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結婚を約束した幼馴染じゃなく俺が君を幸せにしてみせる  作者: 風間悟
第1章:負け確状態から始まる青年の恋物語
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サイン会③:青年はサイン会帰りの少女と話す

「はい、冷たい紅茶だよ」

「あ、ありがとう、葉桜君……。あの、いくらだったかしら」

「いいさ、これくらい」


 俺たちは近くの公園のベンチに座り、自販機で買った紅茶を藤原さんに手渡した。俺は普段ならコーヒーを飲むつもりだったが、たまにはと思い、コーラを買った。


「ぷはぁ! やっぱりたまに飲むコーラはおいしいよな。流石に毎日飲もうとは思わないけどな。……と、すまない藤原さんは炭酸が苦手だったな」

「ううん、大丈夫。でも、葉桜君もそういうの飲むのね……、何だか意外だわ」

「そんなことはない。俺だって高校生だ。こういう甘いものも飲みたくなる時もある。むしろ割と甘いものは好きなんだぞ? 例えばパンケーキとか結構好きでな、時々出歩いては食べてるよ」


 藤原さんは少し意外だったのか、笑いながら『男の子がパンケーキって可笑しいわ』と言うもんだから、俺は証拠として、スマホで撮ったパンケーキやケーキの写真を藤原さんに見せることにした。


「えっ、ここって確か少し高いけど、おいしいって有名なお店よね? 葉桜君1人で行ったの!?」

「いや? ここには親友を入れて3人で行ったんだ。……で? 少しは信じてくれたか?」

「え、ええ。ごめんなさい。本当だったのね……」

「ま、気にはしなからいいさ。確かに男子高校生がパンケーキ好きってのも少し面白いもんな」


 普段、学校で話すような日常的な会話。最初、藤原さんを見かけ声をかけたとき、何かがあったんだろう。元気がない表情だった……。


 だから少しでも元気になればと思い、俺は公園に誘ってこうして話をしている。藤原さんも最初は元気なさげだったが、次第に調子を取り戻していってるようなので、少しだけ安心した。


 なので、俺は何かあったのか尋ねてみることにした。


「ところで、今日は何かあったのか? 確か高橋とサイン会に行くことになってたはずだが……。というより、アイツはどうした? なんで藤原さん1人で帰っているんだ?」

「え、えと……、その……、実は────」


 聞けば、高橋とサイン会に行った後、カフェで休憩していたようだ。その後、どうしようかと話していた時に高橋の部活仲間が声をかけたようで、高橋はそいつと一緒にゲーセンに行ってしまったとのこと。


(何をやってるんだ、あのバカは……。普通、幼馴染より部活仲間を優先にするか?)


 それを聞いて俺は呆れていた。普段からの2人のやり取りを見ていれば、そういう場面になった場合、そんなことになるのもまぁ考えられる。


(だけどさぁ、お前藤原さんの事好きなんだろ? いくらなんでも無責任にもほどがある)


「それに……、今日はデートのつもりで私はいたんだけど、健斗にとってはただのサイン会に行くだけの付き添いのつもりでしかなかったようなのよね。あははは……」


 そう藤原さんは笑いながら言ってはいるが、無理しているのが分かる。悲しいことを悟られたくないような、そんな作り笑いとトーンの下がった口調で話す。


(なんて言うのが正解なんだろうな……。いや、やることは変わらないか)


 友人の()()は風邪で休んでるし、彼女を励ましてられるのは、今この場では俺しかいない。正解なんてわからないんだ。……なら、俺は俺のやり方でやるしかない。


「そっか……、そんなにおしゃれな服装で出かけたのに、高橋はほんと察しが悪いな。それ、先生の年齢層に合わせた服装だろ? すごく大人っぽくって、藤原さんの小柄な身長にも合ってて綺麗だと思うよ」

「ふふ、ありがとう。ママと一緒に考えたコーデだから、お世辞でもそう言って貰えると嬉しいわ。……でも、小柄は余計よ。……私も気にしてるんだから」

「俺はお世辞で言ったつもりはないよ。それに、小柄の何がいけないんだ?」

「え?」


 藤原さんは俺がそう言うと、きょとんとした表情で俺を見る。


「そりゃ、身長が高い方が綺麗とか美人とか言われやすいだろうけど、だからって小柄だから言われないかと言ったら違うだろ? そんなの人それぞれの価値観でしかないんだ。いいか? 自分は自分だ……、自分が好きでやりたいことをすればいいんだよ。その選択に周りの評価なんて関係ない」


 そう、結局周りの評価なんて、所詮そいつらの価値観で判断されたものでしかない。一番重要なのは自分の気持ちを大事にすることだ……。


「その服装だって、先生に合うような服装にしたのもあると思うけど、本当は高橋に似合ってるって言ってもらいたくって……、その中で一番自分に合うような服を、お母さんと一緒に選んだんじゃないのか?」

「……そうね。健斗に似合ってるって言って欲しかったわ……」

「なら、それを選んだ自分に自信を持て。……それに、今の藤原さんは大人な雰囲気を感じていて、とても似合ってる。これは嘘偽りない俺の本心だ」


 俺が真剣にそう思ってるのが伝わったのか、藤原さんは少し頬を赤らめて、ありがとうと言ってくれた。


「そっか……。ママや優花も似合ってるって言ってたけど、葉桜君もそう思っててくれるんだ」

「藤原さんのお母さんは見る目があるな。……ん、優花? 初めて聞いたな。藤原さんの友達か?」

「ううん、優花は私の1つ下の妹よ。そういえば、葉桜君には話してなかったわね」


 へー、藤原さんにも妹さんがいたのか……。1つ下だし、今の言葉からすると姉妹仲もよさそうだな。


「実はさ、俺にも雪っていう5歳の妹がいるんだ」

「葉桜君にも妹さんがいるの?」

「今日、親友らに会いに行くついでに会ってきたよ。天使だった。……ほら」


 俺は今日撮った雪とのツーショットを見せてみると、『かわいー』と藤原さんは少し黄色い声で言う。こういう時は猫だったり子供だったり、可愛い写真を見せたりするのが効果的だろう。


「ふふふ。確かに、これは天使だわ」

「だろ? 埼玉にいた頃は毎日癒されてたよ」

「葉桜君って、良いお兄ちゃんだったのね」

「そりゃ、1人しかいない妹だからな……。大切にするのは当り前さ。藤原さんだってそうだろ?」

「そうね、優花とは私も物凄く仲良くしているわ」


(うんうん、ちょっとずつ明るくなってきたかな。ありがとう妹よ……)


 それからは今日あったことをお互いに話し合った。俺からは親友たちの話を、藤原さんからはサイン会での先生と話した内容を。


「そういえば、先生が葉桜君の事が気になってたわよ。若き将来の作家に会いたかったって」

「それは嬉しいな。いつか俺も会えたらいいな」


 そうして話していれば、いつの間にか藤原さんも普段通りの調子に戻っていた。これが正解だったのかはわからないけど、元気になってくれたならそれでいい。そこで俺は雫が言ってたことを思い出した。


「そうそう、テスト明けの土曜日にさ、曼殊沙華まんじゅしゃげ──彼岸花ひがんばなが綺麗に見れるスポットが埼玉にあるんだが、雫──、俺の親友の女の子が藤原さんらも一緒にどうかなって言ってたんだよ」

「え、私たちも?」

「あぁ、雫は俺の話を聞いて藤原さんに会いたいみたいなんだが……、高橋も来るかどうかはわからないけど、どうかな」

「え、えと……、迷惑にならないかな」

「むしろ、来てくれる方が助かるな。…………俺も、来てくれると嬉しいし」


 最後は聞こえない声量で言ってみたが、藤原さんは『何か言った?』と聞いてきたので、俺は何も、と苦笑しながら言った。


「えーと、……なら、私も一緒に行っていいかな。彼岸花って前から綺麗だなって思ってたんだ」

「助かるよ。高橋には俺の方から聞いておくが、あいつが来れなくても恨まないでくれよ」

「うん、お願いね……。まぁ健斗がそういうのあまり好きじゃないし、そこは仕方ないって諦めておくわ」


 次の土曜の約束もでき、気が付けば少し空が暗くなっていたので、そろそろ帰るかと俺が言えば、藤原さんもそうね、と答えた。


 今日はこれでお開きだな……と、公園を出て、お互い家に帰るため分かれ道で解散する直前、藤原さんから声をかけられた。


「あ、あの! 葉桜君……」

「ん、どうした?」

「その……ね。今日は話聞いてくれてありがとう。話を聞いてくれたからかな、おかげで少し元気が出たよ。だから、お礼がいいたくって……、その、ほんとに今日はありがと!」


 もう自分は元気だよと伝えんばかりの笑顔でお礼を言う藤原さんに俺は見とれ、藤原さんは言ってて恥ずかしくなったのか、『じゃ、じゃあまたね!』と顔を赤くしながら走って帰っていってしまった……。


(可愛すぎるだろ!!)



 心の中だけで叫んだ俺を褒めてやりたい

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