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結婚を約束した幼馴染じゃなく俺が君を幸せにしてみせる  作者: 風間悟
第1章:負け確状態から始まる青年の恋物語
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青年と幼馴染⑤:私は小説を読んで思い返す(真昼視点)

:"月島弥生つきしまやよいさん、好きです!!俺と付き合ってください!"

:"はい、私を相馬君の彼女にしてください!"

:こうして俺/私たちは正式に幼馴染から恋人になることができた。でもこれはただの始まりに過ぎない。だってこれからも幼馴染であり、恋人である最愛の人とずっと一緒の人生を歩んでいくんだから……。

:Fin



「はわぁ……、よかったよぉぉ。弥生ちゃん健気だったぁ」


 ベッドの上でそう口にしながら私は葉桜君が書いた小説を読み切った。あまりにも面白くてついつい2回も続けて読んじゃった。


 おかげで時計の針はもう深夜の3時を指していて、これは明日の朝起きれるかなと心配になった。まぁ明日は土曜日だし休みだから少しくらい寝坊してもいいかなと思った。


(でも、この小説の表現方法や書き方どこかで読んだことがあるのよね……)


 彼は作家志望と言っていたので、まだデビューしていないんだと思ったが、もしかしたら既にWeb小説として何らかの作品を投稿していて、私はそれをどこかで読んていたのかもしれない。


(今度ペンネームでも聞いてみようかしら)


 そう考えつつ、私は寝る前にここ2週間の出来事について振り返ってみた。


「なんだか、激動の2週間だったなぁ。葉桜君が転校してきてから、私の世界が広がった気がするわ」


 実際彼が私たちの高校に来てから、私の周りは少しにぎやかになった。まず何といっても葉桜君と私が友達になれたこと。


 これだけでもこれまでの学生生活において、私にとっては衝撃だった。過去、私に話しかけてくる男の子はみんな私をいやらしい目で見たりしていたし、何度か告白もされたけど、どの人も私を見ているようで見ていなかった。


 嫌味ではないけど、私の容姿は他より秀でてるんだろうというのは分かる。と言っても健斗に言われてる通り身長は低いし胸もない。それでも自分が可愛いと思われてるのは分かる。


 でも彼はそんな風に私を見ず、私という1人の人間を見ていてくれている、そんな眼差しだった。まぁそこには健斗との幼馴染という関係性に興味があったというのもあるんでしょうけど、私にとっては些細な事だった。


(健斗とも仲良くしてくれてるし、ほんと感謝だわ)


 普段から健斗は私と一緒にいるからなのか、部活とゲームのFPS仲間以外の人との絡みについては実はそんなになかったりする。だからこそ、葉桜君のおかげで彼の交友関係が広がったように見えるし、健斗も今の環境について、まんざらじゃない雰囲気でもあった。


(まぁ、まだ葉桜君と柊君くらいとしかクラスでもそんなに話さないけどね)


 みーちゃんから教えてもらったんだけど、どうやら女子の間で葉桜君、健斗、柊君には"イケメン3人衆"なる称号が付いてる事を知ったときは流石に笑ってしまった。


 健斗はスポーツをやってるからかワイルドな感じで顔立ちはいい方だ。逆に柊君はバンドでギターをしているらしく、その手の女子から人気らしい。そして、葉桜君の顔立ちは普通にイケメンの部類で、かつ眼帯をしているからなのか、その隠れたミステリアス性に惹かれてる女子が多いと聞いている。


(いやでも、まさか如月さんが、漫画家志望の腐女子だったなんて思わなかったなぁ……)


 更には誰が受けで誰が攻めなのかという危ない話すら聞こえる始末で、実は今、4組の如月さんが絶賛3人を題材にした漫画を描いてるとかなんとか。それも重度の腐女子らしく、将来漫画家になるのが夢らしい。


 なのでもし出来上がったら読ませてほしい。私にもイメージがあるから、違ったら戦争だ。


(私としては葉桜君が攻めで、健斗が受け、柊君が両刀ってイメージなのよね)


 こんなことを考えてるなんて、絶対にあの3人には言えないので、墓まで持っていくつもりだ。というか健斗にバレたら何言われるか分かったもんじゃない。


 ……というより、葉桜君って転校してからまだ2週間しか経ってないのに、クラスに馴染み過ぎなのよね。初めて彼を見たときは眼帯もしてて少し怖いと思ってたけど、いざ話してみるとその逆で、自分が好きなことに全力って感じだった。


 それに私と同じ趣味を持っている人が近くにいて、話し相手になることが出来る。それだけでも私にとっては友達になりたいと思えるだけの人だった。


(だからなのかな、あの時ちょっとだけ弱音を言っちゃったのは……)


 ファミレスで葉桜君に健斗が本当に私の事が好きなのかと聞いてしまったあの日、葉桜君は普段と違った顔つきで私の話を聞いてくれた。あの時は好きな人に軽口でも酷いことを言うのが普通なのかなと聞いた際、それをすぐに否定してくれた。


 それを聞いて嬉しかったし、私の感覚は間違ってなかったんだって思えた。それから今日だってそうだ。健斗は私のお弁当の味付けについて、美味しいとは言わずに、もう少し濃くして欲しいって言うけど、葉桜君はその味を美味しいと言ってくれた。やっぱり誰かに美味しいって言ってくれるのは嬉しいって思える。


「そうえいば、健斗が最後に私の料理を美味しいって言ってくれたのはいつだったかな」


 料理を始めたのが小学4年生くらいからだったけど、いつの間にか健斗が私の料理で美味しいと言ってくれることがなくなった。ふふっ、いつか絶対にもう1度美味しいって言わせてみせるわ。


 そう新たに決意した私はさっきまで読んでた小説にもう1度目を向けた。話は幼馴染の青年が徐々に大人になっていく少女に改めて恋をしていく物語だった。これだけなら普通の恋愛小説だったかもしれないけど、この話の肝は前半と後半で、青年から少女へと視点が変化していたことだ。


 前半は青年が昔からの幼馴染という関係性に甘えて軽口などで少女を傷つけてしまっていたことを知り悔やんでしまう。そして少女から1度、幼馴染という関係を止めようと言われる。そこから青年は今まで見ようとしていなかった少女の一面にふとした出来事から触れ、幼少時代と違う感情に直面して混乱するが、それが恋なんだと自覚し、もう1度やり直そうと決意する。


 後半からは1度、幼馴染という関係を切った少女が青年に昔ではなく、今の自分に振り向いてもらうため、不慣れなおしゃれに挑戦したり、言葉遣いを変えていくなど、青年に対する愛がこれでもかと描写されていた。そう、この少女は最初っから最後まで青年の事だけを愛し、青年のためだけに人生を捧げていた。それが分かったときにはウルっとしてしまった。


(でも、これを書いたのが葉桜君って思うと、物凄いギャップね……)


 タイトルの"俺は2度幼馴染に初恋する"はまさにその通りだったと思う。幼少時代と学生時代での価値観の変化に伴う恋愛感情の変化を書く。私と同じ高校1年生なのに、よく書けたなぁ。


 もしかしてここはゲームの世界で実は彼は創作にしか存在しない転生者? じゃないかと思ってみたが、流石に小説の読みすぎだと思い苦笑する。同時に、この小説を書いた葉桜君は何を思って書こうと決めたかを考えた。


(小説には作者が伝えたい想いが必ず存在する)


 これを1度読んだ時、真っ先に思い浮かんだのは、私と健斗の関係性ってこの小説と同じなんじゃないかと思った。


 10年間一緒に過ごしてきた1番身近な異性の男性。普段から軽口を言い、ほぼほぼ毎日口論したりする今の私たちの関係はまさしくこの青年と少女の関係性と同じだ。


(葉桜君は私たちを恋人同士にしたいのかな……。ううん、元々話は考えていたと言ってたから、たまたまなんだろうね)


 でも、もし私もこの少女と同じようなことをしたら、健斗はこの青年のように変わってくれるのだろうか……。知りたい、健斗がこれを読んだとき、一体どんなことを思ってくれるのか。私と同じ感想を抱いてくれるのか。


(でもまずは、この素晴らしい作品を作ってくれた葉桜君に感想を伝える所から始めないとだね)


 LIMEで読み終えたことを伝えてもいいけど、せっかくなら直接言いたい。私はいつ感想会できるかなと思案すると同時に、これを読んで少しだけ勇気をもらえた気がした私は最近、健斗とデートしていないことに気が付いた。


(確か10月は健斗も比較的空いてるみたいなこと言ってたよね。なら久しぶりに水族館とか誘ってみようかしら……)


 まだ先の話だけど、健斗とデートして絶対にドギマギさせてみせるんだからと、私は心の中で決心して、ようやくベッドで横になり目を閉じ意識が深くなっていくのを感じていくのであった。


 当時の私は気が付かなかったけど、テレビでやってたあの占いの通り、葉桜君と出会ったことでこの時には私の恋愛観は本当に少しずつ、徐々に変化していたのであった。

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