起床
空が白んで来たのであろう、丈の合っていないカーテンの隙間から
青白い光が入ってきた。
頬は冷たいが布団の中の身体は暖かい。
しかし、頭の中は奇妙な既視感と不快感が渦巻いている。
夢の中で鮮明に見た、映画のタイトルが思い出せない。
「本当に存在する映画なのか?」
「人から聞いた話に尾ひれが付いただけでは?」
様々な可能性と疑問が思考から離れない。
でも、確かに見た。あの得も言われぬ気持ち悪さと
不快感が共存した世界を。
思考を整理する為に、枕元のスマホを手に取りメモ帳のアプリを開く。
こんなにデジタル化が進んでいなければ、【ただの夢】で
終わった話が、広がっていく。冷静になれた自分を客観視する事で
夢から醒めた実感が少し湧いた。
舞台は大阪。
この映画は前半の脱出劇、後半のヒューマンドラマに分かれている。
この映画の冒頭、つまり夢の始まりは曖昧で思い出せない。
ただ特徴的なシーンの連続、脈絡の無いはずのストーリー展開に
不自然なほど引き込まれる。
メモ帳のアプリに断片的ではあるがシーンの書き出しが終わった。
この映画にはセリフがない、いや正確には自分には聞こえていない。
口元の確かな動き、感情が溢れる表情。ただ音がない世界だった。
気が付くと、天井裏に設置されているであろう排気ダクトの中にいた。
映画「ダイハード」がさながら、薄暗く金属むき出しの場所。
所々から蛍光灯から漏れ出した光が差し込んでいる。
どんな建物なのか?自分がどこにいるのか?ナゼここにいるのか全てがわからない。
ひとまず、ここから抜け出したい一心でほふく前進を始める。
しばらく前に進んでから気づく。先ほどまで差し込んでいた蛍光灯の光がない。
周囲を黒に覆われているが、手に伝わる確かな金属の手触り。
ひとりでいる事で妙な安心感が生まれた。
しかし、突如として目の前に大きな光が差し込んだ。
無数の人間が懐中電灯を照らしながら、こちらを見ている。
無数の人間は警察官の姿をしている。その時初めて夢の中の
自分の姿を認識した。いつもは着ないパジャマ姿。
自分の姿に戸惑いながらも、数人の警察官に両脇を抱えられ
地面に立たされる。場所は公園だった。
赤い大きな滑り台がある。それ以外の遊具は見当たらない。
さらに周りを見渡してみると、自分が抜け出た排気ダクトが目に入る。
排気ダクトは大きな白い建物に繋がっていた。
その建物からは何か異質な雰囲気に包まれていた。
自分はあの建物にいたのかすらわからない。状況が掴めない。
さらに状況が掴めない事態が起こる。
1人の警察官が近寄って来て、赤い滑り台を指差す。
視線を向けると、1匹のポメラニアンが滑り台から
自分に駆け寄って来たのだ。
私は犬が嫌いだ。
ただ、なんの迷いもなくポメラニアンを胸に抱きかかえる。
何から逃げたのか?
何の目的があったのか?
全てがわからないまま、脱出劇は幕を閉じた。




