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落ち葉の記憶

作者: 蜂屋
掲載日:2025/10/19


駅からの帰り道、公園の前を通りかかると、娘がしゃがみこんだ。


「パパ、見て。ハートの葉っぱ!」


小さな手で大事そうに差し出されたのは、赤く染まったモミジの葉。


ぎゅっと握られて、端が少しくしゃりと折れている。


「かわいいね」と笑って受け取った瞬間、胸の奥がふわりと揺れた。


——そういえば、母も、こんなふうに落ち葉を拾っていた。


俺がまだ幼かった頃。


「きれいな葉っぱ、探しに行こう」と、母はよく袋を片手に散歩へ誘ってくれた。


イチョウ、モミジ、桜の葉。


赤や黄色、オレンジに染まった葉を一枚ずつ拾っては、


「これはお日さまみたい」「これはハートの形だね」と、笑っていた。


正直、俺は葉っぱよりも、木の根元にいるダンゴムシの方が面白かった。


けれど、母の声が弾むたびに、つられて嬉しくなって、


「これ、きれいじゃない?」と自慢げに差し出した。


拾った葉は新聞紙に並べて、アイロンで押し葉にするのが母のやり方だった。


「こうやっておくと、ずっときれいに残せるんだよ」


そう言って目を細めていた、あの横顔を、今でもはっきり思い出せる。


やがて思春期が来て、部活や受験に忙しくなり、


秋が来ても、空の色も木の香りも、気にすることはなくなった。


母が亡くなって、七年が経つ。


最期まで穏やかで、枕元に置かれた古い手帳には、押し葉が一枚挟まっていた。


そのページの隅に、小さな字でこう書かれていた。


「今年も紅葉がきれい」


娘はまだ、地面を見つめながら、新しい葉っぱを探している。


俺はその小さな背中を見つめながら、足元に落ちていた一枚をそっと拾った。


「これは、お日さまみたいだね」


心の中でつぶやいたとき、風が吹いた。


一瞬、母の声が風に紛れた気がして、思わず立ち止まった。


——俺も、父親になったんだな。


今年も、秋が来た。


小さな手を包むように握りながら、俺はもう少しだけ、ゆっくり歩いて帰ることにした。

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