1 裏切りの街 sideエマ
17歳のエマは、酷い裏切り方をされた。付き合って1年になる恋人にだ。
恋人のリュカは19歳の騎士。エマと同じく平民である。リュカは騎士らしく男らしい容姿をしているが、どこか子供っぽいところがあった。だが、彼のそんな一面も⦅少年のようで可愛い♡⦆とエマは好ましく思っていた。
それなのに、そのリュカに騙され、エマは囮にされた。王国騎士団に所属しているリュカは、誘拐組織のアジトを突き止める為にエマを利用した。彼は手柄欲しさに、恋人であるエマを危険にさらしたのだ。許せない。
エマは両親と5つ上の兄とともに王都に暮らしている。父と兄は家具職人をしていて、エマは母に教わりながら家事にいそしむ”家事手伝い”という立場だ。この王国の平民女性は、そのほとんどが16歳から20歳までの間には嫁に行くので、花嫁修業中といったところである。
エマはリュカと結婚するつもりだった。リュカからの求婚はまだだが、二人は既に身体の関係を持っていた。乙女の純潔を散らした男は責任を取り、相手を娶るのが王国の常識だ。エマはリュカの求婚を心待ちにしていた。
だというのに、リュカはエマを裏切った。エマを騙し、デート中に突然王都の街の裏通りに彼女を一人置き去りにしたのだ。エマを囮にし、結果的に誘拐組織のアジトを突き止めたリュカは功績を讃えられ昇進する事が決まったらしい。どうやらエマは納得尽くで捜査に協力した事になっているようだ。騎士団の上司に、リュカがそう説明したのだろう。何と言う卑怯者!
「そんなに手柄が欲しかったの!? 私を騙して! 危険にさらして! 絶対に許さない!」
エマは激怒した。場所はエマの家だ。
事件の翌週、リュカが何故か意気揚々とエマの家にやって来たのだ。どういう神経をしているのか?
怒ったのはもちろんエマだけではない。エマの父はリュカを殴りつけ、兄はリュカを足蹴にした。更に倒れたリュカの頭を何度も箒の柄で叩いたのは母だ。
「え? え? 何でですか!? 俺はエマとの結婚を許してもらいに来たんですよ!? 俺、昇進が決まったんです! 胸を張って求婚できるよう、頑張りました! エマも喜んでくれると思って! 俺はエマを愛している! 愛してるんだ!」
懸命に腕で頭を庇いながらリュカが叫ぶ。床に倒れたまま愛を叫ぶ。
⦅⦅⦅⦅何言ってんだ、コイツ!?⦆⦆⦆⦆
エマ、両親、兄の心の声が一致した。
リュカのことを少年のような一面があって可愛い♡と思っていたが、実は彼は何かがズレているだけなのではないか? この時、エマはそう感じた。
リュカをボコボコにして家から追い出した後、家族会議が開かれた。
エマはリュカのやった事を許すつもりはなかった。
だが現実問題、このままリュカと結婚するのがエマにとって一番賢い選択である事は確かだった。エマは既にリュカと身体の関係を結んでいる。処女ではないエマが今から結婚相手を探しても、ろくに稼げない男か、ギャンブル癖やオンナ癖の悪い男、はたまた後妻を求めている中年親父くらいしか捕まえられないだろう。エマがとびきりの美人なら話は別だ。だが、エマは17歳という年齢相応の可愛らしさと愛嬌こそ持ち合わせてはいるものの、ごくごく平凡な容姿で、特別な才もない、どこにでもいる平民女性だった。夢見る少女ではないエマはもちろんその事を自覚していたし、エマを愛してくれる家族もまた現実を見据えていた。
「なに、リュカと結婚して奴を一生尻に敷いてやればいいさ」
リュカを殴って少し気が晴れたのか、父は事も無げにそう言った。
「騎士は給金だけはいいからね。おまけにリュカはエマを踏み台にして昇進して給金が更に上がる訳だろう? 遠慮なく搾り取ってやりな。あの男は親も兄弟もいないそうだから嫁姑の苦労も無いしね。案外、悪くないかもしれない」
と言ったのは、箒を握り締めたままの母だ。
「結婚してもあんなヤツに操を立てることはないぞ! 他に男でも作って托卵してやれ! やっちまえエマ!」
兄の提案は過激で、エマは少し引いた。
リュカがエマの家族に袋叩きにされた日から3ヶ月後、エマとリュカは笑顔で結婚式を挙げた。




