青年と幼馴染③:青年は放課後に幼馴染エピソードを聞く
その日の放課後、俺は近くの公園で親友とLIMEで通話していた。
『ということが、あってだな。勝ちの目は低いが、頑張ってみようと思ってるんだ』
『そ、そうか……。まさか真夜が一目惚れする日が来るなんてなね。長年一緒にいた俺でさえ、驚いたよ』
『ああ、俺も驚いた。だが裕也、お前が言っていた通り人は恋をすると変わるもんだな。その人のために頑張るぞーってなるわ』
『そうか。でもまぁ良いことだと思うよ。真夜は常々青春を謳歌するんだーって言ってたからね。あははは』
『その通りだ! まさしく俺は今青春を謳歌しようとしている。とはいってもクズ寄りの青春だがな。あははは』
『いいじゃないか、クズ寄りでも。俺は応援するし、きっと雫も応援してくれるさ。むしろもっとやれーって言いそうだ』
『確かにな、雫なら言いそうだわ。ま、俺からはこれくらいだな。そっちも俺がいない学校を2人で楽しめよ?』
『やめてくれ、ほんと、真夜がいないとつまらないんだからさ。ま、そっちも頑張ってくれ』
そう締めくくって俺たちは通話を切り、俺は家に帰って行った。
***
2日後の放課後、俺と高橋、藤原さんの3人は学校から少し離れたファミレスにいた。転校初日に2人にLIMEで予定を聞いたところ、この日なら高橋も部活が休みで空いてるとのことだったので、この日にしてもらった。
「わざわざ時間を作ってくれてありがとう。代わりにここは俺が奢るから遠慮なく頼んでくれ」
「マジで?葉桜君感謝!」
「ちょっと、健斗? いくら奢ってくれるからって、頼み過ぎは失礼になるかね! 葉桜君本当にいいの? これくらい私たちはどうってことないと思うんだけど」
「俺にとっては貴重な話を聞けそうだし、むしろ正当な報酬と思ってほしいんだ。それと高橋、男に君付けされるのは少しむずがゆいからできれば呼び捨てにしてもらえると助かる」
「それもそうだな、じゃあこれからは葉桜って呼ばせてもらうな。それで、どんな話を聞きたいんだ?」
「そうだな、まずは比較的記憶に新しい中学時代から聞きたいかな……」
ノートを取り出し、俺は2人から中学時代の思い出を色々教えてもらった。
例えば、高橋は毎日藤原さんに起こしてもらっていること。一緒に勉強をしているが、よく高橋が逃げ出していること、よく約束を忘れることなど、日常から学校生活についてまで痴話喧嘩しつつ話してくれた。
これが幼馴染の絡みかぁと思いつつ、俺のネタノートにはどんどん宝の山が積まれていった。
***
「真昼はその日、夜が寝れないからって俺の所に来たんだぜー。あははは」
「ちょっと、そんな恥ずかしい話までしなくてもいいじゃない! あぁもう、思い出したくない記憶だったのにー」
「なるほどな、幼馴染って友達の延長線くらいかと思ってたけど、どっちかというと家族って捉える方が的確なのかもな。いやほんと、2人には感謝しかないよ。……でもさ、そんな関係だとお互いに恋愛ごとに発展しなさそうだよな。そこんところどうなんだ?」
ちょっと踏み込んだ話をしてみて、2人の反応を見てみたのだが、お互い少し顔を赤らめて俯いたぞ。
(俺は一体何を見せられているんだ?)
聞いたのは俺ではあるんだけど、こうまざまざと見せられるとな。……ある意味脳破壊か? だが俺も聞いてしまった手前、引くことはできない。
「どうした? 2人とも少し顔が赤いが……」
「はぁ!? い、いや、赤くはなってないぞ。というかなんでそんなこと聞くんだ?」
「実はな、Web小説に投稿するために色々構想を練っているんだけど、幼馴染の恋愛模様についての小説を書いてみようと考えているんだ。だから、実際のところどうなのかなって思ってさ」
「そ、そうなんだ。私もそういう話の小説を読むのも好きだから、もし出来たら読ませて欲しいわ」
「勿論いいぞ。というより2人の協力のお蔭で、いい作品が作れそうな気がするんだ。だからいの一番で読んで欲しいくらいだ。……とまぁそれは置いといて、流石にこの場で2人同時に答えるのは恥ずかしいだろうし、1人ずつ聞いてもいいかな?」
そう尋ねてみれば、2人とも1人ずつならと言ってくれて、ちょうど藤原さんは手洗いに行きたいとのことだったので、まずは高橋から話を聞くことにした。
「なぁ高橋、もしかしてなんだけどさ、幼少の頃に結婚の約束とかしたか?」
「ぶっ!? な、何で知ってるんだよ!」
ここまでテンプレ的な幼馴染だったんだ、そりゃ思いつくさ。だが、やはり存在したか結婚の約束。
「そりゃお前たちの態度を見れば、一目瞭然だからな。……なんで付き合ってないのか不思議だよ。」
「別に、真昼とは気心しれてる奴ってだけだよ。好きとか、そんなんじゃない……」
(こいつ、マジか?)
「ふーん、でも色んな話聞いたけどさ、高橋の藤原さんに対する評価って悪口みたいなの多いよな」
「そりゃそうだろ。10年も一緒にいれば、もうお互いに知らないことはないんだぜ? なら行きつく先は悪いところだけになるってもんだよ」
そうなのか? 10年も長くいれば、悪い面が先に出終わって、良いところは後からどんどん出てくるもんだと思ってたが、逆なのか? いや、裕也と雫は悪い面含め全部好きだと言っていたから、恋愛においてそんなのどうだっていいのかもしれない。
だとしたら、こいつは藤原さんの事を本当はどう思ってるんだ?そのことについて聞こうとした所で藤原さんが戻ってきたので、今度は高橋が手洗いに行くのを確認し、同じ質問を藤原さんにも投げてみた。
「ふぇ!? な、なんで分かったの!?」
「色んな小説読んでるとしか言えないな。あははは」
「あー確かに、幼馴染を題材にした恋愛小説は大体そうかもね。うん、そう考えると私たちはある意味創作の世界と同じことになってるかも」
(これ、もう好きって言ってるようなもんだろ)
「羨ましいよ。こんな美少女が高橋の事を好いてるんだからさ」
「うん、……そうだね。」
雰囲気が少し変わったので、俺は彼女を話を真面目に聞いてみようと姿勢を正した。
「たまに思うの、健斗は私のこと、本当はどう思ってるんだろうって。……だってさ、いつも私の事暴力的や、ちんちくりんとか言うんだよ? 好きな女の子に軽口でも酷いことを言うのが普通なのかな?」
「いや、絶対に言わないな」
俺は即答でそう答えると藤原さんは、『そうだよね!』とノリ気味で同調してくる。その一つ一つの動作が可愛くて仕方ない。
「俺個人としての恋愛経験はないけど、埼玉に小学校時代からの親友たちがいるんだが、そいつらをくっ付けるのに色々協力していたんだけどさ、悪口みたいなのは喧嘩をしない限り一度もなかったよ」
「へー、葉桜君ってそんなこともしていたんだね! だからこうやって弱音言えちゃったのかな。ほとんど初対面の人にこんなこと話すの初めてで、少し自分でも驚いちゃった」
「これくらい大したことでもないさ。むしろ友達になれたんだから、気兼ねなく相談してくれる方が俺も嬉しいよ」
「そうね。……実はね、ちゃんとした男友達って健斗を除けば、葉桜君が初めてなのよね。他の男子は昔から私を見てるようで見てない感じがして……。だからこうしてちゃんとお話し出来たのは葉桜君が初めてだわ」
あぁ超嬉しい、でもすまない。俺も下心ありきで接しています。周りと違うのは真剣かそうでないかくらいだと思う。でもそう思ってくれるくらい俺は自然に藤原さんと話せているってことか。
そんな感じで聞きたいことも聞けたので、高橋が戻ってくるまでの間、俺たちはお互いに好きな小説の作品について語らい続けた。
「今日は本当にありがとう。これから執筆作業に入るけど、多分2週間くらいでできると思うから、その時は読んでほしいな」
「うん! 絶対に読むわ。というより、2週間で出来ちゃうの? 早くないかな」
「あー、今考えてる話のボリューム的に20~25万文字くらいだし、ある程度話は作ってあるから、そんなに時間がかからないんだ」
「げ、25万文字……。なんかそう文字数で言われると読む気が消えていくな」
「ちょっと、健斗! 流石にそれは葉桜君に失礼でしょ!!」
「あははは、確かにいきなり文字数で言うと驚くよな。まぁこれでも小説2冊分くらいの分量だから実はそんなに多くないんだよ」
そうして作った小説を読んでもらう約束をした後、俺たちは家に帰るためそれぞれ別れようとしたのだが、俺は高橋だけを呼びだし、最後にこんな質問を投げてみた。
「なぁ高橋、仮に誰かが藤原さんに告白してる所をお前が目撃したら、お前はどうする?」
「なんだ突然? 真昼に限ってそんなの絶対にないだろ。だけどまぁ仮にあったとしたら……、全力で真昼の悪口をそいつに話して阻止するな。あははは」
……あぁよくわかった。こいつはそれしか藤原さんの関心を惹く方法を知らないんだ。だからこそ、彼女に対して軽口としてああいったことを平然で言えるし、平然と彼女の知らないところで悪口が言えるんだ。
行動で示そうとせず、ただ今の生活に甘えて満足している。だけど自分だけのものにしたいから口で何とかするしかない。幼馴染故の歪んだ独占欲と言えばいいのか、これでは本当に藤原さんが幸せになれるのか分からないな。
うん、やることは決まった。恐らくこいつはそのうち、大きな隙を見せるだろう。その時にどれだけ藤原さんの心に俺が入り込めるかが、勝負だな。
今後の方針を決めた後、俺たちは今度こそ別れてそれぞれの家に帰って行った。