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♯ 12

 女子が部室に入ってくると、それぞれ部室の両端に置かれたテーブルの周りに集まり、開封をする事になった。

 もちろん、女子は男子の、男子は女子のを、だ。

 店で買って来たものばかりの男子の包みでも、女子たちはそれなりに声を上げながら、これは高いとか、これはどこそこ店のものだとか、きっとこれは誰誰が用意したものなのではないかとか、楽しげに開封していた。

 一方男子の方は……。

「これ、どないして開けんねん?」

 蒼汰が小さなミニブーケのついた包みを手に首を傾げる。

「こっちも、なかなか手ごわそうです」

 そういう情けない声を上げる一年の手にも、これまた凝りに凝ったラッピングの包み。

 そう、女子の大半は既製品ではなく、手作りのため、当然ラッピングも彼女たち自身でしたという事になる。つまりは素人が手をこまねいて、必死の思いで飾り立てたのものだから、形ばかりは綺麗でも、包みを開ける人の事までは考えが至らず、まるで知恵の輪の様な状態のものが少なくなかったのだ。

「そんなもの」

 破り捨てればいいじゃないか、という青の言葉がこの世に生まれる前に、スミレが釘を刺した。

「あ、ラッピングも審査対象にしてよね。皆の気持ちがこもってるんだから、乱暴に扱わないこと~」

 まるで遠距離射撃を受けたような気分だ。

 一瞬びくついて振り返ると、そこには再び殺気立ち始めた女子たちの眼差し。青は彼女たちを刺激しないように、自分でも理由のわからないうすら笑いを浮かべた。

 その時だった。

 前触れもなしにドアが開いたのは。

 みな、驚き注目する中、飛び込んできたのは三宮だ。

 扉が壁に打ちつけられ、部室内にかかっていたBGMの賑やかな音符のダンスを蹴散らさんばかりのけたたましい音を立てる。

「すまん。園田はいるか!?」

 開口一番そう言った三宮の目は少々充血していた。息を切らせて髪も乱れている。いつもはおっているジャケットもよれよれで、一目でなにか尋常ならざる状況に彼が置かれているのがわかった。

「ここに、いますけど?」

 っていうか、お前が来いって言ったんじゃないか。

 と青は毒つきながら手を上げる。

 三宮は言葉なのかため息なのかわからない事を口にしながら駆け寄ると、青の腕をぐいと掴んだ。

「ちょっと、園田を借りる。皆はそのまま楽しんでくれ」

「はぁ?」

 本人には了承確認なしか!?

 青の眉が寄せられる。女子たちの非難の目も三宮に集桔した。

 中でも、スミレは顔をきっと上げ、教授のその横顔を睨みつけている。

 自分に協力するために、自分にチャンスをやるためにこの企画を立ててくれたのではなかったのか? 契約不履行を突き付けられたような理不尽さに、スミレは一歩前に出た。


 あの日、教授に相談した日、教授はスミレ、桃、紅にこの企画を提案した。

 始めはまどろっこしい気もしたが、万が一クイーンやキングに選ばれなくても、皆が騒いでいるその浮足立った空気にまぎれて渡せるんじゃないか、そう思い企画に乗った。

 とはいえ、料理にかけては自信がないわけでもない。伊達に青に気に入られようと磨いた腕ではないのだ。今なら大抵の料理はレシピを必要とせずに作る事が出来る。今日昨日の付け焼刃の連中に負けるとも思わなかったし、また、あの青がそこら辺の男子と同じようなセンスでチョコレートを用意するとも思えなかった。

 勝機は十分にあるように思えた。

 桃や紅先輩には申し訳ないが。

 そして、さらにその先を想像した。

 もし、一日でも青とまた恋人気分を堂々と味わえるのなら……と。

 青と腕を組める。いや、それどころか、あんなに遠く届かなかったキスですら、できるかもしれない。そう思うだけで、鼓動は高鳴った。もちろん、春日の事は好きだ。男らしくて以外に頭もいい。

 でも、とスミレは自分の彼氏の方を見る。

 ちょうど青の真後ろにいた。

 彼はもどかしい、いや、じれったい、いいや、腹が立つほど奥手なのだ。こっちがいくら挑発しようと、誘うおうと、一行に何かしようとする気配がない。一度堪忍袋の緒が切れ、自分から押し倒してやろうとまで思ったが、その前に彼が俯いて逃げ去ってしまった。

 正直、付き合ってまだ数か月だが、もう、物足りなさを感じ始めていた。

 に、比べて青はどうだった?

 付き合ってはいなかった。でも、楽しかった。恋をしていた。

 もう一度でいい……あのときめきを感じてみたい。そう思ってしまうのは、きっと、自分の気持ちが浮ついているせいだけじゃない。ねぇ、そうでしょ?

 スミレは目が合いかけた春日から視線をそらすと、再び三宮の方を見た。

「先生。どういう事ですか?」

「あ、いや。どうしても急用ができてな」

「でも、困ります!」

 後ろから声がした。桃も抗議に加わっているようだ。それはそうだろう。彼女も青狙いなのはスミレも知っている。

 三宮は弱ったように髭をひとなでするも、青の腕を離す気はないらしく、頭を下げると

「用事がすんだらすぐに返すから。な、本当に、すまん。園田、行くぞ!」

 早口でそれだけ言って出て行ってしまった。

 勢いよく開いた扉はまた、勢いよく閉められる。部室内は突風が人を一人さらって行った様な展開にしばし静かになった。

「ま、しゃ~ないやん。続けよ」

 声がその空気を断ち切るように響く。蒼汰だ。彼は包みを一つ持ったまま苦笑いで女子の方に声をかける。

「まぁ、王子様がいなくなって残念かもしれへんけど、ここには俺達もおるんやし、そうあからさまにガッカリされても立場ないんやんか。幸いすぐに帰ってくるみたいやし? 先に投票しとこうや」

「そうですけど……」

 スミレは唇を尖らせる。

 確かに、もうプレゼントはそろっているし、とりあえずの問題はない。でも、なんだか納得いかないというか、肩すかしをくらった気分は否めなかった。「ほら、皆も続けた続けた」蒼汰のけしかける声に再びざわつきの中へ、皆が戻っていく。

 それでも、スミレと桃だけは扉を見つめたままだった。

「青君、すぐに帰ってくるかなぁ」

 心配げな声に

「たぶんね。どうしたのかな?」

 のんきな藍の声がする。

 スミレは彼女たちの声もまたざわめきの中に戻っていくのを聞きながら、自分がどれほど青にチョコレートを渡したかったのか、その気持ちの強さに自分自身で驚いていた。

 これは、ケチを付けられたという程度のものじゃない。

 本当に、寂しいし、悔しい。

「芦屋さん」

 ふわっと耳をくすぐる風の様な囁きが聞こえて、スミレはようやく振り返った。

 見ると、紅が静かに微笑みこちらをみていた。

 触れているのかいないのか、わからないほど柔らかくスミレの背に彼女は手を添えると、その泣きボクロが印象的な瞳を細めた。

「先輩」

 不思議と力が抜け、弱気な顔になってしまう。

 一緒に部活をした事はない。話しに聞いた事があるだけの3つ上の先輩だ。あの、伝説の部長、神崎川の彼女って言う事も知っているし、今、妊娠中だとも知っている。英文科で部では役者をやっていた。意外に知っている事は多いけど、どうして彼女がこの会に参加し、どういう思いなのかはわからなかった。

 紅はまるで駄々っ子の頭を撫でるような優しい声で「大丈夫」と呟くと、スミレの背中を皆の方へそっと押した。

 その、なんの強制力も感じない手に逆らえず、スミレは皆の中に戻される。

 同級生が「ショックだよね~」と声をかけてくる中、スミレはぼんやり頷いた。顔を上げて見る。紅と目が合う。彼女はただ、黙って頷いた。

 頬に熱を感じた。

 初めて、周囲を顧みず感情を爆発させてしまう自分が少し恥ずかしくなった。

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