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01.ざまあを夢見て

 最初の内は僕もギラギラしてた。コンマ一秒でも速くなりたい。日本一、世界一のスイマーになりたいって――そう思ってた。


 夢いっぱい。楽しさいっぱい。すごく充実してた。


 この競泳人生は、Easyモードなんじゃないか。そんな漠然とした疑念を抱くまでは。


 真っ赤な難易度選択画面で僕の手はぴたりと止まった。コントローラーを持つ手から力が抜けていく。


 ふと視線を逸らせば光が、カーテンから朝日が差し込んでいるのが見えた。開けるのも面倒だ。直ぐに夜になるし――なんて思ってたら控えめにノックされた。


(ごう)。練習に行かなくていいの?」


 母さんだ。心配そうに。酷く言いにくそうに訊ねてきた。


 凄くもやもやする。全部ぶちまけてしまいたい。でも、出来ない。諦めてしまっているから。どうせ理解してもらえない、なんてみっともなく不貞腐れて。


「いいよ。別に出ても、出なくても変わらないから」


「そんなこと……」


「大丈夫だから。心配しないで」


 煩わし気に返すと、母さんの足音が遠ざかって行った。ほっと息をついてコントローラーを持ち直す。選択したのはVery Hardだ。


「あ~あっ」


 開始後間もなくゾンビに食われた。真っ赤になった画面の向こうでゾンビ達が嗤ってる。


「あんなん無理だって」


 コントローラーを放り投げて後ろに倒れ込む。空気が抜ける音と共に僕の体はしっとりとしたものに包まれた。


 座面だ。革製のソファに、肩から上だけが乗ったような体勢になってる。流石にこれはちょっと苦しい。


「もういいや」


 テレビを消してソファに寝転がる。そのままスマホを手に取って漫画を読み始めた。


 ()()()()()()を読む度いつも思う。こんなふうに素直にイキれたり、褒めてくれる人達を(いたずら)に羨んだりしなければ、もっと楽に生きることが出来たんだろうなって。


「いや、違うな。僕は『ざまあ』される側か」


 ヘイト要員達がきちんと報い(=ざまあ)を受けるのもこの手の作品の醍醐味だ。


「……そっか。『ざまあ』……か」


 妄想が膨らむ。


 主人公が天狗になっている僕を完膚なきまでに叩きのめす。無様に膝をつく僕を見てみんなが嗤う。そんな中で、僕は再起を目指して彼を追うんだ。それこそ必死になって。なりふり構わず。


 それでも僕は彼を超せない。そんな僕を見てみんなが一層嗤う。


 もしかしたら、彼も嗤うかもしれない。でも、それでもいい。欲を言えば彼のライバルに。何かしらな形で意識を向けてくれたら嬉しいけど。


「ははっ、なんてね」


 スマホを伏せて、ぼんやりと天井を見上げる。


 明日はジャパンオープン。五輪のメダリスト達に混ざって泳ぐ日だ。何かが変わることを夢見て、僕はそっと目を閉じた。




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