青年と幼馴染②:青年は幼馴染たちに近づく
「そうか、まぁ真夜がそうまで言うなら止めないさ。むしろ、そういうシチュエーションは物凄く好きだから、応援するよ」
「ありがとな雄太。そう言ってもらえると助かる。正直やろうとしてる事って第三者から見たらただのNTRだからな」
「あははは、それは確かに言えてるな! でもさ、短い学生生活なんだし、一度はやってみてもいいんじゃないか?」
「そうだな。ダメならダメで小説のいいネタになるだろうし、やれるだけやってみるさ。……つーことで、俺はこれからあの空間に突撃してくるわ」
そう伝えると雄太から頑張れと応援も貰ったので、あの幼馴染カップル(仮)に突撃しに行った。
どうやら既に昼は食べ終わったようで、楽しく幼馴染の彼と会話をしている。さて、どのようにして藤原さんと話そうか。と言うか俺は面と向かって話せるのだろうか? ヤバい、めっちゃ緊張する。
「楽しい会話中に失礼。実は雄太、……柊さんから君たちが幼少からの幼馴染だと聞いてね。朝の自己紹介でも言ったんだか、Web小説を執筆しているんだが、それのネタになりそうだと思って声をかけさせてもらった」
これについては本当の事だ。こんなところで創作にしか存在しないと思った幼馴染について話が聞けるかもしれないと思うと、今からワクワクが止まらない。次に書こうとしている作品に対して、うってつけだと思う。
「あー、確か葉桜君だっけ? 俺は高橋健斗だ。んでこっちが……」
「藤原真昼と言います。こっちこそ、挨拶に行けず、ごめんなさい。皆が先に行ってたから中々会話に参加し辛くて」
「あぁ、別に気にしてないよ。やっぱり転校生ってなると皆興味あるだろうしな。特に俺はコレを付けてるし」
そう言って笑いながら俺は右手の人差し指で眼帯を指した。だがこうして藤原さんを見ると、ほんと惚れ惚れするくらいの美少女だな。艶のある長い黒髪に目なんてくりくりしてるぞ。
「……実は私、葉桜君とお話しをしてみたいと思ってたんですよ」
おっと、まさかの向こうから話したかった宣言が来るとは!一体何処に話したい要素があったんだろうか。
「そうなのか? 何か気になる話でもしてたかな」
「はい。実は私も小説、……特にミステリー系を読むのが好きでして、葉桜君も自己紹介の時にミステリー系の小説が好きだと言っていたので、どんな作品が好きなのかと気になっていたんです」
そうだったのか。それはまた嬉しい事を言ってくれる。正直小説、……それもミステリー系は人を選ぶからな。まさかこんなところで共通点があるとはツイてるな。
「そうだったんだ! 俺は藤堂恒吉先生が執筆した"永遠の友情"と言う作品が一番好きだな」
内容としては、よくあるログハウスで起きる殺人事件なんだか、この話でもっとも肝となるのは登場人物たちの心理描写だ。皆が殺人を犯した犯人を知っており、皆その犯人が人として好きだからこそ、彼を庇うためバレないよう偽装工作を行うという話だ。
「本当ですか!? 私もあの作品が一番好きなんですよ!!」
「うお!」
いきなり大声で机から乗り出して俺を見つめてくるもんだから、今物凄く心臓が煩い。これ、聞こえてないよな? というよりシャンプーの匂いだろうか、彼女から凄く甘いいい匂いがしてヤバい。
(……変態か! 俺は!!)
「ちょ、近い近い」
「真昼、何してるだよ。葉桜君が困ってるぞ!」
「あ、ご、ごめんなさい。つい、興奮してしまって、永遠の友情が好きな方が身近にいるとは思わなかったからつい……」
「いや、気にしなくてもいいぞ。俺もまさかこんな所で同じ作品が好きな人に会えるとは思いもしなかった」
そっか、彼女は永遠の友情が好きなのか、そういえば今日やってた占いだと恋愛観に変化があるとかないとか。そして、ラッキーアイテムは好きな小説だったな。まさかな……。
「全く、いきなり大声出すなよな。そうでなくとも、真昼の声は響くんだからよ」
「もう、いいじゃない! 健斗がそんな風に言うから私も少し強く言っちゃうだけなんだからね!」
いきなり痴話喧嘩が始まったぞ! こ、これが幼馴染にのみ許された伝説のやり取りか……。
と、彼女らを見ながらそんな事を考えていたら、俺の視線に気がついたらしく、高橋がわざとらしい咳をしながら本題に戻ってきた。
「そ、そういえば、俺たちの話を聞きたいんだっけか?」
「ああ、是非とも放課後辺りで幼馴染エピソードを聞かせてほしい。それに、こうして話してる訳だし友達にもなりたいしな」
「うーん、真昼がいいなら俺は気にしな――「是非、友達になりましょう!」」
物凄く食い気味に藤原さんが割り込んできたので、苦笑しつつ俺たちはLIMEで友達登録を行った。とりあえずは第1段階として、上々じゃないかな。
「まひるー、一緒に手洗いにいこー」
「あ、みーちゃん! うん、今行くわねー。ごめんね、葉桜君、後でまた話しましょ」
「勿論。後で放課後のいつ話すか、日程でも決めようか」
そこで話を区切り、彼女は友人と手洗いに行くため、教室を出ていった。さて、俺はもう一仕事でもやりますかね。
「話して思ったけど、藤原さん物凄く明るくて可愛い感じだな。見た目もそうだけど、まるで日本人形を見てる感じだったな」
「ああ、真昼は昔からあんな感じでな、ほんと可愛いよ」
「聞いた話じゃ付き合ってないんだって? 俺から見たら明らかに付き合ってるようにしか見えないんだが……」
「……付き合ってないよ。というか何で皆俺たちの事そんな風に見るんだよ。別に真昼とはそんな関係じゃないし、逆に口うるさくて色々参ってるのにさ」
「それだけ、お似合いってことだろ? それより、あんまり女の子の悪口は言わない方がいいぞ。……んーでも、付き合ってないならさ、俺が藤原さんを狙ってもいいって事かな?」
そう探りを入れるように高橋に言ってみたら、高橋は急にうろたえ始めた。分かりやすい奴なんだな。
「は? い、いや、なんで真昼を狙うって話になるんだよ! あいつあぁ見えて暴力的だし、口煩いし、それに見た目もちんちくりんで胸もないんだぞ。そんな奴のどこがいいんだよ! あははは」
「そうか? 俺にとってはどれも魅力の1つだとは思うけどな。まぁそう言うことなら気にしないでくれ」
(はは、お前が考えてること分かるよ。いきなり意中の人が狙われると思ったら驚くよな)
高橋が今やってる事ってようは、好きな女の子についついちょっかいかけたり意地悪をしたくなるっていう、男の子なら誰しもやってしまう心理からきてるんだろう。
んでもって、もしもその好きな女の子が他の誰かに狙われそうになったらさ、とりあえずその誰かに好きな女の子の悪口をどんどんと吹聴して、興味を無させたくなるんだよな。そうやってライバルを蹴落としていくつもりなんだろ? 分かるよ。俺も親父から昔の惚気話で散々聞いたからさ。
(でもさ、……お前気付いてるか?)
それが通用するのは小学生くらいなもんだぜ? そんなガキくさいことやって興味を無くす奴は所詮、ワンチャン狙いや遊び程度にしか思ってない奴なんだよ。俺みたいに本気で狙おうとしてる奴には通用しないんだ。
(だから、お前が何を言おうと俺には響かない。それこそ、告白して付き合いましたとかにならない限りは……、な)
俺がそんな事を考えてるとはいざ知らず、高橋はその後も藤原さんのダメな所を語っていたが、こいつ本当に藤原さんの事が好きなのかと逆に心配になってきた。そんだけ悪口言ってたら普通嫌われるぞ? まぁこいつが自滅しようが俺には関係ないか。
まずは友達、そこから少しずつ彼女の中に俺という存在を浸透させていく……。だけど彼女の気持ちを最優先にすること、一方的に押し付ける行為ほど迷惑なものはないからな。
(とりあえず、早いうちに放課後の時間を使って幼馴染エピソードを聞きつつ、藤原さんの好感度を上げる方法でも考えますかね)
幸いな事に藤原さんと俺には共通の趣味が存在する。なら、そのカードを存分に使わせて貰うさ。