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結婚を約束した幼馴染じゃなく俺が君を幸せにしてみせる  作者: 風間悟
第1章:負け確状態から始まる青年の恋物語
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水族館デート⑥:水族館デート

 俺たちは入場料を払い、水族館に入った。入場料についてはお互いに割り勘でという方針になった。本当は俺が持ちたかったのが、そこは頑なに譲らなかった。


「別にこれくらいどうってことないんだけどな」

「ダメよ。昨日も紅茶奢ってもらってるんだから。それにこれは昨日話を聞いてくれたお礼でもあるんだからね」


「割り勘がお礼ってなんか可笑しくないか?」

「そう? ふふふ、じゃあ今度一緒に遊ぶ時は奢ってもらうわ」

「それ、暗に次もあるって言ってないか?」

「……き、今日の結果次第だからね。後、一緒って言っても、皆がいる時()()しれないじゃない! ……バカ」


 照れながらそう答える藤原さんは普通に可愛い。まぁ確かに皆と一緒にいるパターンも存在するか。……でもな、藤原さん。君今、()()って言った事に気がついてるかな?


(これは少し、望みが出てきたかもな)



***



「かわいー!」

「そうだな」


 俺たちは今1階のエリアで可愛い小魚たちを見つつ、クラゲの展示へとやって来た。


「俺、海の生き物だと、クラゲが一番好きなんだよな」

「そうなの? 何だか意外ね」

「クラゲってただ漂ってる感がするだろ? こういう何も考えずのんびり過ごす事に憧れるんだよな」

「ふふふ、思ってたより子供みたいなことを言うのね」

「いいだろ、それくらい。なら、藤原さんは海の生き物だと、何が好きなんだ?」


「私? 私はペンギンが一番好きね。あの愛くるしい造形と動きが本当に可愛くて、よく動画で観たりするわ」


(藤原さんとペンギンか……)


 一度ペンギンを抱きかかえてる藤原さんを想像してみたが、あまりにも可愛い姿しか想像出来ず、俺の脳内キャパが別の意味で破壊されそうになる。


「……葉桜君? 何考えてるのかしら」


 ほんと最近は俺の思考が読まれてるんじゃないかと思ってきたよ。


「いや何、ペンギンを抱きかかえた藤原さんを想像してみただけだ。うん、似合ってるよ」

「ちょっ、やめてよね。そういう想像するの!」

「あははは、悪い悪い少し気持ち悪かったな」


「もう……、バカ」


 バカありがとうございますっと……。ヤバい、どんどん気持ち悪い方向に思考が偏り始めてるな。一度リセットしなければ……。


「そういえば八景島の方でペンギンと触れ合えるみたいなのを聞いたことあるな」

「あ……、それ、私も聞いたことあるわ。写真とかも一緒に撮れるらしいわね。……いつか私も触りたいわ」


「機会があれば行けばいいだけさ。その時は高橋とかな?」

「ふふふ、そうね。その時は絶対に健斗を連れて行くわ!」


 こうして話してみると、昨日の1件はそこまでしこりが残るような事になってないようだ。それを喜ぶべきか悲しむべきかは分からないが、まぁ藤原さんが笑ってるんだ。それでよしとしよう。


 ひとしきりクラゲを堪能した俺たちは2階へと移動し、周りを楽しみつつワンダーチューブと言う海中トンネルのようなエリアに来た。


「綺麗だな」

「ええ、綺麗ね……」


 いや、それしか言えなかった。全天で見れるエイやサメなど色んな魚を普段は見ることのできない下からのアングルで見ると言うのは何というか圧巻だ。それに海中トンネルなので、上左右と様々な方向から魚を見ることができ、まるで海中にいると思えるくらい本当に綺麗だなと思った。


 藤原さんも見惚れているようだ。


「藤原さんは来た事ないのか?」

「子供の頃に来た覚えはあるけど、あまり覚えてないのよね」

「あー、幼少の時の記憶って大抵忘れがちだよな」

「そうね。大切なこと以外はあまり覚えてないわね。葉桜君はどうだったの?」

「俺も似たようなものだ……。一番古い記憶は母さんとブランコで遊んでる記憶だな」


「ふふふ、なんだか想像できないわ」

「笑わないでくれ。俺だってよくもまぁそんなことしてたなって思うんだからさ。だけど、幼少の事ってのは大体みんな似たようなもんだろ」

「そうね。そうかも……。私の場合は健斗との思い出が多かったわね」


 藤原さんと高橋みたいな関係なんて、日本中探してもほんの一握りしかいないだろう。だからこそ、その時の体験ってのは今でも大切で一番の思い出として残ってるんだろうしな。


「さて、そろそろ藤原さんが一番好きなペンギンでも見に行くか?」

「そうね! もたもたしてたらイルカさんのショーも見られなくなっちゃうし、早く行きましょ」


 物凄く生き生きした口調で藤原さんは先に進もうとしている。本当に好きなんだなと思いつつ、置いてかれないよう俺も急いで藤原さんのもとに行くことにした。


「あまり急ぐと転ぶぞ」

「大丈夫よ、……きゃっ!」


 大丈夫と言いつつ、足を躓いた藤原さんを俺は急いで正面から抱きとめた。


「言わんこっちゃない。大丈夫か? っ!?」

「う、うん。……ごめんなさい、葉桜く──」


 今、藤原さんとの距離はほんの数センチと言ったところだろうか、あとわずかでも誰かが押したりしたら、キスが出来そうなくらい俺と藤原さんの顔は近い。


(……改めて見ると、ほんと綺麗だな)


 俺は改めて、藤原さんのことを見惚れていた。可愛らしい顔つきなのはそうなのだが、くりくりした目を見ていると引き込まれてしまいそうだ。


 少しの間だけ、お互い無言で見つめていると、我に返ったのか藤原さんは顔を赤くし、すぐさま俺から離れてしまった。


「ほ、本当にごめんなさい!」

「あ、あぁ、いや気にしないでくれ。俺が声をかけた所為でもある」


(ヤバかったぁ……)


 マジで何かの拍子で間違いを犯しそうな距離だった。


「と、とりあず、ペンギン見に行こう!」

「え、えぇ! そうね、行きましょう」


 俺たちは気まずい雰囲気をなくすよう、無理やりペンギンを見に行くと言う目的のために移動するしかなった。


──どうしよう。ドキドキが止まらないよ……



***



「見て見て葉桜君! あのペンギンとか、物凄く可愛いわよ!!」

「あははは、本当に可愛いな」


 さっきまでの空気なぞ無かったかのように、藤原さんはペンギンを見てはしゃいでいる。 『あー、今水に飛び込んだわ!!』と藤原さんはそれはもう子供の用に目を輝かせながら、写真を撮りまくっていた。


「いや、ペンギンよりあなたの方が可愛いです」

「……? 今、何か言ったかしら。小さくてよく聞こえなかったんだけど」


(やべ、思わず声に出てたか)


「いや? 藤原さんが楽しそうで何よりだなって」

「ふふふ、だって本当に可愛いんだもん! あー、ペットとして欲しいくらいだわ」

「食費とか凄そうだけどな」

「いきなり現実的なこと言うのはやめてよね……」

「それは、すまないな。あははは」


 周りの大人も藤原さんを見て、温かい目つきで微笑んでるじゃないか。その視線に気が付いたのか、藤原さんは顔を少し赤くして恥ずかしがっている。


「もう! 葉桜君が変なことを言うからよ」

「俺の所為なのか?」

「そうよ! ほら、こういう時は謝るんじゃないの?」

「酷い話だな。……悪かった。藤原さんが可愛すぎてついついいじわるしたくなるんだ」


「か、かわっ!? もう、いきなりそういうの言わないでって前も言ったじゃない」

「あははは」

「笑いどころじゃないと思うんですけどぉ」


 ほんと、藤原さんと話してると楽しくて仕方がない。こんなにも自分が笑えるんだと、知らない自分がどんどん生まれていく。


「全く、藤原さんといると楽しいよ」

「何よそれ。ふふふ、でも、私も葉桜君といるのはとても楽しいわ!」


 ほんと、嬉しいことを言ってくれるなと思いつつ、そろそろイルカショーが始まる時間だと言うことに気が付き、俺たちはいい場所を探すべく、急いでイルカショーのエリアに向かった。

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