第三話 猫被り? 自己防衛と言え。
今回は主人公たちの通う学校の説明回です。
説明回が思ったよりも長引きます……。ごめんなさい。
一応注意ですが、ぼーいずらぶ的要素はギャグであり、カプとかが登場することはありません。
「しぃろろろのー! 今日も今日とて幼馴染ちゃんと登校ですか羨ましいです爆発しろ!」
次の日、幼馴染たんに引きずられて登校してきた俺を出迎えたのは、友人Aの嫉妬溢れる醜い文句だった。夢子のお仕置きからもまだ完全には回復してないのに、何なのこの仕打ち。
とは言え、気持ちは分かる。
可愛らしくセットされたハニーブラウン色の髪、茶色に近い黒色の二重のぱっちりとした瞳、すっと通った鼻筋、形も色も良い唇、モデル並みのスタイルとファッションセンス、どれをとっても完璧だ。
アレの本性を知らなければ、すぐ傍に居る幼馴染の俺を妬むのも無理はない。
あいつはオタクである事は隠してないが公表しているわけではないし、オタクっぷりを発揮するのは俺や家族の前でだけだからな。自重さえしていれば絶世の美少女ってやつだ。
奴の痛い発言としては、「あたし、将来新宿に住むからあんたは通いの秘書になりなさい。そして弟に恋慕的な意味で執着、依存するのよっ」が例の一つだ。咄嗟に「俺に弟はいないぜよ」と返したが、後から考えると否定する箇所を間違えた気もする。
「あー、ごめんごめん。今日の昼奢ってやるから黙れ?」
「誠意がないっ! お前謝るときは誠心誠意謝りそうな見た目してるのに、意外と上から目線な俺様キャラー!? ギャップ萌え狙ってるのかこの野郎!」
「俺様? ギャップ萌え? ごめん、ちょっと言ってくることわかんないや、普通の言葉喋ってもらえるかな」
いや、本当はバリバリわかりますとも。でもですね、たとえ同類かもしれなくても、俺は隠れオタクなのですよ。
そして俺がオタクだと知られて夢子もそうなのだろうかと見られれば、あいつは自分の選んだ相手にしか告白しない人間だから、俺が怒られてしまう。
なのでこの場合、俺がとるべき正しい行為は「オタク? ああ、漫画とかアニメとか好きな人だよね。僕も好きだよブ○ーチ。古本屋でたまに読むんだ」というキャラで押し通すことだ。
まぁ、僕キャラは実際には無理なんだけどな。眼鏡のおかげで多少は誤魔化せているが、目つきは今も悪い方だし。身長も172cmと、高校一年生にしては十分な高さだ。
ていうか友人A、お前やっぱりオタクだったんだな。最初に話した時に「あんな美人さんとフラグ立てれたら幸せだよな、ああ、幼馴染ポジションとか羨ましすぎる自重しろ禿げろ」と言われたんで疑ってはいたが。
その時も「フラグ? 旗がどうかしたのかな?」と返しましたとも。ここまでくると真面目キャラ通り越して天然キャラな気がするが、立ち回りやすいので問題はない。腹黒いことを言っても許されるし。
入学して半年が経ち、入学と同時に作られた俺と夢子のキャラは今のところ崩れる気配はない。
大人しめの口調なんてアニメや少女漫画で予習済みだからな、楽勝だ。俺は雑食だから余裕で少女漫画も読めるのです。
時々非オタクの正しい反応、というのが分からなくなる時もあるが、そういう時は空気を読んで発言すれば致命的な間違いを起こすことはまずない。
「あー、そうだよな! お前には分かんないよな、いいぜそのままでいてくれ!」
何か納得したように、俺に立てた親指を突き出してくる友人A。うん、ごめんな、実はもうとっくに汚れてるんだ。体は真っ白だけど。
うん、とよく分かってないような顔を拵えつつ、親指を突き出している友人Aの手を握る。そしてそのまま、親指を本来曲げられない方向に曲げた。だって、うるさいのだもの。僕悪くないお。
「…………っ!」
ぐっと歯を食いしばりつつ、苦痛に堪える友人A。いいね、そういう顔。不良の血が疼くのに気付きながらも、俺はそれ以上親指を曲げるのをやめた。
そんな俺を涙目で見てくる友人A。そんな俺たち二人を血走った目でまじまじと見つめる夢子。……おい、メッキ剥がれてんぞ。
夢子の方に目を向け、顔を指さすとハッと気づいて瞬時に澄ました顔を取り繕った。だが俺には分かる。あの顔はぼーいずらぶなる物について妄想している時の顔だ。
「ごめんね、友人A。俺今日ちょっと疲れてて」
「まぁテスト週間入ったしなー。お前頭良さそうな見た目してるのに実は底辺レベルだもんな……っていうか友人Aってもしかしてもしかしなくても俺!? 俺なの!?」
「うるさい、踏み潰すよ。……まぁ、何があったかと言うと、昨日夢子に(勉強という名の)お仕置きされて、しかも寝かせてくれなくて、大変だったんだ」
素直に謝ると、友人Aがなんか見下したような目でこちらを見てきたので、わざとぼかす所をぼかしてえろてぃっくな事があったかのように話す。よくあるよな、こういう勘違いされちゃう台詞。
まぁ、頭が悪いのは事実だ。中学時代は真面目に勉強しようとして授業に出ても先生は固まって授業してくれなかったし、そうじゃない時は喧嘩売られたりして、全然勉強できなかったからな。
高校に入学できたのは、偏に夢子のおかげだ。俺の幼馴染ってば、俺と一緒に喧嘩に明け暮れていたにも拘らず、何故か滅茶苦茶頭が良かった。美人スペックって凄いね。
「え、おま、え……? そういう関係なの……? ナニがあったの……?」
おっと、思っていた以上のダメージを与えることができたようだ。物凄く面白い顔になっている。
しかしあまり調子に乗るのも良くない、これは夢子も同乗している爆撃だからな。うっかり自爆したりしたら夢子にまたお仕置きされる。
「お仕置きっていうか、勉強だけどね。俺今回化学と数学がよく分からなくて」
「あー、なるほど。確かに一年の間は文系の頭してても化学とか取らなきゃだし、お前の頭じゃそりゃ大変だわなー」
事実を教えてやると、途端に納得したかのように頷く友人A。「お前の頭じゃ」とか、マジで捻り潰すぞてめぇ。
とまぁ、こんな感じに朝からダラダラ喋っていたら、先生が入ってきてHRが始まった。うんうん、良いね、こういうだるそうだけど爽やかな雰囲気って。
俺達の通っている学校、烏丸学園の制服はブレザーだ。中学時代は学ランだったから新鮮味があって嬉しい。
ここは文武両道を謳っており、生徒は全員何かしらの部活に入らなければならない。俺は最初剣道部に入ろうかと思っていたが、結局弓道部に入部した。
その理由は「あんた黒髪で眼鏡だし、姿勢良いんだから弓道部入りなさい。的を睨む鋭い目つきで女どもを惑わせばいいのよ、萌えるわ」と夢子に言われたからだ。モテそうだな、とか思ったからではない。断じて。
その夢子は空手部に入った。「鬱陶しい男どもを蹴散らすには、やっぱり強いってことを知らしめるのが手っ取り早いわよね」だそうだ。
猫被りはどこ行ったと思ったが、強くて綺麗で格好いい、ということで女子からの人気が高まったらしい。入学してすぐは美人すぎることで陰口とか言われてたし、好かれたなら良いかな、なんて思った。
ちなみに俺、白野翔にそんなハイスペックな幼馴染が居ることで何か嫌がらせがあったかと言うと、最初の方こそ色々やられたり言われたりしたが、不良スキルと天然スキルで回避した。
手を出された時は遠慮なく手加減しつつ倒したし、嫌がらせしてきた時は教室内で夢子に告げ口したりときっちりお返ししていたため、今は夢子のことに関しては友人たちしか触れてこない。
棚から牡丹餅だったのは、夢子に密告する際に泣き真似とかしたらクラスの女子の母性本能をくすぐったらしく、子ども扱いで可愛がられるようになったことだ。夢子にも「ぐっじょぶ」と褒められた。
“金色の鷲”と呼ばれ恐れられた不良が子ども扱いとか軽く泣けるが、避けられるよりはいいのでよしとしている。弓道部の部員なのもいいギャップ萌えのようだった。
時々俺を可愛がってくれている女子集団から「天然眼鏡わんこ」とか「わんこ受け萌えー」とかいう声が聞こえてくるけど、そんなの無視だ。夢子で鍛えられてますから、こんなの屁でもないですわよ! ……ぐすん。