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第九話 休憩所

 玄奘には行く当てがあるのかすたすたと歩く。魔物の気配はない。魔物が出なくなった原因はわからないが、落ち首拾いが関係しているとみえた。


 落ち首拾いと他の魔物に前後を挟まれた場合は、かなり危険だ。されど、落ち首拾いが出ると他の魔物がしばらく出現しない、ないしは消えるのなら挟み撃ちにされる危険性はない。


 玄奘の移動した先には金属製の扉があった。扉には顔の付いた満月の絵が描かれている。何やら意味ありげだった。玄奘が巾着から銀貨を二枚取り出す。日本で通用している硬貨ではない。銀貨は長方形の一分銀に近い。銀貨に兎の絵が描かれている。


「大人二人分」と玄奘が扉に語り掛けると、満月の絵の口が開く。玄奘が絵の口に銀貨を二枚入れると、扉が開いた。扉の向こうは二十畳ほどの空間になっていた。中には木製のベンチが六席あった。


 直径一m、高さ五十cmの小さな噴水もある。噴水の下の地面には排水溝があり、噴水から溢れる水が流れてゆく。部屋の奥には扉があり『Resting Room』の表記がある。


 ダンジョン内に作られた休憩所だった。さすがはダンジョン、色々とある。

「ここは安全なんですか?」


 当然の疑問だった。実は罠で眠っていると毒ガスが噴き出してあの世行きのようなトラップを警戒した。


 玄奘は菅傘を脱いで、寛ごうとしていた。

「ダンジョンでは、何を信じて、何を信じないかは探索者の自由じゃ。だが、今のところは有料の休憩所は中に入れれば安全とされている」


 地下一階から外へ出るのは難しくはない。安全に休憩したいなら、外に出ればいい。なのに、こんな部屋を作っておくには理由があるはず。おそらくだが、ダンジョン内に安全地帯が存在する状況を暗示するためと思われた。


 ここより深い階では、避難してやり過ごす対応をしなければいけない状況があるんだろう。どこが安全なのかを教えるために、わざと地下一階に休憩室を置いていると見て良い。


 玄奘は噴水から湧き出る水も飲んでいた。噴水の水は飲めるのか? 一口掬ってみる。普通の冷たい水で気持ちがよい。


 昨日はこの部屋に入っていない。なら、ここで時間を潰せば、昨日の自分との遭遇はない。ベンチがあるので横になっても問題ないが、果たして見張りを立てずに寝てよいものか? 基本はダメだろう。魔物が襲ってこないだけで、探索者は別だ。


 嫌われ者と呼ばれるクランともあるので、寝ていたら財布を盗まれるくらいはあるかもしれない。などと考えているうちに、玄奘はベンチですやすやと寝ていた。見張りの交代とかは決めていない。


 これは寝ていいのか? 魔物が出るダンジョン内で寝るのには抵抗があった。軽く目を瞑り瞑想状態になっておく。扉が開いた時に対応できるように顔は正面をむいておいた。

「馬場くん、そろそろ行くぞ」


 玄奘の声で目を覚ました。時計を確認すると、二十時間近くが経過していた。眠っていたつもりはないが、いつの間にか時間が経っていた。時間の経過がおかしい。空腹も渇きも感じない。休憩所は時間の経過が普通とは異なる。


 準備をして休憩所を出る。前と変わらない通路が続いている。時間の流れからいえば、玄奘と馬場がダンジョン内に入った初日になる。玄奘と馬場が通ってきた通路はわかる。会おうと思えば、いるはずの自分に会える。ちょいと興味が湧く。


「ダンジョン内で過去の自分と会えばどうなるんですかね?」


 玄奘は興味を示さなかった。素っ気なく答える。

「さあのう。ダンジョンの外で過去の自分に会うと、非業の死と噂される。ダンジョン内で会う分にはわからぬ。じゃが、止めておいたほうがよいじゃろう。魔物と勘違いされると面倒じゃ」


 人に化ける魔物は珍しくない。特段に理由がないなら危険は避けたほうが賢明だ。外に戻るため、歩いて行く。向かいから、ふらふらと歩いて行く人陰があった。ランタンは持っていないので落ち首拾いではない。馬場は刀を抜こうとする。


「あれはなんていう魔物ですか?」


 玄奘は手で菅傘を軽く上げる。

「あれは人じゃな。探索者じゃろう。じゃが、探索者は無害と考えるのはちと人が良すぎるぞ」


 知性がある魔物に操られていたり、囮にされていたりする可能性はあった。また、探索者だから襲ってこないとも限らない。玄奘の判断が気になった。玄奘をちらりと見ると、逆に馬場の対応を尋ねられた。


「して、馬場くんならどうする?」

 試されている。間違えても玄奘は正解を教えてくれるので、正直に答えた。

「とりあえず、近寄って助けられそうなら、助けます」


 少々人が良い答えだが、見捨てるも、襲うも違う気がする。


 玄奘が人陰に近づいてくので、馬場も従った。相手は若い女性だった。厚手の服に、探索者用のポケットが多くついているベストを着ている。頭にはヘルメットをかぶり、赤外線感知ゴーグルを付けていた。


 武器は腰に銃とナイフを提げている。重武装ではないので、銃士や剣士タイプの探索者ではない。斥候タイプの探索者と見ていい。女性斥候がどさりと倒れた。


 慌てて近寄る真似を玄奘はしない。歩いて近づいていく。手の届く距離にきて、玄奘が声を掛けるが反応がない。どうやら、気力が尽きたらしい。玄奘が女性斥候の様子を見ているので、馬場は周囲を警戒した。


 女性が倒れた後ろの通路を何かがそっと近づいてきていた。姿ははっきり見えないが魔物だと確信した。魔物は女性探索者を狙い、弱るのを待っていた。

「魔物がこっちに来ています。どうしますか?」


 玄奘は女性斥候をひょいと担ぐ。どこにそんな力があるのかと思うが、先輩探索者なので驚きはない。このダンジョンに挑む以上は常人離れしていて当然だ。


「拙僧は先に外に出る。馬場くんに殿(しんがり)を任せる」


 玄奘は馬場の答えを聞く前にすたすたと小走りに去った。人を負ぶった状態で襲われたら危険だが、玄奘は馬場より強い。


 自信があるからこそ、玄奘は危険な役を買ってでた。馬場の体調は休憩を取ったので万全に近い。あと、一戦、二戦なら問題ないと玄奘は判断してくれた。先輩に任された以上は、結果を残さないとやってはいけない。もっとも、ここで負ければどのみち次がないのがダンジョンでもある。


 玄奘が走り出すと、魔物は忍び足を止めて足早に前進した。せっかく仕留める寸前までに弱った獲物を持っていかれるとあって、怒っていた。


 魔物の姿が見えた。相手は全長四mの巨大なトカゲだった。トカゲは赤と黒の斑模様であり、いかにも毒がありそうだった。女性斥候も毒にやられたと推測できる。できれば、遠距離から仕留めたい相手ではある。


 トカゲが大きく口を開いた。毒液を吐くかと警戒した。トカゲはそのままジャンプして噛みついてきた。動作の大きい攻撃で、馬場は軽く後ろに跳ぶ。


 トカゲの眉間に刀を振り下ろした。刀がトカゲの眉間にめり込んだ。骨の砕ける感覚はない。切れてもいない。刀が弾力で押し返された。


 トカゲが後方に飛んで距離を空けた。トカゲは首を軽く振る。痛みは感じている。だが、傷にはなっていない。どういう仕組みかわからないが、トカゲの皮は天然の鎧の役目をしている。

「俺の刀は鈍らではないんだけどね」


 力の二段階解放なら倒せるが、毒を吐く相手には死神視点になるとまずい。毒息を吐かれた場合に、気付かずに吸い込む恐れがある。


 馬場は刀を構える。狙うは目。トカゲが再度、跳び掛かってきた。狙ってトカゲの目を突いた。トカゲの目に深々と刀が刺さる。トカゲは、のたうちまわりそうだった。トカゲから刀を抜いて後退する。トカゲは少しの間、バタバタと動いたが、動きを止めた。


 傷が脳に達したらしい。ここで、馬場はこの戦いを見ている何者かの視線を感じた。戦いはまだ終わっていない。

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