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結婚を約束した幼馴染じゃなく俺が君を幸せにしてみせる  作者: 風間悟
第1章:負け確状態から始まる青年の恋物語
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青年と幼馴染①:青年は転校先で少女と再会した

「ただいま……」


 一目惚れした少女に声をかけることもなく、俺は家に帰路した。好きになったからと言って声をかけてしまえばそれはナンパになるし、印象が悪くなってしまうと考えたからだ。


(それに……)


 あれほど小柄な少女だ、同学年というより小中学生と考える方が自然だ。思い出すだけでも心臓が煩く顔がほんのり赤くなるのを感じる。


 まったく、恋愛はバトル、好きになったら負けとはよく言ったものだ。あの一瞬顔を見ただけとは言え、こんなにも感情が揺さぶられるなんて思いもしなかった。


「そもそも、俺ってこんなに女々しい男だったのか? 純粋ピュア過ぎるだろ」


 そんな事を家の中で呟きつつ、俺は夕飯の支度を始めた。誰かを好きになった所で、日常は何も変わらない。明日から学校で、一目惚れした少女と会えるような奇跡はそうそう起こることはない。


 そう、故にこれは貴重な体験だ。何せ一目惚れと失恋を同時に体験したのだから。何故か?決まってる。相手は明らかに歳下、そんな相手と恋愛出来るかと言われたら……、高校生までは許されそうだな。


(そもそも何処の誰とも知らないし、あの少女と出会える確率なんて天文学に等しいしな)


 だからこその失恋だ。あぁこんなにも世界が残酷だと感じるのは、あの一件でも無かったぞ。悲劇のヒロインぶりながら俺は夕飯を食べ終え、合唱する。


「ごちそうさまでした」


 そうして夕飯を食べ終えた俺は今日あった出来事のうち、小説のネタになりそうな内容をノートにまとめた後、明日からの転校先での学生生活に向けて準備を始め、準備が終わった頃にはいい時間になっていたので、急いで寝る支度をし、あの少女について考えながら俺の意識は深く沈んでいった。



***



『今日の運勢で一番は双子座の方! 今までの恋愛観を変えてくれる方に出会えるかも! 特にその人はあなたが今までに感じなかった感情を与えてくれるわ。ラッキーアイテムは小説。特に一番好きな小説を持っていれば運気がより上がるかもよ』


(ほう、恋愛観が変わるとな)


 たまたまやってたテレビの星座占いを聞いた俺は、自分の星座が1位だと言うことに少し喜びながら、そういえば最近ミステリー系の小説読んでないなぁと思い出し、せっかくだからたまには読むかと、お気に入りの小説に手を伸ばし学校へ向かっていった。


(まぁ占いが当たるなんて事はそうそうないんだけどな……)



***



(そう思ってた時期が俺にもありました)


 何故かって? だってさ、俺の転校先のクラスにあの少女がいたんだぞ? 奇跡なんてないと思っていた矢先のこの出会いには流石の俺も乙女座じゃないけど運命を感じてしまう。


 ヤバい、彼女を見ただけで心臓が煩すぎるしニヤけそう。だがそんな表情を流石に顔には出せないので、ポーカーフェイスしつつ自己紹介に臨んだ。


「始めまして、葉桜真夜はざくらしんやと言います。全く別の環境で青春を謳歌したく、埼玉から都内のこちらに転校してきました。趣味は本を読むこと、特にミステリー系の作品が好きです。運動はバスケを少々。将来は作家志望で、今はWeb小説への投稿に向けて準備している最中です。前期が終わる直前ではありますけど、皆さんとは半年間の付き合いになりますので、宜しくお願いします!」


 嘘は言っていない。流石に既に売れている事をバラすのは色々めんどくさいからな。


「それと、皆さんは既に気付いていると思いますが、俺は過去にちょっとした事故に巻き込まれ、顔の右側を負傷しています。といっても視力は落ちてないし、この眼帯は傷を隠す目的で使用しているだけで、中二病とかじゃ決してないことだけは言っておきます」


 そう言えば、クラスからは軽い笑い声が聞こえてきたので、まぁこれで中二病を拗らせた可哀そうな奴というレッテルは貼られないだろう。あ、ちょっとだけ彼女と目が合った。ヤバい、ニヤけそう。


「葉桜君は後ろのあの席にお願いします。さて、今日から授業が再開されます。皆さん、いつまでも夏休み気分ではなく、学生の本分として勉学に励んでくださいね」


 俺は分かりましたと言い、後ろかつドア近くの席か、中々いいじゃないかと思いながら言われた席へ向かい座った。


「お前、中々面白い自己紹介するんだな」


 ホームルームが終わった頃に前に座っている茶髪の男が俺にそう話しかけてきたから『そうか?』と返した。それにしてもイケメンと言われそうな顔つきだな。外観だけで判断するなら、バンドとかしてそうな見た目だ。


「そうだよ。まぁ転校生自体そうそうないから新鮮に感じただけかもしれないけどな。……すまない、忘れてた。俺は柊雄太ひいらぎゆうただ、雄太って呼んでほしい。一応バンドでギターしているんだ。これから宜しくな!」


 爽やかな男とはまさに彼を指すんだろうな。いい笑顔で挨拶してくれた。人を見る目には多少の自信があるが、久しぶりに初見で仲良くなりたいと思わせてくれる男だった。


(これだから、人の出会いというのは良いんだよな……)


「あぁ、こちらこそ宜しく頼む雄太。俺の方は真夜と呼んでくれ。仲良くしたい奴には下の名前で呼んで欲しいんだ。雄太はギター弾けるのか。カッコいいな」

「恥ずかしながら音痴なんだ。だからそっちの道しかなかったんだよ。……というより、結構言う奴なんだな。そこら辺は分別してるってことか?」

「まぁな。昔、信用なんてものは脆いと知ってな。それからは人付き合いには注意してるんだ」


 そうして、俺は新しい学校で信用出来ると判断した雄太と友人関係になることが出来た。それからは昼休憩になるまで、クラスメイトから他には趣味がないのか、付き合ってる人はいないのかなど、実に学生らしい話をしながら過ごしていた。


「なぁ雄太。あれ、何?」


 そこには甘ったるい世界が展開されているんじゃないかと錯覚するくらい仲睦まじい感じでご飯を食べてる2人の男女が居た。


「あー、真夜は知らいよな。あれは我が校きってのおしどり夫婦と名高い、高橋健斗たかはしけんと藤原真昼ふじわらまひるちゃんだ」


 な、なんだと……、既に恋人がいたのか!いや、あれだけの可愛さなら恋人がいても不思議じゃないか。やはり世界は残酷だ。お前には縁がないんだよと言われてるみたいだ。


 でも真昼か……、俺の名前と正反対で、まるで陰と陽みたいな。


「まぁ、あれでも何故か()()()()()()()けどね。知ってるかい? あいつら幼少からの幼馴染なんだよ」


 俺は再び衝撃を受けた。まさかこの世界に幼馴染が実在したとは! それもあの雰囲気、どう考えても両想いだよね!?


 今までにない衝撃を受けながらも俺は恋愛の神に感謝した。こういう時だけ感謝するのは都合良いよな。


「ふーん、あれでまだ付き合ってないとか、凄いな。どう考えても両想いだろ?」

「あぁ。皆そう思ってるけど、本人たちが否定してるから、あまり足を突っ込まないんだ」


 そうか、でもそれならまだチャンスはあるかもしれない。いや、どう考えても負けが見えてる戦いではあるけども。


 そんな俺の表情を察したのか、雄太は俺に警告してくれた。


「ん? 真夜、お前もしかして藤原さんの事狙うつもりか? 辞めておいた方がいいぞ。今まで何人の男共が撃沈していったか……」

「そうか。……実を言うと彼女に一目惚れしちゃってさ。確かにあれじゃ、勝ち目はほとんどないんだろうな……。でも最近知ったんだが俺って意外と純粋ピュアらしいんだ。だから正直撃沈したとしても、彼女が幸せになるなら相手は幼馴染でも構わないよ」


 いやほんと、一目惚れしただけなのに何言ってるんだよと、俺は自分で自分にツッコむ。


「好きになった時点で負けというなら、俺はもう既に負けているし。まぁでも、付き合っていないならさ……、俺が狙っても問題ないよな」


 俺はNTRは嫌いだ。現実でも創作でもやっぱり恋愛は純愛が一番だと俺は思う。だからこそ本当ならあの幼馴染たちに手を出すことはやってはいけないことなんだ。


 でもそれは見方が違うだけで、付き合っていないならそれはまだNTRじゃない。もし付き合えたのならそれは単に他の異性に恋心が動いただけに過ぎない。


(あぁ分かってる、これはただの屁理屈だ。それでも俺は……)


 この心を掻き乱す恋心を無下にしたくない。だからこそ俺は周りから例えクズ野郎と言われようと構わない。あれだけの甘い雰囲気を醸し出す幼馴染に俺は絶対に勝てるとは思わないし、むしろ負けるだろう。それでも俺は挑まずにいられない。


 だってこれは──。


 負け確状態から始まる青年が少女の恋心を幼馴染から自分に向けさせてみせる俺の()()()なんだから。

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