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13/20

13.擽り合うようにして君と話をして

『今年の全日本は、五輪への切符がかかった大一番です!』

『ええ! そのため、会場の熱気も例年以上! 選手ではない私自身も、とても緊張しております!!』


お化粧バリバリの女子アナさんと、やたらと暑苦しい感じの男のスポーツキャスターさんが、きゃっきゃと盛り上がっている。


場所はプールサイド。

ウォーミングアップをしている選手達を背景に、競技の説明や取材に対する意気込みを語っていた。


予選はネット配信。

本戦は地上波で放送するらしい。

ちょっと鬱陶しいけど、まぁ仕方がない。


僕は白いジャージを羽織りながら、黒いスイミングキャップを外した。

下は……このままでいいや。

ジャージ+水着姿のままプールサイドを歩いていく。


「いたいた」


永良(ながら)だ。

大学生や社会人も一緒の大会ということもあって、小柄で童顔な彼はとてもよく目立つ。


そんな彼もまた水着姿で立っていた。

ショート丈(太腿にかかるぐらい)を選ぶあたりが、何とも彼らしいなと思う。


「……ん? 何見てんだろ?」


永良の目は、ダイビングプールの方を向いていた。

そっちではブーメラン型の水着姿の人達が、軽やかに宙を舞っている。

確か……一番高いところで10メートル。

電柱とか、バスと同じぐらいの高さなんだよね。


そんなところから飛び降りるだけでも凄いのに、二回も三回も宙返りした上で、水しぶきが立たないように入水するんでしょ?


あの競技を極めた人の背中には、マジモンの翼が宿るのかもしれない。


「よくやった! バッチリ刺さってたぜ!」


タブレットを手にしたジャージ姿の男の人が、選手を褒めている。

十中八九、コーチだろう。


糸目のゴリマッチョ。凄く爽やかで、温かい感じの人だ。

いいな。僕もあんなコーチが良かった。


「っ!」


見過ぎたのかな。

メッチャいい笑顔で手を振ってきた。

どうしよう。応えた方が良いのかな。


……なんて、内心でみっともなく焦っていたら、永良がすっと頭を下げた。

それを受けて、ゴリさんが一層爽やかに笑う。

どうやら、僕じゃなくて永良に手を振っていたみたいだ。


「あのコーチと知り合いなの?」

「うぉおぉ!!? ビックリした!!! 声ぐらいかけろよ……っ」

「ごめん。で、どうなの?」

「……知らね。誰かと間違えたんじゃねえの?」

「なら、無視すればいーじゃない」

「バカ。そんなん……ワリィだろうが」


まったく……。

君って妙なところで気を遣うよね。

まぁ、そういうところも嫌いじゃないけど。


「ねえ。約束、ちゃんと覚えてるよね?」

「ああ。今日はちゃんと最後まで付き合う」

「なら、よし。それじゃね」

「は? それだけ……?」

「悪い?」


永良が呆れ混じりに笑った。

僕にはそれが何だか擽ったくて、心地よくって。


「……っ、厳巳(いずみ)


呼び止められた!

バッと振り返ると、永良は怯んだように息を呑んで――ふるふると首を左右に振った。


「……悪い。何でもねえ」

「寂しくなっちゃった?」

「~~っ、んなわけあるか!!!!!!」

「二人で抜けちゃおっか?」

「ざけんなっ!! 誰のために練習して来たと思ってんだよ」


頬が緩む。

思わず「ふはっ」と笑ってしまった。


「んの野郎っ! 笑ってんじゃね――」

「ありがとう。凄く嬉しい」

「……っ」


永良は次の瞬間、バッと勢いよく顔を俯かせた。

……何だか物凄く良い予感がする。

僕はその予感のなすままに、さっとしゃがみ込んで永良の顔を覗き込む。


「わぉ……」


顔、真っ赤だ。トマトみたい。


「おわっ!? 見てんじゃねえよ、このバカ!」

「ヤダよ。それも僕のでしょ?」

「~~っ!!? 自惚れてんじゃねえよ、このバカ!!」


今にも泣き出しそうだ。

たぶん、僕のため……なんて言うつもりはなかったんだろうな。


あともう少しだけパニくる君を愛でたいところではあるけど、いじけられても困るしな。

うん。ここまでにしておこう。


「本当にありがとう。それじゃ、またね」

「……何なんだよ、ったく……」


背を向けてその場を後にする。

振り返りたい気持ちをぐっと抑え込みながら。


――その後、大会は滞りなく進んだ。

永良は惜しくも予選敗退。

僕は優勝して、五輪への切符を手にした。




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