前期期末テスト①:青年らは放課後に勉強会を開く
サイン会より少し前の話だ。俺の高校は2学期制であるため、9月末に期末テストが存在する。1週間のテスト勉強期間と3日間のテスト本番。これによって俺たちの前期の成績が決定する。
ところで、俺の成績についてだが、流石に学年主席とまではいかないが、前までいた高校では上位10位以内に入るくらいの学力はある。ただ、俺の転校先の高校は前の高校より少しレベルが高いため、前と同じくらいになるかは俺もわからない。とりあえず、今のところ授業についていけてない、なんてことになってないから大丈夫だろう。
「なぁ真夜。お前って確か勉強できるんだったよな?」
「ん? あぁできる方だとは思うよ。それがどうした?」
昼休みに幼馴染カップル(仮)と一緒に飯を食べていた雄太が俺に尋ねてくる。
「いやさ、実は今回のテスト、英語で赤点取ったら親からバンド禁止令が出ちまうんだよ。だから、頼む! 俺に勉強を教えてくれないか!!」
雄太はバンドをしているのだが、どうやらここ最近バンドにかまけていた所為なのか、成績が落ちていってるようだ。特に英語が赤信号らしく、前回も赤点ギリギリだったとのことで、今回赤点を取ってしまうと、親からバンドを禁止にされてしまうという約束をさせられてしまっているとの事だ。
「それは災難だったな。まぁある意味雄太の自業自得だな……」
「そんなこと言わずにさぁ、助けてくれよぉ……」
ここまで弱気の雄太を見るのも珍しいな。
「まぁ、流石に友達の人生がかかってるであろう分岐に手を貸さない訳にはいかにか。いいぜ、今日あたりにでもやるか。どうせ今日からテスト期間なんだし……」
「助かる!」
「うへぇ、テストかぁ……。俺やりたくねぇ」
「健斗、柊君を見習ったらどう? やりたいことを諦めないように苦手な分野を頑張ろうとしてるのよ」
「あははは。ありがとう、藤原さん! 高橋もせっかくだし、《《勉強》》が出来る真夜に教わったらどうだ?」
「ぐわぁ、それは俺に効くからやめてくれー」
「だったら、みんなでやらないか?」
そう提案してみれば、藤原さんは、『それ言い考えね!』と賛同してくれた。
「実はみーちゃんからも勉強を教えてほしいって頼まれてるのよね。だからみんなでやるのはとっても賛成よ!」
「山口か、……そんなに悪いのか?」
「うーん、英語と現国だけが極端に苦手って感じかな。他はまぁ普通?」
「まひるぅー、呼んだぁ?」
山口が自分の話をされていることに気が付いたのか、こっちに来た。彼女はうちのクラスで一番のムードメーカーキャラとして愛されている。男子からも可愛いとの評判だが、その一方であまり男子との絡みが少ないことを本人は気にしていたりする。
「みんなで勉強会を開くんだけど、……みーちゃんもどうかなぁって」
「絶対行く! まひるに教えてもらえるならどこにだって行くよー」
「山口って、藤原さんが絡むと普段よりもテンション上がるよな。普段からそのテンションでいれば、もっと人気になるんじゃないのか?」
「いいじゃない。まひるは私の一番の友達なんだから! でも、まひるだけでみんなの勉強教えるの大変じゃない?」
「ううん、違うよ。葉桜君も一緒に教えてくれるわ」
それを聞いた山口はびっくりしたようで、『葉桜君、勉強できたんだ!』って言ってきた。まったく心外だな。学生の本分は一応勉学だというのに……。
「それが出来るんだよ。……特に学校の授業なんて、聞いていれば大体の事は身に着く」
「それが出来ないんだよぉぉ」
「うふふ、大丈夫よ、みーちゃん。みっちり叩き込むわ!」
山口は藤原さんのある意味で処刑宣告を受け絶望していた。……高橋はバレないようさっさと飯を食べ終えて逃げようとしていたので、高橋にも『みっちり叩き込んでやるから安心しろ』と満面の笑みで言ってやったら、山口と同様に絶望していた。
雄太はあははと笑っていたが、『お前もだぞ?』と言ってやれば、苦笑いしつつ、『お手柔らかに』と言うのが精一杯だった。
***
放課後、俺たちは図書室に来ていた。流石にテスト期間中に入ったことで普段より人が多いようだが、これ以上増えるようなら別の場所でやる方がいいかもしれないな。
「みんなは中間テスト期間中はどこでテスト勉強をしてたんだ?」
「前回はみんなでやることがなかったから、みーちゃんと私だけで図書室で勉強してたわ。健斗は休日になってから健斗の家で教えてたわね」
「俺はバンド仲間と一緒にやってたなぁ。言っちゃ悪いけど、勉強が苦手な者同士でやるのは非効率的だったけどね」
「そりゃそうだ。そんなの楽な方向に逃げちまうからな。なぁ高橋……」
「う……、な、なんで俺なんだ」
そう言ってやれば高橋が狼狽え、藤原さんが、『よくわかったわね、健斗は平日現実逃避していつもゲームとかに逃げてたわ』と言って笑っていた。高橋も何か言い返そうとしていたようだが、図書室でもあるし、正論を言われているので何も言えず、意気消沈している。
「ねぇねぇ、そろそろやろうよ、まひるー」
山口がそう切り出してくれたので、無駄話もこれくらいにして俺たちは各々勉強を始めることにした。
「んじゃ、俺と藤原さんでお前らみるから、わからない所があれば随時聞いてくれ。目安は5分やってもわからないようなら、だな。まずは雄太と山口が苦手な英語からやるか」
「そうね。その方がいいと思うわ。健斗もどうせ英語苦手ですし……」
「はぁ、なんかおかんが真昼含めて2人になったようだぜ」
そう会話を終わらせ、俺たちは勉強を始めることにした。それにしても藤原さんは背筋がいいな。普段から勉強してるからだろうけど、かなり様になってる。こうして間近で勉強風景を見ることがなかったからなんか新鮮な気分を味わえる。
……あ、何か小説のいいネタになりそうな予感。
「なぁ真夜、ここの英文なんだが……、意味ってこれであってるか?」
「大体はあってるな。これでもわかるがもう少しわかりやすくしたいなら、俺ならここの英文は直訳しないで、もう少しかみ砕くかな。例えば──」
「おー、ほんとだ。さっきより英文の意味が伝わるかも」
「日本人の悪いところだな。どうしても単語の意味を先に考えちゃうから、会話や文章として成り立つための言葉に変換し辛いんだよな……」
「まひるー、ここに入る単語教えてー」
「いいわよ。そこには、この単語が入るんだけど、理由はね──」
「なるほどー、まひるありがと!」
「なぁなぁ真昼、俺にもここ教えて欲しいだけどさ──」
そうしながら俺たちはもくもくと勉強を行い、大体2時間くらい経過したところで高橋と山口の集中力が切れてきたので、一度休憩することになった。
「一度休憩するか……。何か飲むか?」
「なら、じゃんけんで負けた奴がみんなの買うとかどうかな? 男女1人ずつでさ」
「それいいわね!」
「それじゃあ、じゃーんけーん──」
***
「はぁ、まさか負けるとはな……」
俺がそうぼやきながら歩いていると、『一発で負けちゃったもんね』と藤原さんは笑いながら言う。まぁ負けたことについては悔しいが、こうして藤原さんと一緒にいられるからプラスマイナスで考えたら間違いなく、プラスだろう。
(提案した雄太には感謝だな!)
「えぇっと、紅茶が2本に、三ツ矢サイダーが2本、それとコーヒーだよね」
「あぁ、男どもの方は俺が持つよ」
そう言って自販機で飲み物を買った後、藤原さんは俺が持っている炭酸飲料をジーと見ていたので、『どうした?』と尋ねてみることにした。
「ううん。ただ炭酸飲料なのに振らないんだー、と思ってね」
「そんな鬼畜なことはしないさ。というか図書室でそれやったら出禁だぞ」
「あははは、確かにそうかも!」
そんないたずらっ子みたいな顔で言うもんだから、思わずドキっとする。
「うふふ。あー、なんか今がとっても楽しいわ」
「そうなのか?」
「うん。よく話す人たちはいるけど、葉桜君が来るまでは私と健斗、それとみーちゃんくらいしか身近と言える人はいなかったわ。でも今は葉桜君がいて……、気が付けば柊君もいる。だから今、毎日がとっても楽しいの」
「そっか。俺も……藤原さんや雄太、みんなといる毎日が楽しいよ」
思えばこっちに来る前は、学校生活が楽しいと思えるかどうかわからなかった。そこまで信用できるような相手がいるなんて考えてもいなかったから。
でも、雄太という友達が出来たり、藤原さんという初恋相手が出来て、そのために奔走している……。そんな俺の今の日常はアイツらと一緒に居た頃と何ら変わらず楽しいと思えている。
──ほんと、感謝だな。
そう小さく呟いた言葉に対して、『藤原さんはどうしたの?』と聞いてきたが、俺は『何でもない、さっさと戻るぞ』と笑いながら言い、俺たちは図書室に戻って行った。




