4 焦燥 sideリュカ
エマがいなくなった。
金庫の中の全財産も消えていた。
エマがいなくなってからというもの、リュカはエマの実家はもちろん、友人知人の家を訪ね歩きエマを探した。けれどエマは見つからない。手掛かりさえ掴めない。
「それって【家出】じゃなくて【持ち逃げ】だろ?」
すっかり窶れたリュカが3週間ぶりに騎士団本部に出勤し、親しい先輩騎士ロックに事情を打ち明けると、そう言われた。ロックには盗難被害届を出すよう勧められたが、リュカは首を横に振った。
「いえ。家の金はエマの金でもありますから。持ち逃げなんかじゃありません」
「だってお前が稼いだ金だろう?」
ロックは憐みの目でリュカを見る。
「俺の稼いだ金はエマの金でもあるんです!」
ムキになるリュカ。
「リュカ。お前……ホントに嫁さんにぞっこんラブなんだな……」
ロックは呆れた様子でそう言った。
「……ロック先輩」
「何だ? やっぱり被害届を出すか?」
「いえ。給金の前借りってどうやって申請すればいいですか?」
「……」
一文無しになったリュカは給金を前借りし、家の中のモノを片っ端から質屋に持ち込み、何とか生活を立て直した。事情を知るロックが気の毒がって金を貸そうとしてくれたが、個人的な借金はしたくないので断った。
リュカが職場に復帰して暫く経った頃、そのロックがこう教えてくれた。
「隔月一度の騎士団の奥様ランチ会があるだろ? 先々月のそのランチ会の席で、お前の嫁さん、ガストンさんの嫁からずいぶんと酷い事を言われたらしい。うちのアンが話してくれたんだ。同じテーブルにいたのに庇ってあげられなかって。お前の嫁さんの持ち逃……いや家出を知って、アンはものすごく悔やんでた。もしかすると、その時のガストンさんの嫁の苛め紛いの発言が家出の一因かも知れない。すまない、リュカ。うちのアンは気が弱くて――」
「苛め紛いの発言とは? もしかして子供絡みの話ですか?」
「うん、まぁ……その類の事だったらしい」
言いにくそうなロックの様子から察するに、エマは先輩騎士ガストンの妻から相当な事を言われたのだろう。
「そうですか……」
翌日の朝、騎士団本部にガストンの怒声が響いた。
「誰だ!? 俺の机に小刀で悪さしたヤツは!?」
ナンダナンダだと皆が集まってガストンの机を覗き込むと、机の表面に大きな文字で【ゴミ】と彫られていた。小刀で器用に。思わず吹き出す面々。
「誰だ!? 今、嗤ったヤツ!?」
ガストンは怒り狂ったが、全員無視して散らばって行った。日頃から人望が無いのだから仕方ない。ロックが引き攣った顔でリュカに眼差しを向けて来たが、リュカは知らん顔をした。
その後ガストンは上司に「嫌がらせを受けた」と訴え出たそうだが、呆れ顔の上司に「どうせ、お前にパワハラを受けた後輩達の誰かに仕返しされたんだろ。まぁ、自業自得だな」と、まともに取り合ってもらえなかったらしい。日頃の行いは自らに返ってくる。若い騎士の教訓になっただろう。
しかし、こんな事をしてもエマの行方がわかる訳ではない。焦燥感ばかりが募る。リュカは独り暗闇の中を彷徨っていた。
「エマ……どこにいるんだ? エマ……エマ……頼むから戻って来てくれ――」




