プロローグ②:あの日約束した大切な思い出(健斗視点)
―― 10年前 ――
俺がまだ5歳の頃、都内の幼稚園で1人の女の子と一緒におままごとをしていた時、俺はその女の子に向かってこう言った。
「なぁなぁお前さ、おじさんに将来パパと結婚するー!って言ったらしいじゃん」
「う、うん! 言ったよ。だって私パパのこと、大好きだもん!!」
「馬鹿じゃねぇの? おじさんはもう、おばさんと結婚してるんだから、お前と結婚なんてできないに決まってるじゃん。あははは」
俺はそう女の子に無邪気な笑いとともに言って、馬鹿したことを覚えている。俺は当時5歳にも関わらず、相当ませていたと思う。なぜなら結婚について母さんに聞いたことがあったからだ。
「お母さんは健斗の事が好きだけど、お父さんの事はもっと大好きだから健斗とは結婚できなんだよ?」
そういうもんなのかな思いつつ、なら真昼となら結婚できるんじゃないのかと思った。当時の俺は真昼の事がお母さんの次には好きだった。今も昔も変わらず日本人形のような美少女は他にはいないって! だからそのためにはまず真昼の気持ちを聞かないと、と思い結婚について聞いてみたら案の定真昼はおじさんと結婚したいと言ってきた。
真昼は『そんなことないもん!』と怒りながら反論していたが、これがまた可愛いすぎて、ついつい見惚れていた。そしてそんな口論を続けている中、俺は勇気を振り絞って、少し恥ずかし気に真昼の顔を見ながら、俺の想いを伝えてみた。
「な、ならさ……、ぼ、僕と結婚するってのはどうだ!?」
「え、えぇ? け……、結婚って健斗君と?」
「ああ!! だってさ、お前みたいな可愛くて優しい女の子……、僕は知らないもん! だから、おじさんとは無理だけど、僕となら結婚できるし、というか僕、真昼のことが好きなんだよなぁ! あははは」
俺が真昼に始めて告白した瞬間だった。そしてとうの真昼はと言えば、顔を真っ赤にして、あたふたするのが精一杯で、どう返事すればいいのか分からないみたいな表情だった。子供の頃ってどうしてこんな恥ずかしい事を平然で言えるんだろうな。いやマジで。
んでもって告白の返事が欲しくて、そわそわしながら真昼を見ていれば、何やら俺の顔を見ながら考えるそぶりをしつつ、何かを決心したような顔つきになったかと思えば、次の瞬間には最高の返事をしてくれた。
「う、うん。私もねパパ以外なら健斗君のことがす……、好きだよ? だから……その……、私も健斗君と結婚したいです」
「本当!? じゃあ約束だよ! 僕たちはいつか絶対に結婚するって!!」
「う、うん! 約束だね。じゃあ指切りげんまんしよ?」
「ああ! 指切りげんまんしようぜ」
ああ、これがあの日、俺「高橋健斗」が交わしたあいつ「藤原真昼」とのかけがえのない大切な思い出の一つ。これから何年何十年とこの関係が続くと思っている俺の恋物語。
―― 10年後 ――
ピピッ、ピピピ!! 朝6時、目覚ましとともに俺の意識は夢から一度覚めた。
「う、うーん……、なんだか懐かしい夢を見たなぁ」
(でも、夢の中でもあれを見るだなんて、ほんと俺って真昼の事好きなんだなぁ)
だが、そんなことは真昼に面と向かって言うことができないので、今まで通り幼馴染として接するしかない。だって高校生だぜ? ただでさえ皆からおしどり夫婦やバカップルと冷やかされてるのに、今さら告白なんてできないじゃん。
それにもし真昼が俺の好意に気がついたら、俺の知ってる真昼じゃなくなりそうで怖い。とまぁそんなことを考えながら、まだ朝の6時ということもあって眠すぎる。今日は夏休み明けの学校だし、後で真昼が起こしに来てくれると思うから、もうひと眠りしよう。そう決めた俺の意識は再び枕へと落ちていった。
「こらぁ、健斗! 起きなさい!!」
「ぐふぅ!!」
突如、頭に強い衝撃が走ったかと思えば、耳元から真昼の罵声が聞こえてきたので、一瞬で意識が覚醒してしまった。ほんとなんでこんなにも暴力的になってしまったのか、昔はもっとやんちゃでここまで暴力的じゃなかったのに。いや、やんちゃの時点でダメか。
そんなことを思いつつ時間を見てみればまだ7時過ぎ、全然余裕じゃん。
「まだ、7時過ぎじゃないか。もう少し寝かせてくれもよくないか? 真昼」
「ダメよ、今日からまた学校なんだし、ご飯を食べたり着替えしたりしたらもうそんなに時間がないのよ。ほら、さっさと着替えて下に降りる! 瞳さんもご飯作って待ってるんだから、早く来なさいよ」
そう言って真昼は俺の部屋から出て、下に降りて行った。はぁ幼馴染が起こしてくれる最高のシチュエーションではあるけど、こうも暴力的だと夢が崩れていくよな。
幼馴染なんだから、照れながら起こしに来てくれもいいと思うんだよ。まぁでも150にも満たない身長にさらっとして艶のある黒髪、目なんかくりくりしててほんと可愛すぎる!まぁ胸が絶望的なのとあの暴力性さえなければ最高なんだが。
(はぁ、いつか俺も真昼に告白して夢の恋人生活になれる日が来るんだろうか……。 いや、チャンスはいくらでもあったはずなんだけどなぁ)
ついこの間まで高校1年の夏休みだったんだ。夏祭りやプールなど真昼とは色々なところに行ったにも関わらず、俺は告白すらできなかった。
ヘタレ? いや違う。ただ単に告白するシチュエーションじゃなかっただけだ。だってアイツそういう雰囲気を出しても我関せずみたいな感じで接してくるんだもんな。
「俺があの時の約束を覚えているんだ。真昼だって絶対覚えているはずなんだ。とりあえずいつ告白するかタイミングを考えないとな。」
そんなことを考えつつ、俺は制服に着替えて下に降りて行った。真昼は母さんと笑いながら話していて、俺に『やっと降りてきた』と言ってきた。いいじゃないか俺にだってゆっくりしたい時くらいあるんだ。
「おはよ、母さん。今日の朝は何?」
「今日はフレンチトーストよ。さっさと食べて、歯、磨きなさい。真昼ちゃんずっと待ってくれてるのよ?」
「瞳さん、大丈夫ですよ。健斗が朝弱いのなんて昔からなんですから、ちゃんと考慮して少し早めに来てるんです」
まさか俺がゆっくりする時間すら計算していたなんて。でも俺にそこまで献身的だと思うと少し嬉しくなってしまう。やっぱり俺は真昼の事が好きなんだと実感できる。そう思いつつ母さんに『いただきます』と言い、フレンチトーストを食べ始めた頃に、真昼がこんなことを言ってきた。
「そういえば今日の私、運勢が良いらしいのよね。なんだか恋愛観に変化が訪れるとか言っていたわね」
「なんだそりゃ。真昼に男ができるって? それはないだろ。そんな貧相な体つきに欲情する男なんていないだろ。あははは」
そんなことを言ってきたので、俺はとりあえずいつも通り軽口を言いながら、真昼の言葉について考えてみた。
(恋愛観に変化? もしかして、真昼から俺に告白とか!?)
真昼は俺が言ったことに対して、『はいはい私の体は子供ですよー』と言って拗ねていたが、ほんとに可愛い。
「まぁそんなことは置いといて、恋愛観が変わるねぇ。真昼って今好きな奴いるの?」
「はぁ!? い、いきなり何言ってくるのよ!」
「いや、そんなことを言ってくるんだし、誰か気になってる奴でもいるのかなって」
「い、いや、健斗には関係ないでしょ! ほら、食べ終わったならさっさと歯、磨いて行くわよ! じゃあ瞳さん、行ってきます」
「あ、待てよ!」
真昼が顔を赤くしながら家を出てしまったので、俺もすぐに歯を磨いて家を出た。
「いってきます!」
「はい、いってらっしゃい!」
既に時間は8時前になっており、確かに少しでものんびりしていたら遅刻しちまうな。真昼は家の前で待っており、笑顔で『行くわよ!』と言ってくれる。あぁほんとに最高の幼馴染だよ。
これが、今までもそしてこれからも続くと思っていた俺の日常。でもまさか本当に真昼が言っていた通りに恋愛観に変化が生じる日になるだなんて、この時の俺は思いもしなかった。