素顔と曼殊沙華④:少女は青年の素顔を見た(真昼視点)
「ふぅ……。今日は楽しかったなぁ」
私は家に帰り、優花たちと今日あったことを報告しながら夕飯を食べた後、私は自分の部屋のベッドで横になっている。
(今日は色々なことがあったなぁ……)
まず、葉桜君の親友である雫ちゃんと友達になれたのは嬉しかった。それも他校の女子生徒だ。雫ちゃんは話も面白く、人懐っこい印象を受けた。まぁすぐに抱き着くのだけはやめて欲しいと思ったのは内緒だ。
そして、葉桜君も言ってたけど、雫ちゃんはとてもスタイルがよかった。私よりも身長が高いのは言わずもがなだけど、出るところは出ていて、へっこむところはへっこんでいた。あれこそ、世の女性が目指す理想的な体型だ……。そして、彼のもう一人の親友である月城君の彼女でもある……と。
「あぁいう関係、ほんと羨ましい……」
何度思い返しても、あの関係は羨ましく感じる。まさに自分たちだけの世界と言わんばかりに甘い空気を出し、それを臆することなく人前で出来るあの関係性……、カップルとして理想じゃないかな。
(私もいつか健斗とああなれたらなぁ……)
健斗と恋人になれたときの事を考えてみたが、私たちがあんな感じになれるかと言われたら……なれない気がする。私が健斗に文句を言って、健斗が軽口で返す。いつも通りのやり取りしか想像できなかった。
そもそも健斗はあれでプライドが高いから、恥ずかしがって人前じゃできない気がする。でも、もしかしたら2人っきりでなら……。
「そ、その時は、私と健斗が……、うぅ……」
自分で考えておいて恥ずかしくなる。私だって健全な女の子だし、いつか好きな人とそういうことをしたいと考えるのは普通だもん。まぁその前に手を繋いだり、き、キスしたりするところから始めないとだけど。
(はぁ、早く健斗の気持ちが知りたいな……)
健斗の事でうだうだ考えても仕方ないので、切り替えて彼岸花の景色について思い返そうと思い、スマホで撮った写真を眺めてみた。
「やっぱり、綺麗だなぁ。辺り一面真っ赤で、絨毯みたい」
どれも綺麗と言えるような写真ばっかりだ。その中には私たち4人で撮った写真もあり、私にとっての宝物になったのは間違いない。
(それにしても葉桜君、いきなり写真撮るんだから、びっくりしたよ)
あの時、声をかけられて振り向いた一瞬を葉桜君に撮られてしまった。よくもまぁあの一瞬を撮れたなと感心しちゃう。でも、その甲斐? もあってか、その写真は私が映ってる写真の中で一番可愛く、それでいて私が一番際立つような仕上がりだった。
「狙って撮ったなら凄いよね。私ってこんなに可愛いんだっけって錯覚しちゃう」
そういえば、雫ちゃんも『真夜は意外と写真撮るの上手なんだよねー』って言っていたことを私は思い出した。柊君も言ってたけど、葉桜君って基本スペック高いんだよね。そつなくこなせるというか、変に意地を張らないから、やれることと、やれないことがはっきりしてるって雰囲気を感じる。
(今度、何が出来ないのか聞いてみようかな)
葉桜君と言えば、優花は葉桜君が素顔を見せてくれたことについて話したら、物凄く興味津々だったようで、『お姉ちゃんどんな顔だったの!?』と食い気味で聞いてきたので、少しびっくりした。
話を聞いているだけにも関わらず、もしかして優花は本当に葉桜君の事、気になってるんじゃないのかなと思うほどだった。まぁ優花は私がかっこいいと言ったからこそ、興味を抱いただけかもしれないけど……。
そう考えた時、チクリと何かが刺さったような感覚があった。
(?)
どこも痛くもないので、気のせいだと私は判断した。
「でも、葉桜君の素顔……か。まさか、今日いきなり見ることになるなんて、思いもしなかったわ……」
以前からあの眼帯の下はどんな顔になっているのか、それはずっと気になってたし、クラスの女子たちもみんな気になってた。自己紹介で中二病ではないと否定していたが、実はただの中二病だったとか、やけどがあるとか、オッドアイじゃないのかなど、それはもう色々な妄想が膨らんでいた。
それがまさか今日この目で見ることになるなんて想像もしていなかった。
(でも……、あの時の葉桜君の表情……)
私が見せて欲しいと頼んだとき、彼は少し不安そうな顔だった。そして、眼帯を外した時に見せた表情は、何を言われるのか怖がってる感じだったのを覚えている。
恐らく彼にとって、誰かに素顔を見せるというのは私が思ってるより重いんだと思う。私も彼の素顔を見たときどんな反応するのか自分でもわからず怖かった。
けど、それも彼の素顔を見た瞬間、不安なんてどこかに行ってしまった……。
私の目に映ったのは、右瞼から頬にかけて存在する大きな切り傷があり、想像通りの整った顔立ちではあるが、多分普通の人なら怖がるだろう。
でも私は何というか別の感覚を感じており、……まるで、その傷に誇りがあるような目つきに思えた私は不思議と怖さを感じず、かっこいいよりも、むしろその傷がある顔が綺麗だと思えてしまった。だからこそ、触ってもいいかと少し大胆なことを言ってしまったんだろう。
「ふふふ、あの時の葉桜君、びっくりしてたもんね……」
その後、感想を聞かれたので、本当はかっこいいと言うつもりだったのだが、なぜだか最初に抱いた感想である綺麗を言ってしまった。自分でもわからないけど、それを言うのが一番彼に必要なことだと思ってしまったからだ。
本当に自分でもなぜその言葉を選んだのかは分からない。でも、その言葉を選んでよかったと思う。だって、それ以降の葉桜君は前より少し表情が柔らかくなったように思えたからだ。
もちろん眼帯がない分、表情が読み取りやすくなったというのもあるかもしれないけど、雫ちゃんも葉桜君が少し昔に戻った気がすると言ってたから、多分間違いないと思う。
「また、素顔見せてくれるかなぁ……」
ふと、彼岸花を鑑賞してる時に隠し撮りした傷がある横顔の写真を見た。彼の顔が頭から離れない。目を奪われた? うーん、わからない。
でも、きっと普段見られない顔を見ることができたから、それが脳裏に焼き付いているだけだろう。そう結論付けた私は、そろそろお風呂に入る時間だと気づき、1階に降りて行った……。




