ。俺は弓として、ユメは何の練習するわけ? 斧? 剣?」


「第四で手に入れた銃のスキルを磨こうと思っているわ。銃って良いわよね、格好いいし。中二病の権化だと思わない?」


それを言ってやるな。まぁ全面的に同意はするが。なんて心の中で突っ込みつつ、俺は夢子が手に入れた銃について思い返す。

【不可視の掃除】。

半透明の銃と銃弾であり、銃弾を補充する必要のないチート銃。引き金を引く動作もいらず弾も見えないので避けるのは難しく、最古参の俺たち自体チートなので手に入れたことが知られた時は専用スレや友人たちから散々に言われた。

武器スキルとしては【透明】【増殖】があるらしく、それらが使えるようになれば前者は全透明・後者は銃自体の数を増やして一掃射撃ができるようになる、だそうだ。なんて恐ろしい。


さらに俺も試練の塔で武器を手に入れている。第三の塔のクリアアイテムの一つ、【色無き羽翼】。全体的に白色の、エルフしか使えない限定洋弓だ。

スキルは【魔化】と【不落】。魔化は魔法攻撃を纏っての射撃が可能になる、不落は相手を仕留めるか相手に粉砕されるまで決して威力の落ちない言わば追尾機能がつく、というスキルだ。

こちらも矢を準備する必要はなく、弓に手を添えれば自然と矢が発現するというお手軽さで、弓装備の連中からは散々羨ましがられた。弓や銃は使うと金が飛んでいく仕組みだからな。


ちなみに【増殖】【魔化】は希少武器なら、レア度によって数や威力の限界はあれど装備している物も多い。俺たちのは所謂神器と呼ばれるチートなアイテムなので限界なんてあって無いようなものだが。

実は俺たちの持つ神器はこの二つに限らないため、神器についてのスレでは結構ディスられている。ま、所詮弱者の言うことだ。なんて偉ぶってみる。えへん。

というか、試練の塔のクリアアイテムは全部神器なのだ。しかも前の塔をクリアした者が次に挑戦できない、ということもないため大変チートが生産されやすい。なんという鬼畜。



さて、三冠と更なるチート化を目指して頑張りますか。

――まぁ、これ以上のアイテムなんざ無くても十二分にチートと呼ばれる存在になってはいるんだけどサ。


一応人物や装備の名前については一回検索にかけてはいますが、ひょっとしたら被ってたりするかもしれません。その場合はご連絡ください。

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