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10.君を脱オタさせるには?

永良(ながら)! 待って!!」

「っ!!? 付いてくんな、バカ!!」


桜もみじが散る中を駆けていく。

幸いなことに、人の姿はもう疎らだった。

だけど、僕の心の中は色んな感情でもみくちゃになっている。


主人公だから僕とは馴れ合わない?

それってつまり、君がざまあを達成しても現役の間は仲良くしないってこと?

どっちかが引退するまで仲良くしないってこと?


そんなのイヤだ。待てない。

そんなんだったら、もうざまあなんていらない。


「……あ。でも……」


契約を解除したところで、問題解決には至らない気がする。


彼は僕の『強火オタク』だ。

オリジナルの僕を取り戻すって名目で……ようは、オタ魂に火を付けることで、何とかライバルにはなれているけど、親友にはなれないのかも。


あの『馴れ合いNG宣言』から察するに、オタクとしての彼のモットーの中に、『推しである僕と私的な関係になるのはNG』みたいなものがあるのかもしれない。


「なら、僕が引退したら? ……いや、スイマーじゃなくなったら、僕にはもう興味はないのか」


難儀だ。永良を脱オタさせて、親友になるにはどうしたらいいんだろう?


「うおおぉぉおおおお!!!!」

「えっ……?」


永良が加速し出した。

速い。みるみるうちに離れていく。

全速力で駆けてみても、まるで距離が縮まらない。


「永良!!!」

『ドアが閉まります。ご注意ください』


永良は電車の中に駆け込んだ。

僕が階段を降り切るのと同時に、電車の扉が閉まる。

間に合わなかった。


永良は車内でこっちに背中を向けた状態で、咳込んでいる。

表情は見て取れない。


彼の背中が遠ざかっていく。

ホームには、荒く息をつく僕だけが残された。


「ハァ……っ、ハァ……まぁ、……あの脚力だもんね。速くて、当然か……」


あの分だと、100メートル12秒……下手したら、11秒台もありそうだ。

陸上に行っていたら、間違いなくスター選手になっていただろう。

ってか、あのレベルならスカウトが来ていない方がおかしい。


もしかして……蹴ってたのかな?

僕のことが心配で。


自惚れが過ぎる。そう思いつつも可能性は捨てきれない。

永良はそれだけ僕に対して熱心で、必死だから。


「……そうだ」


君の目的は僕を初心に帰すこと。

タイムに貪欲な僕を取り戻すことだったね。


なら、最速を目指すのはどうだろう?


最速を目指して必死に泳ぐ。

そんな僕の姿を見たら、君はギラギラな僕を取り戻せたって思ってくれる?


決して破られることのないような、絶対的な記録を叩き出すことが出来たのなら、君は次の推しを求めないでくれる?


それで……引退後も僕だけに目を向けてくれて、ゆっくりと時間をかけたら親友になってくれるのかな?


「なら、僕の希望も叶う。まるっと解決なんだけどな」


何て呟いた後で、思わずふっと笑ってしまった。

趣旨、思いっきり変わっちゃったな。


元はギラギラな僕を取り戻すために、永良に協力を申し込んでいたのに、今では永良の親友ポジを得るために、ギラギラな僕になろうとしている。

見事なまでに、目的と手段が逆転しちゃった。


滑稽極まりないけど、僕は大マジだ。


「乗り込んでみるか」


幸いなことに、永良の所属は公表されてる。

その所在地も把握済みだ。

まずは、クラブの方に行ってみようかな。

明日の学校帰りにでも。


「逃がさないよ、永良」


何かヤンホモみたい。

内心でノリツッコミしつつ、僕は笑った。


誰もいない地下鉄のホーム。

ひんやりとした外気が、今の僕にはとても心地良かった。




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