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結婚を約束した幼馴染じゃなく俺が君を幸せにしてみせる  作者: 風間悟
第1章:負け確状態から始まる青年の恋物語
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高校生の日常1⑤:早朝の2人だけの世界(美美子視点)

「ふむふむ、じゃあ山口は中学2年から藤原さんらと交流を持つようになったのか」

「そうだよ。1年の頃はクラスが別々で、凄く仲が良い幼馴染カップルがいるって噂を聞いてたくらいだったからね」


 私はまひるたちが登校していない早朝の教室で、葉桜君に中学時代の彼女らについて話していた。


 以前知ったことなんだけど、彼は毎日早めに登校しては、彼女らの情報を集めている。でも、『今日は山口と話したい気分なんだ』と言うので、こうして一緒に話している。


 それほどの熱量を持ってまひるに好意を示しているんだから、凄いなと感心する。


 本人も言ってるが、ストーカーじみた真似をしている事は自覚しているようだ。曰く、実害が発生してないからノーカンだと信じたいとのことだが、多分まひるが知ったらアウトと言うだろうね。


「でもさ、よく頑張るよね。葉桜君も」

「何がだ?」

「だってさ、高橋君からまひるを奪おうと考えてる訳じゃん? 相当難しいのに、よく諦めないなって」

「あぁそれか……。まぁ無謀なのは百も承知だけど、確率が0じゃないなら、それに賭けようってな」


 それ、殆ど0に近い確率だよね?と言いかけたが、彼がまひるに向ける好意は真剣そのもの。だからこそ、私はそれを否定しないし、こうして時々葉桜君にまひるたちの話をしてるわけだしね……。


(でも、ちょっとだけまひるが羨ましいなぁ……)


 だって、少しだけ目を高橋君から周りに向けてみれば、そこには高橋君と同じかそれ以上の好意を向けてくれている男子がいるんだよ? そんなの、同じ女の子としてはドキドキしちゃうシチュエーションだよ。


 それに葉桜君は眼帯をしていてもなお、カッコいいと言えるだけのイケメンでしょ。性格も気さくで優しいし、よくあるイケメンアピールもしなければ、聞き上手でかつ、物凄く話しやすいときている。こんなのズルだよね。普通なら好きになっちゃうくらいだよ。


「はぁ、私もまひるみたいに可愛かったらモテたのかな……」

「山口だって、普通に可愛い女の子だろ?」

「か、かわっ!? な、何いきなり言ってるのよ、葉桜君は!」


 いきなり可愛いなんて言われたら誰だって驚くよ!可愛いなんて言われるから顔が少し熱くなっているのを感じちゃう。


「いや、話してて、話やすいなって思うし、山口って明るくてムードメーカーじゃん? おまけに容姿も良いと来てるんだがらそりゃ誰だって可愛いって思うだろ」


 なんで、この人はこう恥ずかしい事をずかずかと言えるんだろ。いや、そう言えばこの人、初めて話した時からこうだったわ。



── 約1カ月前 ──


「はじめまして、君が()()()()()、で合ってるかな?」

「……いきなり人のこと愛称で言うのは失礼じゃないですか? ()()()()

「いや、それはすまない。藤原さんが君のことをみーちゃんと言ってて、それ以外の事は何も聞いていなかったものだから……」


 彼が転校生として来てから4日目の事だ、突如彼から声をかけられて、そんなやり取りをしたことを覚えている。


 いきなり愛称呼びは流石に無神経過ぎると思ったが、その後謝罪と共にまひる経由だと説明して、何となく事情は察した。


 あの子、そういう所は抜けてるんだよね。


「そういうことね。なら改めて、私は山口美美子やまぐちみみこって言うの。よろしくね、葉桜君」

「ああ、よろしく。えぇと、山口さん」

「うーん、さん付けってあんまり好きじゃないんだよね」

「じゃあ、呼び捨てで悪いが、山口で」


 そう彼は臆面もなく私のことを呼び捨てで呼んできた。私の方から言ったのもあるけど、なぜだろう不思議と彼からそう呼ばれても嫌な感じはしなかった。


「それで、私に話しかけてきてどうしたの? まひるたちはまだ登校してないよ」


 彼は初日からまひるたちに絡みに行っており、それ以降も一緒にいるのをよく見ていた。でも、ホームルームまであと30分ちょっとはある。私はいつも余裕を持って登校したいからこの時間なんだけど、葉桜君も登校早いんだ……。


「それは知ってる。実はさ、こっちに来てから早めに登校するようにして、色んなクラスに行ってはそこの生徒と話すようにしてるんだ」


 突如そんな事を言うのでびっくりした。葉桜君は眼帯をしてることもあって、少し怖い印象を抱いていたのだが、実は話すのが好きな陽キャなんだなと思った。


 ……が、その後の言葉で私は葉桜君に抱いていた印象が吹き飛んじゃったよ。


「更にぶっちゃけると、実は藤原さんに一目惚れしたんだ。だけど、現状の高橋との関係性から何をどう頑張っても勝率は限りなく0だろう。なので勝率を上げるためにも先ずは情報を集めて、彼女らの事を知ろうとしてるんだよな」

「え、え? ……はぁ!? は、葉桜君、まひるのこと好きになっちゃったの!?」

「あははは」


 私は思わず、『笑い事じゃない!』と叫んでしまった。だってそうでしょ。あの幼馴染カップル(仮)に挑もうとしてるんだよ?


 今まで多くの男共がまひるを狙おうとしたけど、その都度、高橋君が妨害と言う名のまひるに対する悪口を言っては邪魔をし、あの2人が作り出す甘い空間にやられてリタイアしてきた。にも関わらず、この人は臆する事なく堂々と私にまひるの事が好きだと言ったんだ。


「……冗談じゃないんだよね?」

「まさか。本気で狙おうとしてる。けど、藤原さんの気持ちを蔑ろにするつもりはないから、少しずつ高橋から俺へ好きになっていってくれるよう頑張ろうかなと」


 今までにまひるを狙おうとして、同じように私に話しかけて来た人たちは下心が丸見えだったけど、彼の目は真剣そのものだった。


(あ、よく見たら目が綺麗……)


「私に話しかけてきた理由が分かったよ。まひるのことが聞きたいんだね」

「その通り! 聞けば中学時代からの友人だと言うじゃないか。だから、色々話を聞けたらなって。まぁそれ以外にも純粋に山口と仲良くなりたいって想いもある」


「私と仲良く? ……どうして?」


 この人はまひるの話が聞きたいから私に話しかけてきたんじゃないの? なのにどうして仲良くなりたいなんて言うんだろ。


「だって、山口普通に可愛いじゃん? それに話しててなんか話しやすくていいなって思えたから」

「……ワタシガ、カワイイ?」

「何で片言なんだよ。あははは」


 だって、女子からは可愛いって言われる事はあっても、男の子から可愛いなんて言われた事ないんだもん。そりゃ、そうなるでしょ。


 でも、話してるうちに彼の印象がどんどん変わっていく、最初は少し怖いと思ってのに、こうして話してみれば、とても話しやすく、不思議とスッと言葉が耳に入ってくるし、恋愛面でも聞いてる限りまひるのこと真剣に考えていて、そのための行動力があったりする。それに、まだほんの少ししか話してないにも関わらず、なんだか楽しい。


「うん、じゃあ葉桜君、友達になろっか。私も何だか話してて楽しいと思ったし」

「そうこなくちゃな。それじゃよろしくな。山口!」


 そうニカッと笑った彼の顔がずっと忘れられない。眩しいくらい素敵な笑顔だった。



── そして現在 ──



「はぁ、葉桜君ってさ、全然変わらないよね」

「どうした、突然」

「だってさ、葉桜君、まひるの事好きでしょ? それに私の事も可愛いって言うし。タラシかよー」


 最近は葉桜君以外にも柊君からも可愛いと言われる事がある。でも、彼から言われるのとでは破壊力が全然違う。カッコいいとは思うけど、私のタイプじゃないからかな……。


(あれ? そういうことだと、私にとって葉桜君はタイプって事に……)


 この前もまひるたちに、葉桜君のことはタイプとは言ったけど、今更になってその言葉の意味が重く感じてきた。一度自覚してしまったからなのか、どんどん深みにハマって行く感覚があって、顔が熱くなるのを感じちゃう。


「どうした、山口。何だか、顔が赤いぞ?」

「え、いや、何でもない。うん、何でもないから!」

「そうか? 変な山口。あははは」

「もう! そんなこと言うなら、もうまひるのこと話してあげないよ?」


 少しいじわるしてみれば、『それは、困る。謝るから許してくれ!』と懇願する葉桜君が出来上がった。


 なんだろう、2人だけの何の変哲もないやり取りなのに無性に楽しい。まひるも葉桜君といるときはこんな感覚なのかな……。


(……きっと違う。うん、まだそうと決まってない)


「おはよ、みーちゃん! それと、葉桜君も」

「おはよう、まひるー! 今日もかわいいなぁ」

「もう、みーちゃんったらぁ」


「よう葉桜、今日は他のクラスには行かなかったのか?」

「おはよう、高橋。それと藤原さんも。あぁ、たまにはこうして、山口と話すのもアリかなと思ってな」

「私が葉桜君の事を構ってあげたのだー」


 たまには葉桜君との2人だけの世界を楽しむのも悪くないと思いつつ、今日も私の日常は始まった。

今回の話はサブキャラの山口美美子に充ててみました。


本作品においてのメインヒロインは藤原真昼ですが、サブヒロインは誰かと言われたら、彼女になります。

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