↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/20

13.伏線

『今年の全日本は五輪への切符がかかった大一番です!』

『ええ! そのため会場の熱気も例年以上! 選手ではない私自身もとても緊張しております!!』


お化粧バリバリの女子アナさんと、やたらと暑苦しい感じの男のスポーツキャスターさんが、きゃっきゃと楽しげに盛り上がっている。


場所はプールサイド。

ウォーミングアップをしている選手達を背景に、競技の説明や取材に対する意気込みを語っていた。


予選はネット配信。

本戦は地上波で放送するらしい。

ちょっと鬱陶しいけど、まぁ仕方がないね。


僕は白いジャージを羽織りながら、黒いスイミングキャップを外した。

下は……このままでいいや。

ジャージ+水着姿のままプールサイドを歩いていく。


結局悩んだ末に、永良(ながら)にあの交渉を持ちかけてみることにした。

どっちみちこのまま黙っていたって、決裂したって結果は同じ。

『永良が主人公を続けて、僕と距離を置き続けるルート』で三年~二十年近く過ごすことになるんだ。


だったら一度ぐらい色気を出したっていいじゃないかと、そう思い至った次第だ。


勿論今すぐに話すわけじゃない。予定通り大会終わりに。

今は軽く……そう。ウ(・)ォ(・)ー(・)ミ(・)ン(・)グ(・)ア(・)ッ(・)プ(・)ト(・)ー(・)ク(・)をするために永良を探している。

前回はちょっと喧嘩別れ?みたいな感じになっちゃったから。


「いたいた」


永良だ。大学生や社会人も一緒の大会ということもあって、小柄で童顔な彼はとてもよく目立つ。


そんな彼もまたジャージ+水着姿で立っていた。

ショート丈(太腿にかかるぐらい)のものを選ぶあたりが、何とも彼らしいなと思う。


「……ん? あれ? 何見てんだろ?」


永良の目はダイビングプールの方に向いていた。

そっちではブーメラン型の水着姿の人達が軽やかに宙を舞っている。


確か一番高いところで10メートル。

電柱とかと同じぐらいの高さがあるんだよね。


そんなところから飛び降りるだけでも凄いのに、二回も三回も宙返りをした上で、水しぶきが立たないように入水するんでしょ?


とても人間技とは思えない。

あの競技を極めた人の背中には、マジモンの翼が宿るのかもしれない。


「よくやった! バッチリ刺さってたぜ!」


タブレットを手にしたジャージ姿の男の人が選手を褒めてる。

十中八九、コーチだろう。


糸目のゴリマッチョ。凄く爽やかで温かい感じの人だ。

いいな。僕もあんなコーチが良かった。


「っ!」


見過ぎたのかな。

ゴリさんがメッチャいい笑顔で手を振ってきた。

どうしよう。応えた方が良いのかな。


……なんて内心でみっともなく焦っていたら、永良がすっと頭を下げた。

それを受けてゴリさんが一層爽やかに笑う。

どうやら僕じゃなくて、永良に手を振っていたみたいだ。


「あのコーチと知り合いなの?」

「うぉおぉ!!? ビックリした!!! 声ぐらいかけろよ……っ」

「ごめん。で、どうなの?」

「……知らね。誰かと間違えたんじゃねえの?」

「なら無視すればいいじゃない」

「バカ。そんなん……ワリィだろうが」


まったく……。

君って妙なところで気を遣うよね。

まぁ、そういうところも嫌いじゃないんだけど。


……っていうか永良、普通に話してくれてる。

僕も何やかんやで普通に話せてるし……うん。

これなら問題なく僕の気持ちを伝えることが出来そうだ。

良かった。良かった。


「つかお前何しに来たんだよ」

「え? えっと……約束覚えてるかなって」

「ああ。今日はちゃんと最後まで付き合う」

「ならいいよ。それじゃ」

「は? それだけ?」

「うん。それだけ」


永良はかなり驚いたような表情を浮かべた後で、どこか不貞腐れたような声で「そうかよ」と言った。


僕にはその意図が分からなくて問いかけようとした。

けど、永良はそんな隙すら与えずに「じゃあな」と言ってすたすたと去って行ってしまう。


まぁ、最後は何か微妙な感じになっちゃったけどウォーミングアップトークとしてはまずまずだったよね。

僕はそう無理矢理区切りを付けてレースの準備を進めていった。


――その後、大会は滞りなく進行。

永良は惜しくも予選敗退、僕は優勝して五輪への切符を手にしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。