幼馴染との約束①:練習試合と約束(真昼視点)
*** 真昼視点 ***
10月に入ってから初めての水曜日、その日の放課後は健斗が入ってるサッカー部の練習試合がある。なので既に朝から誰を応援するのかなどで教室はざわついている。
とは言え、私もその一人だ。だって、健斗のかっこいい姿が見られると思うと、それだけで胸が高鳴る。
(健斗がもし活躍したら、いっぱい褒めないとだね!)
そしたら、健斗もきっとドキドキしてくれると思う。だから私もいっぱい応援するんだ。
(そういえば葉桜君、放課後は用事があるとかで、帰っちゃうんだよね……)
一緒に健斗の応援をしたかったのだが、昨日の夜LIMEで聞いたら、外せない用事があるらしく、応援することが出来ないとの事だった。残念。
それと、こっそり水族館デートを企画していることを伝え、どうすれば約束を取り付けれるかについて相談したのだが、結果に関わらずその日の帰りに思い切って誘うべきだと助言をもらうことが出来た。なんだが、その相談をしたら少し声のトーンが下がった気がするけど、気のせいだよね。
「頑張ってね、健斗! 今日はいっぱい応援するから」
「へいへい、真昼に言われなくても頑張るさ。活躍できなくて小言とか言われたくねぇし」
「もう! それは普段の行いについてだけでしょ」
「真昼がいつも突っかかってくるからだ。小さいくせに態度だけはデカいんだから」
そうやってまた言い合いを始めると、クラスからは痴話喧嘩勃発と冷やかされる。健斗もあはははと笑ってはいるが、いつまでもこの関係だけは変わらない。
「高橋、いい加減、藤原さんへの軽口はやめたらどうだ。男ならドンっと構えろよ」
「うるせぇ、これが俺たちの日常だ」
「日常ってお前なぁ……」
葉桜君がげんなりしている。まぁそう返されたらそうなるよね。
「ふふふ、ありがと、葉桜君。でも私は大丈夫よ。健斗とはこれくらいが丁度いいのよ」
「……そうか」
なんだか、葉桜君の様子が少しおかしい気がする。何というか悲しい?何に?
「ま、お前が活躍することを祈っておくさ」
「葉桜は今日来れないんだったな。なんの用事だ?」
「ちょっと病院にな……」
「もしかして、入院してる彼女とか!?」
興味深々で聞いてきた健斗に対して、葉桜君は『バカかっ!』とチョップしていた。
「俺の定期健診だ。右目の傷について診てもらってるんだ。と言っても今回が最後だけどな」
そっか、葉桜君の傷凄いもんね。そういえば、みーちゃんが葉桜君に好きな人がいるって言ってたけど、誰なんだろ。
── 放課後 ──
「健斗、頑張れー!!」
「高橋君、がんばー!」
私とみーちゃんはグラウンドの端の方で健斗たちの試合を観戦していた。というのもうちの生徒が多すぎて場所が取れなかったからだ。健斗はFWというポジションらしく、1年のエースとして今日はレギュラー入りしている。
「見て見て、みーちゃん。健斗がまた1人抜いたよ!」
「中学でも凄かったけど、ほんと上手いよね高橋君」
後で知ったことなんだけど、健斗は一度サッカーの強豪校にスカウトされたことがあるらしい。けど、その時は断ったとかで理由を聞いても教えてくれなかった。
ちなみに中学時代、健斗の所属していたサッカー部は県大会準優勝している。
(あ、健斗がシュートしたボールがゴールに入った!!)
「すごいすごい、まひる! 高橋君シュート決めちゃったよ」
健斗がシュートを決めると同時にグラウンド中から歓声が聞こえる。
「────」
「ありゃりゃ、こりゃ見惚れてますね、まひる」
こうして試合をしているかっこいい健斗を見ると、心臓がうるさくて仕方ない。だってあんなにかっこいい姿見たら、誰だって見惚れちゃうよ! そう思っていると、みーちゃんが小さく、『葉桜君、頑張って……』と呟いていた。
「葉桜君? どうして今葉桜君の名前がでるの?」
「ふぇ!? き、聞こえてた!?」
「う、うん。なんか頑張ってって言ってたけど……」
「あははは、気にしないでまひる。こっちの話だから」
私は少し気になったけど、みーちゃんがそう言うなら多分、大丈夫なんだろう。
それ以降、健斗は徹底的にマークされたこともあって、中々点を取ることが出来ず、最終的には1対1の引き分けでその日の練習試合は終わった。
***
「ほんっとうに、カッコよかったよ。健斗!」
「あははは、そりゃありがとな。あの1点は俺も会心だったぜ」
練習試合も終わり、私たちは一緒に帰っている。みーちゃんは、『イチャイチャしながら帰りなよー!』と、からかいながら帰っていった。そういえばこうして、学校から家に帰るまでずっと健斗と2人一緒っていうのはなんだか、久しぶりに感じる。
(そっか、最近は葉桜君もいたから……)
「何だか、真昼とこうして一緒に帰るのも久しぶりだよな」
「あ、健斗もそう思った? 私も同じ事考えてたよ」
健斗も同じ事考えてたんだ。それだけで私は嬉しく感じる。
「最近は葉桜君がいたからね! ふふふ、3人で帰るのもいつの間にか当たり前みたいになってたのかな」
「あー、それはあるかもな。真昼と違って気楽に話せるからマジ感謝」
「ちょっとそれ、どういう事?」
「あははは、気心知れてる仲だから新鮮味に欠けるって事さ」
こうやって健斗が軽口を言いつつ帰るのも久しぶりに感じる。新鮮味に欠けるって言うけど、私はそう思わない。私だけなのかな……。
「……私は、健斗と帰れるだけで嬉しいんだけどな」
「ん? 真昼なんか言ったか?」
「ううん、何でもない」
(こういう時だけは鈍感なんだから)
ふと、周りを見れば周りに人がいない事に気が付いた。今なら葉桜君からもらったアドバイスを実践するいい機会じゃないかな。勇気を出して、真昼!
「ね、ねぇ健斗……」
「ん? どうした?」
「健斗って確か、来週の土曜日は部活も無くて、暇だったわよね?」
「そうだな。今月はもう試合らしい試合もないし、その日は多分暇になるな」
「その日は何かするの?」
「うーん、今のところゲームかなぁ。友達とFPSでもしてるさ」
よかった。まだ予定らしい予定は無いようだ……。
「そっか。じゃあさ、私と一緒に……水族館とか行かない?」
言っちゃった、言っちゃった! ここ最近、そういう所に行けてなかったし、元々健斗が好きじゃないってのもあるけど、やっぱりデートであると意識出来る場所には行きたかった。
「俺と真昼が水族館? 何で?」
「何でって……、カラオケやゲーセンとかも良いけど、私としては落ち着いた雰囲気の所に一緒に行きたいって思うのよ。普段は健斗が行きたい所に行ってる訳だし、たまには私の行きたい所に行ってもいいじゃない?」
これでどうだろうか、健斗の行きたい所を優先にしてたんだから、次は私の行きたい所を優先にしてもいいじゃない作戦は……。ドキドキしながら、健斗に視線を向けると、少し悩んでるようだった。多分、そう言われてみると、そうかもな、みたいな事を考えてるんだろうな……。
ふふふ、健斗の悩んでる顔も可愛くて好き。
「そう言われてみれば、確かにそうかもな。まぁ何が楽しいかは分からないけど。……ま、たまにはそういうのもアリか。うし、今回は真昼に合わせよう」
「本当!?」
「うぉ! い、いきなりどうした」
しまった。あまりにも嬉しすぎて抱きつく一歩手前まで来てしまった。でも、このまま抱きつけばよかったかな。そうしたら健斗もドキドキしてくれたかも。
「ううん、ただ、嬉しくって」
「そ、そうか……。まぁ喜んでくれたなら良いかな。あははは」
「じゃあ、次の土曜日は水族館で決定ね! 忘れちゃダメだからね」
「へいへい、分かってるよ。全く真昼は心配性だなぁ」
「今までの実績があるからよ」
多分、今までの健斗との約束の中で一番嬉しい出来事かもしれない。後で葉桜君にもお礼を言わなくっちゃ!
その後はいつもと変わらず軽口を言われながらも、再び私たちは一緒に家へ向かってる歩き出した。




