表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

07.ヤキモチ

お友達はたぶん170センチぐらい。

黒髪センター分けで、くったりとした目をしている。

ゆるそうな感じの人だ。

この人も僕や永良(ながら)と同い年なのかな?


「ダメだ。お前はすっこんで――」

「マジモンのシンデレラストーリー? 王子様のお眼鏡にかなっちゃった感じ?? あっ、それとも~」


返答の余地すら与えてもらえない。

まさにマシンガントーク。

眩暈を覚えた。物凄く疲れる。


「リズ、まずは自己紹介からだろ」

「ああ、そうだね! ごめん、ごめん♪ ガキヤリズム。我、喜ぶ住まいと書いて我喜屋(がきや)。美しい音と書いてリズムです! 因みに俺も中3。15だからタメ語でOKよん☆」

我喜屋(がきや) 美音(りずむ)君? 同い年?」

「そうそう! よろしくね〜♡♡♡」


強引に手を取られて強制握手。

物凄くマイペース。案の定、苦手なタイプの人だった。

この人とはあまり関わり合いたくないな。


「へぇ? 厳巳(いずみ)君って、顔だけじゃなくて手も綺麗なんだね」

「?」


我喜屋君はついでとばかりに僕の手を観察し出した。

綺麗? 何の変哲もないフツーの手だと思うけど。


「んっ」

「っ!」


ヤバ。指先で擽られて、思わず変な声が出ちゃった。

慌てて口元を覆うけど、手遅れだった。

我喜屋君が嗤ってる。ニチャアとしたやらしい顔で。


「えっろ」

「リズッ!! いい加減にしろッ!!」


永良が僕と我喜屋君を引き離してくれる。

助かった。ほっと息を吐きながら、ポケットに両手を隠す。


「たはぁ〜! メンゴメンゴ♡」

「〜〜っ、大体お前な」


永良のお小言が続く。

今回に限らず、過去のやらかしにまで言及し出した。

どうやら彼らは、中学でも、スクールでも、プライベートでも一緒に過ごしているらしい。


……なら、後にしてくれないかな。

僕とは大会の時にしか会えないんだから。

きゅっと唇を引き結んで、顔を俯かせる。


「はぁ〜……この前のジャパンオープンで色々あったんだよ」


不貞腐れたように永良が語り出した。

お小言タイムは済んだみたいだ。

目が死にかけていた我喜屋君が、ぱっと息を吹き返す。


「へぇ!? でっ? でっ?」

「だから、色々だって……」


詳しく話す気はないみたいだ。

僕に配慮してのことなのかな。

ありがたいけど、でも……僕はどうにも知って欲しくて。


「永良が約束してくれたんだ。僕を負かすって」


出来るだけ自然にさらりと明かした。

悪戯を仕掛けた時のことを思い出す。

何だかドキドキするな。


「ばっ、バカッ!!」

「~~っ♪」


永良は慌てて周囲に目を向けた。

……何それ。

君にはガッカリだ。

その程度の気持ちだったの?

見ず知らずの人に睨まれたり、嗤われたりするだけで揺らいでしまうような。


「……本気じゃなかったんだ」

「違っ……けど……」

「けど、何?」

「うっ……」


永良がどんどん困り顔になっていく。

一方で、僕はどんどんイライラを募らせていった。

『やっぱ無理だ』って、そう言われているような気がして。


「……うそつき」

「っ! いっ、厳巳――」

「もういいよ。バイバイ」


背を向けて歩き出す。

足取りは重い。

……永良のバカ。


「〜〜っ!!!!! あ゛〜あっ! そうだよ!! 俺が厳巳を負かすんだッ!!!」


甲高くて、ちょっと掠れたような声が響き渡る。永良だ。

彼の声を阻むものは何もなかった。

ちょうど選手が入れ替わるタイミングで、BGMもピタリと止んでいた。


「「「…………」」」


会場中がしんとした静寂に包まれる。

けど、その静寂は直ぐに破られて。


「マジか……」

「アイツ誰?」

「あんまイジってやんなよ。かわいそーじゃん」


会場中がざわめき出した。

好奇3割、嘲笑7割ってところか。


永良の顔がみるみる内に青褪めていく。

だけど、ぎっと歯を食いしばって。


「かっ、覚悟しとけよ! 厳巳!!!」


この前みたいにガクブルしながら宣言してきた。

形はどうあれ、これはもう紛れもない『宣戦布告』。

ここにいる4000人近い人々がその証人だ。

もう逃げられないね、永良。

計画通り(大嘘)


ふふん♪と鼻を鳴らすと、永良がガウッと吠えてきた。

君、ほんとチワワみたいだよね。


「ありがと、永良。楽しみにしてるよ」


背を向けて歩き出す。

足取りは軽い。

鼻歌の一つでも披露したい気分だ。


「へえ~? いずみんって、笑うと結構可愛いんだね」

「………………………知るかボケ」

「はっはっはっは!! もう〜〜! 素直じゃないんだから〜♡♡」


どうやら僕はまた笑っていたらしい。

君以外の人に笑顔を見せてしまったのは、何だか癪だけど……まぁ、こういうのも悪くないかなとも思う。


「厳巳!! とっとと降りて来い!! 棄権する気か!!」


コーチだ。プールサイドから僕のことを呼んでいる。

僕は右手で応えつつ、バックヤードを目指して駆けていく。

今度は僕の番だ。見ててね、永良。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ