第二話 誰にでも苦手な事ってあるよね。
「ほんとにさ、その戦いが長引きだしたらフィーバーする癖直してよね。連携が大事なのよ、わかる?」
でかい黒歴史を二つほど抱えていて、そんじょそこらの奴には負けない俺だが、ただ今正座なう、だ。
理由は、ついさっきまでプレイしていたゲームにある。
新感覚・体感RPG。剣と魔法の世界へようこそ、みたいな題名だった気がする。
公式名称は横文字だが覚えてないので割愛して説明すると、つまり普段の俺に近い感覚で動けて喋れるゲームだ。
俺たちのプレイしていたゲームは中世ヨーロッパ風の世界観で、魔法や魔族、魔物が存在する。
最初に決めるのは名前と外見と性別くらいで、防具や武器、使用できる属性はクエストやイベントを通過したりレベルが上がったりする事で増える。
職業も、最初に冒険者を選択した後、レベルが高くなれば薬師・鍛冶師・商人のどれか一つと兼業できるようになる。
専門ギルドがそれぞれあるため、兼業する場合は新しいギルドにも所属しなくてはならないが。
「ねぇ、聞いてる? 勝利したのはいいけど、あんたがあたしより獲得経験値が多いの納得いかないのよね、暴走したくせに」
夢子は【ユメ】という名でハイエルフの女性を選択している。透き通るような銀色の髪と冷ややかな紫色の瞳が印象的だ。
彼女のファースト職業は冒険者の近接戦闘型魔術師で、セカンド職業は薬師。
エルフと言えば魔法や弓矢での遠距離攻撃が主だが、夢子は斧を振り回して戦う近接型を選んだ。
理由を聞くと、「だってエルフが一番美人だけど、やっぱり自分の手で敵を討ち取りたいじゃない!」だそうだ。だよねー。
そんな夢子のパートナーを務める俺はダークエルフの【ショウ】だ。女性のように長い黒髪、森を連想させる緑の瞳で割と気に入っている。
ファースト職業は冒険者の魔槍使い、セカンド職業は鍛冶師だ。魔法も使うが、基本俺も夢子も近接戦闘型だ。
夢子がハイエルフを選んだため、俺は半強制的に対となるダークエルフを選ばされたが、今のところ不便はない。
このゲームの世界には、多数の魔族、魔物が存在する。
エルフ族(ハイエルフ、ダークエルフ、ウッドエルフ)、ドワーフ族、マーフォークに亜人(猫娘や狼男など)がプレイヤーの選択できる魔族だ。
それぞれの長所は、エルフは森など緑のあるところで戦うと有利で、人間も含めたプレイヤーの選択できる種族の中で一番魔力が高い。
パワーバランスをうまく考えないと俺たちみたいな近接戦闘型は不利だが、魔法も武器もうまく扱えれば敵なしだ。
ドワーフ族は攻撃力が一番高く、死ににくい。セカンド職業に鍛冶師を選ぶ者が多い。
いかんせん見た目が小さくて不恰好だが、大きい武器が使えないということはない。魔力は魔族の中で一番低い。
マーフォークがいれば、海や川で船を使う必要がない。パーティに一人でもいれば、お金を使うことなく向こう岸に渡れる。
水魔法に特化しており打たれ弱いが、海や川の近くで戦えばかなりのスピードと魔攻を見せる。
亜人は回避率と敏捷度に長けており、武器がなくともその身一つで十分立ち回ることができる。
ドワーフ族の次に魔力が低いが、基礎となる動物によって得る種族スキルが違うのも利点の一つだ。
プレイヤーに一番人気なのは、人間だ。
プレイし始めた時に一番体に馴染みやすい種族であることと、成長しやすいことが理由として挙げられる。
基本的に伸ばせるステータスは攻撃、防御、魔攻、魔防、素早さ、命中率、HP、MP、LPだが、最も全体のバランスが良くなるのは人間だ。
他に伸ばせる物として、スキルがある。種族スキル、武器スキル、職業スキル、イベントスキルなど多数あるが、これらは使っていくうちに鍛えられる。
「……ねぇ、聞いてるぅ? かけるん聞いてるぅ?」
いかん、長くて怖い説教を聞き流して現実逃避していたら、目の前の幼馴染が鬼になっていた。
夢子が俺のことをかけるん、と呼び始めたら、それは命の危機が迫ってきたことを意味している。
というわけで、
「さーせんしたぁー!!」
スタイリッシュ土下座。
額を床にこすりつけている俺を(多分)見下ろし、いや見下し、夢子は溜息を吐いた。うう、黙って溜息吐かれるのが一番堪える。
ついさっき魔窟内で戦ってきたのだが、ちょっと俺が暴走して夢子の担当しようとしていた魔物まで狩ってしまったのだ。
売り出されてすぐに始めてプレイ歴約一年でカンストの域に入ってきた俺たちなんだが、いかんせんゲームに慣れてない俺は初心者の時の癖が出てしまう時がある。
経験値、つまりレベルを上げたりステータスを上げたりするときに使うものだが、これはどれくらい働いたか、によって振られるため同じクエストを受けた仲間でも得られる値が違う。
レベルが上がる、イコールステータスが上がる、なのだが、レベルを上げるだけではステータスのカンストは狙えない。
ステータスを上げるためにはレベルを上げるのが一番だが、経験値をそのまま割り振ってもステータスを伸ばすことはできる。
ステータスやレベルは伸びれば伸びるほど経験値が必要になるが、初期のころに経験値で直接ステータスを伸ばしておけばレベルが高くなった時に同レベルと比べて強くなれるのだ。
初期の頃は一番レベルを上げるのに必死になってしまうのが普通だが、俺は夢子に命令されて二人で地道にステータスを上げていた。
そんなわけで、同レベルの者達よりも多く働かなければならなかったために手の届く範囲の敵は全員倒す方向で戦ってたら、いつの間にか暴走すると仲間の獲物までとってしまう癖がついてしまったのだ。
経験値を稼ぐのは平和なクエストでも可能だが、やはり魔物や賊を倒すのが一番手っ取り早いからな。
「……ま、いいよ」
長い沈黙の後、もう一度夢子が溜息を吐いて俺は解放された。自由っていいね、空気が美味しいです。
土下座を解いて痺れ始めていた足を揉んでいると、夢子がノートやら教科書を持ってきた。……ん?
「じゃ、勉強しよっか♪」
――ジーザス!