サイン会④:幼馴染は今日を振り返る(真昼&健斗視点)
*** 健斗視点 ***
「なぁなぁ、健斗」
「ん? なんだ?」
「いやさ、本当に俺と遊んでよかったのか? デートだったんだろ?」
ゲーセンでゾンビのシューティングゲームをしている時、そう俺の部活仲間が言うもんだから、『だから違うって』と俺は答える。確かに今日の内容を考えればデートだと世間一般的には言うだろうし、俺も思う。
だからこそ、俺はそれを認めるのが恥ずかしくって否定してしまった。認めてしまえば、みんなからやっぱりと言われるだろう。そうなれば告白しないのか?と揶揄われるのが目に見えているからだ。
(でも……、今日の真昼の服装、めっちゃ大人っぽくって可愛かったな……)
家の前で待っていた真昼を見たとき、普段とは違う服装、小柄にも関わらず、それを感じさせないくらい物凄く大人っぽい見た目になっていたから、内心ドキドキした。同時にこんな可愛い奴を他の奴に見せたくはなかった。だから真昼が自分の服装について聞いてきたとき、本心とは違う似合わないという言葉を使った。
まぁ真昼がそれを聞いてショックだったのは分かる。それでも俺は真昼の良さを他の奴に知られたくない一心でそういうしかなかった。
(まぁ悲しんでいたとしても、真昼の事だからすぐに許してくれるさ)
幼馴染という関係である以上、俺たちには他の奴にはない絆が存在する。どんな軽口を言おうと、普段からの積み重ねがあるからこそ許されるし、それが日常であるという状況が既に出来上がってるからだ。
「だから、なんども言ってるけどよ、今日はデートじゃないって! ただの真昼の付き添い」
「ふーん、まぁお前がそこまで言うならもう言わんよ。だけど、今日の藤原さん可愛かったなぁ」
「ま、まぁ、それは認めるよ。だけどそれだけだ! 見た目がよくても中身がダメだからな。お前もあんまし、見た目に騙されるなよ? あははは」
「はいはい。お前が藤原さんの事大好きだっていうのは知ってますから、安心してくだされな。あははは」
「だから違うってーー!」
でも、今日は楽しかったな、サイン会については俺はさっぱり分からなかったけど、真昼がとても楽しそうにしてたのはよかった。だけど、もしかしたらここに葉桜もいたのかと思うとゾッとするな。今日は埼玉の友達に会うとかで来れなかったようだけど、それが無かったら確実に来ていただろう。
あいつは否定していたけど、俺の中では真昼を狙ってる疑惑がまだ残っているが、この1週間あいつを見ていてもそれらしい態度や行動を起こしておらず、どっちかというと本当に友人として接しているように思える。
(友達を疑うなんて、最低なのはわかるけど……、どうしても疑っちまうな)
うだうだ考えてもどうせ俺の頭じゃ答えなんて出ないだろう。そう結論付けて、これからもあいつの行動には注意しようと決めた俺は、またゲームに意識を戻した。
「そういえば、知ってるか?」
「ん? 何をだよ。おっと、フィギュアゲット!」
UFOキャッチャーでアニメのフィギュアを取っていた俺に部活仲間がとあることを言ってきた。
「先輩から聞いたんだが、なんでも、近いうちに学生対象のプロサッカー選手による指導のイベントがあるらしいんだよ」
「マジで!? それいつだよ!」
「10月の始め頃って話だ。それにイベントには事前応募が必要だって話でな、1年を中心に参加させようってことらしい」
「うわー、それ行きたいな! ぜってぇ募集するわ!」
ここで、さらに力を付ければ、真昼から更に惚れられるかもしれない。これは今から楽しみだ。そう思いながら俺たちはゲーセンで心良くまで遊び、帰ることになった。
*** 真昼視点 ***
「ただいまー」
「おかえりー、お姉ちゃん! 今日はけんにいさんとどうだった? いい感じになれた?」
優花は私が帰ってきたと同時に、今日のデートについて聞いてきた。優花は私が健斗のことが好きなのは前から知ってるから、デートの結果を知りたいんだろうね。
「んー、健斗はあんまり、デートって意識はなかったわ。私の服装も似合わないって言ってたし……。良くも悪くもいつも通りだったわ」
「そ、そう……。けんにいさん、ほんと何考えてるんだか!」
「ふふ、ありがと優花。まぁそれでも今日は久々に健斗と遊べて楽しかったわよ。カフェで一緒にケーキも食べれたし」
それを聞くと、優花は『女の子がデートのためにおしゃれしたんだから、そこは普通褒めてあげるべきところでしょ!』と頬を膨らませながら、健斗についてダメ出しをしていた。まぁ気持ちは分かるけど……。
「今日のお姉ちゃん、今までで一番大人っぽくってよかったのになぁ。あーあ、けんにいさんのバカ!」
「ふふ、ありがと優花。でも私は大丈夫よ。それに帰る前に葉桜君から似合ってるって褒められたし」
優花は『葉桜先輩に会ったの!?』と、とても驚いていた。
「うん。ちょうど彼も遊びから帰ってきたタイミングだったらしくってね。ちょっと元気がなかったんだけど、励まされちゃった」
「そっか……。でもよかったね褒められて! ……元気? お姉ちゃん何かあったの?」
そのことについて私は優花について説明してあげたら、バカバカと物凄く怒っていた。まぁ普通そうなるよね、と私は苦笑しつつ言ったのだが、優花は少し悲しそうな顔をしながら、何かぶつぶつ言っていた。
***
優花と今日あった出来事を話、夕飯等を済ませた私は自分の部屋でベットに横になって目を瞑りつつ、健斗の事を考えていた。
「はぁ……、どうやったら健斗って私にドキドキしてくれるんだろ」
高校に入って、夏休みも一緒に過ごした。それでも健斗は中学から何も変わらず、私に対して軽口を言う。でも学校でお昼を食べたり、一緒に登下校をしたりするとき、健斗はたまに幸せそうな顔をする時がある。あの顔を見ると、どうしても私に気がないとは思えなくなってしまう。
(私……、健斗のことを知ってるようで知らないのかな)
10年以上一緒に居ても、健斗の気持ちが一切わからない。多分好きなんだろうくらいの認識でしかなく、いつまで経っても健斗は私に軽口ばっかりで本心を話してくれない。それとも軽口が本心なんだろうかとさえ思ってしまう。
恋愛小説なども読んでるけど、現実は小説のようにいかないんだなぁと思いながら、ふと脳裏に葉桜君の顔が浮かんだ。
「そういえば、葉桜君って会った時から私の事、褒めてたっけ……」
会った時から葉桜君は私に対して、健斗とは真逆の接し方をしてくれていた。軽口も言わなければ、私の趣味なども否定しない。弱音を吐いても真剣に聞いてくれて、彼なりに励ましたりしてくれる。どれも今の健斗とは違う対応だった。
友達だからといつも言ってくれるけど、私はいつも彼に貰いっぱなしだ。どうやったら彼に返せるんだろう……。
「彼岸花っか……。健斗も来てくれたらいいな」
最後、彼から彼岸花を見に行かないかと誘われたとき、見てみたいという気持ちもあったけど、同時に健斗が来てくれたら嬉しいなという気持ちもあった。けど、その日は確か部活もあったはずだから健斗が来てくれるかはわからない。
私と部活を天秤にかけた際、どっちを選ぶのか私はとても気になった。きっと葉桜君なら彼を動かしてくれるんじゃないか、そう期待せずにはいられない。
(とりあえず、まずはテス……トだよ、ね……)
この後、勉強しようと思っていたのだが、疲れもあったのか私の意識は夢の中へ沈んで行ってしまった。