表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

19.純情派主人公な君と共に

「なっ、何だよ?」


「ねえ、永良(ながら)


 掴んだ永良の手を一層強く握り締める。


「い゛っ!? ~~っ、この『のっぺりゴリラ』が――」


「もう逃がさないからね」


「………………はっ? ……~~っ」


 脈が速くなったような気がした。「バカ!」が飛び出る3秒前、かな?


「今度こそ僕と馴れ合――」


「~~っ、くそがッ!」


「っ!?」


 永良は僕に腕を掴まれたまま後退した。そのまま彼の背中はクリーム色の壁へ。


「ぐっ! ……なっ、何?」


 僕は壁に手をついた。両手だ。永良は僕の腕の間に。所謂『壁ドン』っぽい体勢になる。何で? 何がしたいの?


「う゛っ」


 永良がネクタイを掴んだ。上体が下がる。おでこを重ねようとしているのかな? 近距離で睨みつけるために。


「っ! んっ……」


 ……あれ?


 おでこじゃない。


 唇だ。唇が重なってる。やわらかくて、温かくて、心臓が凄くうるさくて。


「分かっただろ? 俺はお前のダチにはなれねえんだよ」


 手は自然と自分の唇に伸びた。まだ残ってる。永良の唇の感触が。


「……好きだから?」


「…………………言わせんな、バカ」


「ふふっ、そっか」


 笑ってしまうぐらいあっさりと()に落ちてしまった。点と点が繋がり合っていく。


「全部が、全部、僕のことが好きだったから……なんだね?」


 『ざまあ執行人』を引き受けてくれたのも、血の滲むような努力を重ねてくれたのも、頑なに僕との馴れ合いを拒み続けてきたのも――。


「もしかして、7つの頃から?」


「…………………」


 永良はばつが悪そうに目を逸らした。図星みたいだ。


「すんごい純情」


「~~っ、悪かったな」


「なるほどね。僕はそうとも知らずに君を煽り散らかしてたってわけだ」


 バックハグしたり、押し倒したり、甘えたり……心底浮かれまくってた。我ながら酷いなと思う。


「これはもう『ざまあ』されて(しか)るべきだよね」


「……は?」


 言葉の意味を咀嚼(そしゃく)しきれていないみたいだ。目が点になってる。それだけ永良にとってみれば予想外なことなんだろう。そう思うと胸の奥がむず(がゆ)くて。


「その『ざまあ』も僕に頂戴」


 調子に乗って小首を傾げてみた。そうしたら永良がわなわなと震え出して。


「お前な意味分かってて言ってンのか……?」


「そうだね。『ざまあ』だから、『わからせ』になるのかな?」


「~~っ、ンな趣味はねえよ」


「……本当に? 好きにしていいんだよ?」


 顔と体を寄せてみる。直後、永良の体が大きく跳ねた。顔もどんどん赤くなっていく。


 面白いぐらいにハッキリと唾を飲んだのが分かった。ゴクリと。大きな音が立つぐらいに。こういうの生唾を飲むって言うんだっけ?


「嘘つき」


「~~っ、俺は純情派だ!」


「はいはい」


 予想外ではあったけど、こんな関係も悪くないと思えた。


 君と一緒にいられるのなら正直なところ何でもいい。そう――何でもいいんだ。だから今、僕はここにいる。


「じゃあ、僕はこれで帰るね」


「見学は?」


「やることがあるから」


 今の僕の周りは物凄く騒がしい。お叱りを受けるのは間違いないだろう。


 だけど、もう僕は決めたから。悪いけどこのワガママは通させてもらう。


「……………せめて、これはちゃんと持って帰れ」


 永良は僕の手を取るとメダルを握らせた。優しく包み込むように。


「ありがとね。受け止めてくれて」


「……もう二度とすんなよ」


「君次第だよ。『100年に1人の逸材さん』」


「~~っ、はいはいはいはい」


「それと、『純情派な永良君』」


「ぐっ!? テメエ……」


「ふふっ、じゃあまたね」


 僕はみんなに挨拶をして外へ。その足で『アクアクラウン』、所属しているスクールに向かった。終わりと始まりの話しをするために。



 僕の引退騒動は大きな波紋を呼びながらも、想定よりも早く終息した。これも(ひとえ)的場(まとば)コーチ、須階(すがい)コーチのお陰だ。


 引退会見の折、僕の言葉が足らない部分を的確にフォローしてくれた。感謝してもしきれない。


「やるからには天辺取れよ」


「はい。お世話になりました」


 僕は的場コーチに頭を下げて長年所属した『アクアクラウン』を後にした。





 それから数年後。競泳の厳巳(いずみ) (ごう)は過去のものに。僕は飛込の厳巳 豪として飛込界を牽引していた。自他ともに認める永遠のライバル・永良(ながら) 悟行(さとゆき)と共に。




Fin

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ