闇夜の桃園結義
周倉がいないけど、桃園の誓いは始まってしまうのか!
――瑛冶はまだか。
劉備は妙な胸騒ぎがしていた。
関羽と張飛。
瑛冶(周倉)が言っていた、一騎当千の二人。
聞いていたよりも、いくぶんか傲慢に見える。瑛冶が望むから義兄弟になることにしたが、本能的に苦手意識を覚える。
「さぁ、桃園の誓いをしましょう」
関羽はそう言うと、桃園の真ん中に無造作に敷かれた、絨毯の上の盃を手に取った。横には酒も置いてある。
「ん?盃に酒。すでに用意していたなら、なぜ周倉に頼んだのです?」
「酒はいくらあってもいいからですよ、はっはっはっ」
張飛が豪快に笑った。それにしてもだ。
「さ、誓いを」
「待て待て。周倉を待とう」
「あいつが来たらあいつも混ぜてまた誓えばいい」
「二度手間じゃないか!」
「誓いは何回やってもいいもんだぜ劉備殿~?」
珍回答に困惑しながらも、劉備はしぶしぶ盃を取った。
「では、誰が兄で、誰が弟になる?」
「それはもちろん、劉備殿が兄者、張飛が弟です」
関羽が当たり前でしょ、という風に返答した。
「いいのか?」
「それが劉備三兄弟ですから」
「劉備三兄弟?」
「いいからいいから、それじゃ行くぜ兄者、劉備殿!?」
張飛が盃を手に取り、夜の桃園で、契りの口上を高らかに謳った。
「俺たち三兄弟、生まれた日は違えども、死ぬときゃ、揃って同じ年、同じ月、同じ日であることを、この桃園に願うぜ!」
「乾杯!」
カーン。
酒を飲み干す。
ごくっ、ごくっ、ぷはぁ。
「いやぁ~、せっかくだからやってみたかったんだよなぁこれ」
張飛が興奮気味に言った。関羽が、俺たちイケてたな、と自画自賛している。
劉備はというと、酒で火照った身体、ぼーっとする頭を集中させていた。
「劉備殿?」
関羽が様子をうかがう。
「……ペルソナ!!!!!」
叫ぶ劉備。
「ん?」
「ペルソナ!!!!!!!!!!」
「ん?どうした劉備殿?」
「おかしいな、貴方たちと義兄弟になったら、ペルソナに目覚めると周倉が言っていたのに」
「ペルソナ?」
「はい、ペルソナです。ペルソナァアアアアアアアアアア!!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「……なんでだろ?ちなみにあなたたち、いま何か目覚めました?なんか天啓のような?」
「ハハハハハハハハハハ!!!」
「アッハッハッハッハッハッハッハッ!」
「え?そんなに面白かったですか?」
「やっぱあいつ、うちの社員だったか」
「え?」
「そりゃそーっすよ。普通に考えたら関羽と張飛以外に義兄弟がいるわけねえっすもん」
「……あなたたち、関羽殿と張飛殿ではないな?」
「そりゃもちろん♪俺は、菅井順平。≪バンクォー≫の経理部主任。転生して、今は菅亥だ」
偽張飛の菅亥は、そう言うと決め顔をした。
プチェン
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菅亥
『三国志演義』に登場する黄巾党頭目の1人。
初平2年(192年)頃、黄巾賊討伐のために進軍してきた北海の雄・孔融を、三万の大軍で逆に包囲した。のちの呉の勇将・太史慈が孔融を支援したため、彼の武勇と策略により、救援に現れた劉備軍の猛者・関羽と一騎討ちを繰り広げる羽目になる。関羽相手に善戦したことでも知られる、無名の豪傑。
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そしてこれが菅亥のステータスだ、と菅亥がステータスを表示した。
『菅亥』(所属:黄巾賊)
ペルソナ:『拳骨カンケル』
Lv.5
HP;5000
装備品:棍棒
攻撃力:80
防御力:61
機動力:71
神通力:12
成長速度:D
「黄巾賊だったのか!」
「そゆこと。俺は同じく≪バンクォー≫経理部一課長、成田昇。こっちでは黄巾賊の張曼成だ」
偽関羽の張曼成は、高圧的に名乗りを上げた。
プチェン
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張曼成
『三国志演義』に登場する黄巾党頭目の1人。
張角に呼応した黄巾軍の指導者のひとりで、
184年、南陽郡で民衆を集め挙兵すると、南陽の太守を虐殺し、神より上の存在、「神上使」を自称した。
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菅亥と同様、張曼成がステータスを表示した。
『張曼成』(所属:黄巾賊)
ペルソナ:『スペグーロの写し鏡』
Lv.7
HP;2500
装備品:矛
攻撃力:65
防御力:71
機動力:69
神通力:78
成長速度:C
「どうだ俺たちのステータスは!?」
「……ステータス?」
「……ん?」
「……成田一課長、この感じ、もしかすると、トリレガのNPCにはステータス見えてないかもです」
「んだよそれ!見せ損かよ!」
偽関羽の成田と偽張飛の菅井がやんややんや言っているが、劉備は依然として警戒態勢をとっていた。
「なぜあなた達は、関羽と張飛の名を騙った!?」
「うちの社員は皆三国志好きだからだよ」
偽関羽が、長く美しい髯を撫でながら微笑んだ。
偽関羽と偽張飛!どうしてこうなった!なぜ二人は関羽と張飛を騙ったのか!
続きは次回!