ショッピングデート⑤:俺はデートを目撃する(健斗視点)
*** 健斗視点 ***
――真昼? なんで葉桜と一緒に居るんだ?
***
「今日の練習はここまで! 明日は学校なんだ、午後はしっかり休んでおけよ」
「「「お疲れしたー!!!」」」
日曜日の午前、俺は部活でやってるサッカーの練習が終わり、仲間たちと午後どうするかで話し合っていた。候補としてはカラオケとゲーセンだったが、カラオケはこの前行ったので、今日はショッピングモールにあるゲーセンに行く事になり、俺たちはそこに向かっていった。
「なあ、健斗。お前最近転校生と仲が良いらしいじゃないか。ついに愛しの奥さん以外にも目を向けるようになったのか?」
「愛しの奥さんってなんだよ。真昼はそんなんじゃねぇっていつも言ってるだろ。でもまぁ、葉桜とはそこそこ仲良くさせてもらってるな。あいつ何ていうかさ……、上手いんだよ。意識してなくても自然と会話の中に入ってくるみたいな」
「なんだそりゃ、つまり陽キャの鑑みたいなもんか?」
「健斗でもそう言うって事は、相当コミュケーション能力が高いんだな!」
ゲーセンに向かいながら転校生の葉桜について、俺たちは話し合っていた。聞けば俺のクラス以外にもあいつは色んなクラスの奴らと話してる所を目撃されてるようで、どんな話をしてるのか聞いてみたが、そこまでは分からないとのことだった。
「あ、でも、1つだけ知ってるぜ? あいつ小説のネタとかのために、お前らを中心とした事を聞いてるらしい」
「小説? おいおい、その葉桜とか言う転校生は小説でも書いてるのかよ。あははは、そりゃすげぇ」
「実際、あいつは書いてるぞ。この前の金曜日に俺と真昼に送ってくれたからな」
俺は、この間送ってくれたURLを開きそこに書かれているタイトルを部活仲間たちに見せてみた。
「なになに、"俺は2度幼馴染に初恋する"だ? なんだこれ、恋愛小説か? てっきり異世界のバトル物かと思ったぞ」
「恋愛小説だよ。そのために俺と真昼に色々幼馴染エピソードを教えてくれ!って言ってきたくらいだぜ? あははは」
「男が恋愛小説を書くって逆に凄いな。もう読んだのか?」
「いや? 部活やゲームもあるし、そもそも俺、本読むの苦手なんだよなぁ……。まぁ葉桜はいつでもいいって言ってるから俺は俺のペースで読もうかなって」
そんな事を言えば、皆からは『お前は絶対に読まないだろうな』と笑いながら言われたんで、『うるせー!』と言ってこの話を打ち切りにした。
んでもって次第に恋愛の話にシフトしていった。やっぱり華の高校生であるので、皆恋愛事に敏感なんだよな。あの先輩の胸がデカいだの。図書委員にいる3組の女の子が5組の男と付き合ったとか色々な情報が出てくる。そんな話をしていれば必然と真昼の話も出てくる訳で……。
「実際よぉ、お前は藤原さんに告らねぇの?」
「は、はぁ!? なんで俺が真昼なんかと!」
「だってさ、お前ら幼馴染なんだろ? ある意味最強の関係性なんだぜ? 俺なら速攻告って恋人になるわ」
「分かる分かる。しかも藤原さんって、めちゃ可愛いもんな。その気持ち分かるぜ」
「ちょ、辞めろよマジで。確かに真昼は可愛いけどさ、それは見た目だけの話なんだよ。中身はマジで酷いぜ? それにやっぱり女の子には胸がないとさ! あいつ殆どないじゃん。あははは」
そう言えばこいつらは、確かにやっぱり胸は大きい方がいいよなぁや、巨乳を揉んでみたいよなぁと賛同してくれたので、無事誘導することが出来たみたいで安堵するがそれも束の間で、再び葉桜の話が入ってきた。
「そういえば、さっき話してた葉桜って奴はさ、お前らと絡んでるんだろ? よくよく考えると、お前が藤原さんの所に男を受け入れるなんて珍しいよな」
「あー、なんか真昼がさ、葉桜と意気投合っていうのか? お互い趣味が同じだからって事で仲良くなったんだよ。あれはマジでビビった」
俺が真昼に男が寄らないよう普段から色々していたにも関わらず、葉桜はそんなのを無視して、俺たちの中にすんなりと入ってきたんだ。まるで魔法でも使ったみたいに鮮やかな手腕だったんだよな。
まぁ真昼が楽しそうにしてるし、今のところ葉桜が真昼を狙うような素振りを見せていないから、今のところは静観しておくさ。
「へー、転校先で女の子と趣味が同じで意気投合とか、それこそ恋愛漫画やゲームの導入にある運命の出会いみたいな感じたな! あははは」
それを聞いて俺は心臓が跳ねる感覚に陥った。確かに言われてみれば、恋愛漫画とかでそういった導入があることは真昼から聞いたことがある。
(いや、所詮は漫画だ。現実とは違う)
「あははは、そんなわけないだろ。そもそも真昼の事を好きになることはなんてないさ。葉桜って意外と中身を重視してる節があるから、真昼みたいに見た目が良くても中身に問題があるんじゃ眼中に無いって」
「分からないぞ? そういう奴に限って虎視眈々と狙ってるかもしれないしな。あははは」
と言ってくるものの俺はそこまで危機感を感じていなかった。今まで真昼に近づいて来た奴らは皆下心があった。だからこそ、俺が少し真昼の悪い面を言ってみれば直ぐに消えてった。
だがあいつは違う。今のところ真昼に対して下心は感じない。むしろ葉桜は俺たちが幼馴染だからなのか普通に友人として接してると言ってもいい。だからこそ俺は葉桜が真昼を狙っていないと確信している訳だしな。
そんなこんなで話していたら、ショッピングモールに着いたので、俺たちはゲーセンに向かいUFOキャッチャーやゾンビのシューティングゲームをしつつ、休日を満喫していた。
***
いい時間にもなったので、その場で解散し俺も帰ろうと思った所で、冒頭に繋がる訳だ。
(どういう事だ? なんで葉桜と真昼が一緒に遊んでるんだ……)
確か真昼は今日、ラノベの新刊が発売するからと言って、本屋に行くのは知っていた。てっきり直ぐに帰るもんだと思ってたけど、なんで葉桜と一緒にいる?まさか、俺に隠れて2人で遊ぶ約束でもしてたって言うのか?
(いやいや、あの真昼に限ってそれはない)
なら、偶然葉桜と会っただけ? 分からない。一体俺がいない時に何があったんだ……。その時、部活友達が言っていたことを思い出した。
――分からないぞ? そういう奴に限って虎視眈々と狙ってるかもしれないしな。
まさか、本当に真昼を狙っていると言うのか? だとしたらマズい。あいつはクラスじゃかなりのイケメンだし、性格も気さくでいいと来ているし、真昼とは趣味で意気投合している。まずは情報収集として、真昼に今日何かあったか、それとなく聞いてみるか。
ひとまず今やることを決めた俺は夜、真昼に電話をしてみた。何回かコールした後、『どうしたの?』と声が聞こえた。
『あぁ、ごめんな真昼。いきなり電話してさ。ちょっと聞きたいことがあったんだ』
『何? 珍しいわね、健斗が私に聞きたい事があるなんて……。もしかしてようやく勉強する気になったのかしら』
『い、いや、勉強じゃなくてだな……、その、今日は何してたのかなって。ほら、ラノベの新刊を買いに行くみたいなこと行ってたじゃないか』
『あぁ、そっちね。えぇ、確かに今日はラノベを買いに行ってたわよ。そうそう葉桜君が私の好きな先生のサイン会が開催するって教えてくれたんだけど、偶然同じ本屋さんにいたのよ。驚いちゃったわ』
そう真昼が答える際、少し声色が楽しげな感じになっていた事に気がついた俺は、胸の中から湧き立つざわざわ感を払拭したく更に質問してみた。
『へ、へー。珍しい事もあるんだな。それで? 会ったとしてもそのまま帰ったんだろ?』
『ううん。葉桜君がせっかく会ったんだし、ウインドウショッピングでもどう?って誘ってくれたから、その後は一緒にショッピングモールを回っていたわ。ふふ、それが意外と楽しくてね、今度健斗もどうかなって思ったわ』
それを聞いて俺は心臓が飛び出んるじゃないかと思うほど、焦燥感を感じた。
(葉桜が、真昼を誘った!? なんで、あいつ全然そんな素振りすらみせなかったじゃないか)
『葉桜が真昼を誘うだなんてな。葉桜に失礼なことしなかったか? 真昼って直ぐ暴言を言ったり小言が多かったりするからな。あははは』
『もう、そんな事するのは健斗だけよ! それに、葉桜君は友達なんだからって言ってくれたのよ。友達の誘いを無下にすることは出来ないわ』
そう言ってきて、俺も確かに友達と偶然休日に会ったら遊ばないかと誘う時があるから、真昼の言い分もよくわかる。でもさ、俺たち幼馴染なんだから、1言くらいあってもいいんじゃないのか?
『そういうことか。でもよ、なら俺にも言ってくれれば良かったのに。部活終わったあとは暇なんだしさ』
『あなた当日誘ってもどうせ、友達を優先にするじゃない。私、そんな無駄な事はしないの』
う、俺の今までの行動のツケが回ってきたようだ。これは流石に分が悪いと思い、俺は『それもそうだな』と笑いながら言い。そのまま逃げるように電話を切った。
「はー、これは明日、葉桜に聞いてみるしかないな。もし真昼に好意があるなら諦めてもらうよう、色々やらないといけないし」
明日やる事を決めた俺は夕飯が出来るまでの間、学校のFPS仲間と共にFPSを始めるのであった。