まちがいさがし
三国志の主人公、割とピンチ!周倉は来るのか?何しているのか?
「サンゴクシ好き?何の話だ?」
偽物の関羽、張飛を目の前にし、意味不明な返答が帰ってきたことで、劉備は一層困惑した。
「ゲームキャラの劉備にはわからないと思うけど、一応説明してやるよ。女神は俺たちに言った。全章クリアできた最初の一人は、生き返らせてやる、と」
きょとんとした顔の劉備を無視して、張曼成が続ける。
「だが俺たちは経理部。三国志はにわか知識しかない。普通にやってたら、ゲームを作った制作部の奴等には勝てない」
「そこで俺達は考えた」
偽張飛の菅亥が言った。
「劉備を殺してしまえばいい」
「私を殺す!?」
「そう。劉備が死ねば、奴等の知っている三国志のストーリーでなくなる。俺たちにも勝ち目が見えてくる。何なら俺が劉備に成り代わって皇帝になってやるよ」
「何を言ってるのかはわかりませんが、貴方がたが悪党だということはわかりました」
「悪党!?はっはっはっはっはっ!あっちの世界じゃ言われることもなかったな、そんな漫画みたいなセリフ!!!じゃあ、漫画っぽく、『冥土の土産に教えてやる』よ!はっはっはっはっ!俺のペルソナは『スペグーロの写し鏡』。自分や他人の見た目を自由に作り変えることができる能力。見た目しか変えられなくて、着せ替えを楽しみたいプレイヤー向けのはずれスキルなんだけどさ、いざ現実で使ってみると、結構便利だぜ。仲間のフリして暗殺だとか、隠密行動にも使えてよぉ」
「なんとなくわかりました。そのペルソナで、関羽と張飛に化けた?」
「ご名答」
偽関羽がにやりと笑った横で、偽張飛が叫んだ。
「ペルソナ!」
「なに!?」
劉備は驚愕した。どうあがいても、両手が広がらない!
「視界にいる人間全てを握りこぶしにして、開けなくする。それが俺のペルソナ『拳骨カンケル』。こっちは武器を持てるのに、相手は丸腰。確かに悪党かもっすね、自分、ひひひ」
素手で武器を持っている相手に敵うわけない!
劉備は、くるりと振り返り、全速力で走り出す。
――逃げなくては!
「逃げれるわけねえだろ?」
張曼成が、指を鳴らすと、桃園一帯から湧き出たように兵士たちが30人余り現れた。
「なんだと!?人の気配はしなかったのに!」
「そいつら全員死人だからな」
「死人!?」
「俺たちの仲間・程遠志は、死体を操るペルソナ『屍のイーレ』の持ち主だ」
更に劉備を驚かせたのは、その兵士たちの顔が、全員関羽の顔だったことである。
「関羽!?」
張曼成がニヤニヤ笑う。
「全員俺の『スペグーロの写し鏡』で見た目を変えといたんだ。強さは変わらないが、関羽たちが劉備をボコすの面白くね?はっはっはっはっはっ!」
ゾンビ関羽たちが一斉にわらわらと行進してくる。菅亥の視界に入ったことで、全員握りこぶしになった。
「自分の『拳骨カンケル』は敵味方関係なく握りこぶしにしちゃうのが玉に瑕っすね(笑)」
「いいよ、おもろいから。ボッコボコにしたあと、トドメは俺たちがさしてやろうぜ、はっはっはっは、」
「ゲスいなあんたら」
「!?」
偽張飛と偽関羽は押し黙る。今の声はさっきの。
遠隔操作する程遠志の指示で、ゾンビ関羽の行進もストップした。
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ざざっ。
桃の大樹の木陰から、『疾風のヘルメス』を発動している俺が、ゆっくりと登場した。
「やめなよバカなことは」
決まったぜ。
「お前はさっきの!!」
「周倉です」
「お前、何でここにいる!?馬でもここまで20分はかかったんだぞ!?」
「周倉のペルソナは、あー、あんたらに説明すんのめんどくさいな」
「諦めんな!しろよ説明!」
「超足速い!以上!」
「雑すぎるだろ!つかなんでそんな急いで追ってきたんだ!?そんなに義兄弟になりたかったのかよ!?」
叫ぶ偽関羽に俺は呆れて言ってやった。
「なわけないでしょ。ハナから、あんたらが偽者だってわかってたからだよ」
「「はぁ!?」」
驚きを隠せない二人。
「「完璧な変装だっただろ!」」
「はぁ!??」
今度は俺が驚きの表情を浮かべて言い返す。
「どこがだよ!!!三国志ゲーム10年作り続けてきた俺をなめんじゃねえぞ!!!あんたら、関羽と張飛になりきるなら、マジでちゃんと勉強しろ!」
「……そんなに?」
「一つ目!関羽は身分や立場が上の人間には厳しく、弱者には優しいんだよ!俺への態度が真逆!」
「なるほど」
劉備がうなずいた。
「二つ目!関羽と周倉は友好武将なんだよ!ゲームの設定上気が合うはずなのに、最初の一言からあんたおかしかった!」
「知らねえよそんなの」
「三つ目!関羽は美髯公って自分で言わない!最初に言ったのは、帝だから!もっと後の時代だから!にわか知識で関羽のフリしてんな!」
「こいつガチ勢っすね……」
「これくらい普通だわ!あと4つ目!」
「「まだあるの!?」」
「まだまだあるわ!張飛の字は、益徳!」
そう俺が怒鳴ると、偽張飛の菅亥が反論した。
「はぁ!?翼徳で合ってるだろ!!」
「翼徳っていう張飛の字は、『三国志演義』だけなんだよ!≪バンクォー≫のゲーム初期、翼徳の表記で販売したら、史実のファンや歴史家たちに叩かれまくった経緯があって、ここ5年間、うちのゲームの張飛は、ずっと≪益徳≫って字で統一されてんの!」
「まじか、普通に知らなかった」
「最後に武器」
「「武器?」」
「関羽の武器は、≪青龍偃月刀≫、張飛の武器は≪蛇矛≫ってのは世間の常識なんだよ」
とまぁ、そういうわけで、俺はこの偽者をとっくの昔に看破していたんだ。
だから。
俺は酒場をもう一度巡り、店員さんたちにお願いして回ったんだ。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
大きな衝撃音。
――来たな。
その場の全員が音の鳴った方へ向く。
そして次の瞬間、バタバタバタと、ゾンビ関羽たちが倒れだす。
「何が起きている?」
そう言って、劉備が俺の方を不安げに見てきた。こっちじゃなくて、あっちを見て、と俺が言うと、音の鳴った方から、また一人、関羽が現れた。青龍偃月刀を固く握って。
味方の心配をする偽関羽こと張曼成(成田)が声をかける。
「おお、ゾンビ関羽、あっちで何があった?程遠志、いや、遠藤はどうした?」
「……ん?」
「どした関羽?」
次の瞬間、青龍偃月刀を振り下ろし、張曼成の首が飛んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
直属の先輩の首が飛んで、偽張飛・菅亥(菅井)が絶叫する。
「黄巾の下郎が。気安く俺を呼ぶな」
――間違いない。
――この人が。
――本物の関羽だ。
関羽降臨!!次回もお楽しみに!
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