宇宙人の動物園
夜、なんとなく歩きたくなって散歩していたら、雑木林の近くで宇宙人と出くわした。
地球には、ちょっとした用事で来ていたらしい。宇宙船は林の奥に停めてあるそうだ。妙にフレンドリーな連中で、「うちの星の動物園に招待しますよ」なんて、にこにこしながら言うもんだから、おれは二つ返事でついていった。たぶん、奴らも暇だったんだろう。おれもそう。暇人仲間だ。
だが、そこからの展開の速さは尋常じゃなかった。宇宙船に乗り込んだかと思えば、あっという間に地球を離れ、ワープ航法とかいうやつで一瞬にして奴らの星へ到着した。
地球を外から眺めてみたかったので、少し残念であった。
宇宙船を降りて案内された先は、巨大なドーム型の施設だった。ここが動物園だという。いろいろな星の生き物たちを集めて展示しているらしい。
中へ入ってみると、そこにはまるで万華鏡を覗いたみたいに、色とりどりの奇妙な生き物たちが展示ブースの中で息づいていた。
だが案外、蛙や昆虫、ヒルやタコといった、どこか地球の生き物と似たものも多い。もちろん、完全に未知の姿をしたものが大半だ。もしかすると地球を遠く離れたことで、無意識のうちに馴染みある姿を探していたのかもしれない。見つけて安心したかったのだ。おれって意外とおセンチなところがあるんだな。
「さあ、こちらですよ」
宇宙人たちのあとについて、通路を歩く。どこかニタニタと笑ってるように見えるのは、気のせいか。
おれはふと、ちょっと気になってたことを思い出して、訊ねた。
「それはそうと、あんたら、なんで地球に来てたんだ?」
「ああ、それは……ね。プククク」
「ええ、プクク……」
二人の宇宙人は顔を見合わせ、含みのある笑い声を漏らした。
「あ、もしかして地球の生き物を捕まえに来てたのか? いいのか? 仕事の途中でおれを連れてきてさ」
「ええ、まあ……ね。プクッ、プクククク」
どうも、妙な反応だ。ふざけてるのか、あるいは、もともとこういう種族なのかもしれない。
「はい、着きましたよ。プクク」
「ここですよ、ここ。お連れしたかったのは、ここです」
「ここって……何もいないじゃないか」
案内された展示エリアには、ぽつんと大きなガラスケースが一つあるだけ。中にはベッドみたいな台と、簡素なトイレ、それと天井からぶら下がったブランコが一つ。けれど、肝心の“展示物”がどこにも見当たらない。
「プククク。よーく、見てくださいよ」
宇宙人たちは口元を押さえて笑いをこらえながら、もう一方の手でガラスケースの隅を指さした。そこには金属のプレートが取り付けられていた。
説明文だろう、連中の言語で文字がびっしりと書かれている。当然、おれにはまったく読めない。だが、その中に一語だけ、馴染みのある文字があった。
【地球人】
たぶん『現地語表記:地球人』とか、そんなところだろう。
おれが振り返ると、宇宙人は満面の笑みを浮かべていた。もう隠す気もなく、あからさまな悪意が顔に滲んでいる。おれは静かに言った。
「……なるほどね。おれを展示するってわけか」
「ええ、そうですよ。プククク」
「展示品は、あ・な・た。プクククク」
「でもな……この展開は読めてたぞ」
おれもニヤリと笑った。
「プクク。だったら、なんで素直についてきたんですかあ?」
「プククククッ!」
宇宙人たちはついに笑い転げた。「そうやって、全部お見通しって顔してるやつを閉じ込めるのが、いちばんおもしろいんですよ!」と煽ってくる。
おれは、しばらく連中の笑いが落ち着くのを待ってから、ゆっくり口を開いた。
「もっと適役がいるからだよ」
「適役? プクク、それってどこにいるんです? プククク」
「ほら、そこだよそこ。いるだろ? 『あー、そういうオチか』って顔してるやつがさ」
「そこ?」
「ああ、そこだ」
「……ああ、本当だ。確認しました。なるほど、多元宇宙の観測者ですか」
「そうだ。そいつを捕まえて展示すれば、きっと最高の見世物になるぞ。ふふ、ふははは!」
「プクククハハハハハ!」
おれと宇宙人はゲラゲラ笑った。
あんたはどうだ?